第17節 -少女の想い-

 レナト、貴方は本当に優しい人。

 塔のバルコニーで少女はネックレスを両手で握りながら先ほどの邂逅について考えていた。

 間違いなく彼だ。レナトは “彼の中にいる。” 長きに渡る祈りが届いた。でもまだ今の彼は私の知っている彼を思い出している様子では無い。動揺を浮かべたあの瞳を見れば分かる。私の姿を見ても反応が無いという事は “まだ思い出せていない” という事なのだろう。それとも、私の姿が別のものに見えてしまっているのだろうか。少し不安を覚えたが、そんな事はないだろうとすぐに思い直した。


「千年ぶりの再会は、もう少し後になりそうね。」少女は小声で呟く。


 彼の中には間違いなく自身が愛した人の記憶がある。直接話をしてそれを確信した。けれどその記憶を “今” 彼の中に呼び起こさせる事はしなかったらしい。

「貴方はいつだってそう。大切なものを守る為に自分の気持ちを隠して、遠慮して。」そう呟きながら自然と口元が緩む。焦る事は無い。彼がこの島にいる限り機会は必ず訪れる。

 彼らは気付いてくれている。自身が気付いてほしいと思っている事に。今はそれだけで充分。

 この後、彼は先程の自分との邂逅を仲間に話してくれるだろう。そこで私の存在を彼らにも伝えてくれるはずである。その為にわざと自分の痕跡も残すことにした。急ぐことは無い。自分は千年もの間待ち続けたのだ。


“ 微睡みに沈みゆく者にとって 刻の流れは永久に等しく同じである ”


 逸る気持ちが無いと言えば嘘になる。焦がれた人を目の前にした心の激動が消える事はない。今この瞬間も、両手でネックレスを握っていなければ抑えきれないほどの感情が湧き上がってくる。それでも…

 思いを巡らせている中で四人が集まって話を始める様子がふと見えた。

「…少しだけ。話を聞きに行こうかしら。」

 そう呟いた少女は彼らの方へ視線を向けて静かに微笑んだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る