第30節 -千年と一日-

 一行はリナリア島においての五日間にわたる調査及び島周辺での怪現象の解決を果たし本部への帰投を開始していた。ヘリの離陸後は目標地点を北大西洋のセントラル1と入力し、マニュアル操縦からオート操縦にて切り替えて現在航行中である。


― マークתよりセントラル1へ。目標での調査任務を完了した。これより帰投する。


 ブライアンのはっきりした声がヘリで響く。島へ到着する前よりも明らかに疲労が入り交ざった声だが、それでも堂々とした頼もしい声だ。すぐに北大西洋へ展開中の本部「マルクト」より音声通信による返答が来た。


― こちらセントラル1、マークתへ。了解しました。通信状況が不安定になったときは心配しましたが問題なかったようですね。そして素晴らしい成果です。こちらからも異常の消失を確認。当該の島の観測が可能になっています。それにしても、まさか ”たった一日で” 調査を完了して解決するとは!さすが我らのエースが揃う隊。さて、その位置からだと到着予定時刻は日没後になるでしょう。この時期の気象は穏やかではありますが、くれぐれも道中お気を付けて。


 なんだって? セントラルの通信管制の声にヘリの中の全員が声も無く顔を見合わせた。

 この島へ到着してから自分たちは確かに ”五日間” ほど島に滞在したはずだ。しかしたった今、通信管制は ”一日” と言った。時間の経過に明らかな矛盾が生じている。

 誰もが動揺を浮かべたその時、どこからともなく花の甘い香りが周囲に漂った。そして誰も操作していないはずのヘルメスから石碑を解読した際のデータがホログラムで四人の前に表示される。


“ 誓いをもってこの地を去る者達は 私が愛すべき光である ”

“ 微睡みより引き上げられし者と その光にとって ”

“ 刻の流れは永久に等しく同じである ”


 夕日がヘリの内部へ差し込んだ時、玲那斗の傍に穏やかな笑みを浮かべて佇む銀髪の少女の姿を照らし出された。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る