第28話 真坂野勇者の潜在能力

 しばらくして、ルチアが簡易帳票を印刷して持ってきた。それだと、正確なことは表示されないみたい。俺が見ても、たしかに異常だった。


「なになに。潜在HPは0.439E+13。どういうこと?」


 どの潜在能力も、これと全く同じ数値だった。その値があまりにも突飛過ぎて、HPが何を意味しているのかを確認しなかった。何となくで伝わるから。


「とりあえず、13桁の数ということになります」

「あくまでこれは、潜在能力だけどね……。」


 13桁だって? きっと凄いんだろうな! 異世界の能力値の相場がはっきりと分かるわけではない。普通は8桁もないんだと思う。だって帳票には、8桁までの数しか示せないのだから。そこのところをはっきりさせたくって、俺はルチアに聞いた。その答えは、予想通りだった。


「3桁あれば、スライム王に単独で楽勝できます」

「1000で国士無双級ってところね!」


 スライム王がどれほどのものか分からない。けど、国士無双級っていうカホウの説明からすると、かなり強いってことだろう。

 他にも色々と聞いたら、ルチアが丁寧に教えてくれた。まず、この世界にいるモンスターは3種類。スライム・魔人・魔神だ。そして、それぞれが一般・1匹(人・柱)・王・大王という4つのクラスに分かれている。


「1番弱いのがスライム一般、強いのが大王魔神ということか」


 ルチアは頷いたあと、それぞれの強さを教えてくれた。

 まず、スライム一般。これは1桁の能力で楽勝。ただし、群れをなしていることが多く、4・5匹の群れを倒すには、10を超える能力が必要なこともある。20匹くらいの大群ともなると、討伐するのに必要な能力が80を超えることもあるらしい。

 次に弱い1匹スライムというのは、スライム一般が数匹合体したもので、身体もひとまわり大きい。それを倒すには、2桁あれば余裕。けどこいつも稀に群れを作ることがあり、そうなると3桁の能力を要する。大群だと、800超。でも1匹スライムの群れって、名前的にどうなんだろう。

 そのあとも、魔物のクラスや種類が上がると、倒すのに必要な能力が1桁ずつ増える。1番強い大王魔神だと、12桁の能力が必要ってこと。けど、それはあくまで推定値であり、本当のことはルチアにもよく分からないらしい……。


「特に魔神については、分からないことが多いんです」


 ルチアは、魔神のこととなると顔を引きつらせてしまう。口にするのも恐ろしいんだろう。やっと聞き出した情報に、俺も納得。9桁の能力を誇る魔神一般に単独で立ち向かい勝利した人は、史上1人しか存在しない。それほど、魔神一般は強いってこと。塞ぎ込むルチアの代わりに元気付いたのがカホウで、誇らしげに言った。


「かつて単独で魔神一般に勝利したのは、建国の勇者ホワイト・ブランド王よ!」

「ホワイト……ブランド……。」


 俺はおうむ返しに言った。ブランドって、カホウのファミリーネームじゃないのか。カホウって王族なのかな? 聞いてみたいけど、聞き辛いからあとにしよう。そう思っていると、あいくる椎名がまるで俺の代わりというように聞いてくれた。


「ねぇ。カホウちんって、王様の家族なの?」

「へぇっ?」


 カホウは、狐につままれたようにびっくりしていた。否定も肯定もしなかったけど。ルチアもなぜか慌てていて、吃りながら指摘をした。


「そっ、それよりも! 肝心なのは、こっ、この顕在能力……。」


 ルチアの言うのが急だったからおかしく思いながらも、俺はふと、帳票の下の方に目をやった。すると、ルチアの指摘が的を射ているのが分かった。だから俺は、カホウの実家のことについて、これ以上聞くことができなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る