第17話

「お腹一杯食べていいんだよ。

 遠慮する事ないんだよ」


 エイマが上目遣いでこちらを見ている。

 まだ心の傷が癒えていないのだろう。

 百婆ちゃんもヘルミも時間が必要だと言っている。

 日本にいたときのニュースを思いだすと、そうなのだろうと思う。

 思うが、直ぐに何とかしてあげたいと思ってしまう。


「俺は出ているから、ゆっくりと食べな」


 俺はエイマが安心して食べられるように、家から出ていった。

 出ていった後で、置いて行った肉とパンに向かうように気配が動いた。

 とても寂しい、助けてあげたのに信用されていない。

 上から目線だと言われてしまうかもしれないが、俺は命の恩人だ。

 命の恩人なのに怖がられ信じてもらえない。

 哀し過ぎるじゃないか!


「ふぇふぇふぇふぇ。

 エイマは人間全てが怖いのよ!

 男というだけで怖いのだ!

 目の前で抵抗した父と兄が殺され、母と姉はわしらが来る前にどこかに連れさられて行った。

 人間が信じられず、男というだけで怖い。

 そういう心の傷は一生付き纏うのじゃ。

 今風の言葉ではPTSD、心的外傷後ストレス障害というのじゃな。

 それと向き合えないというのなら、村の復興など考えない方がいい。

 いや、モノだけ分け与えて自己満足すればいい。

 この世界は厳しのじゃ。

 助けた者や信じた者に裏切られるなど日常茶飯事じゃ。

 それでも心が折れる事無く手助けできるのでなければ、この世界でポンランティアなど考えるんじゃない」


 百婆ちゃんが異世界に来て初めて厳しい言葉を吐いた。

 一瞬反発したい気持ちになったが、グッと我慢した。

 じっくりと考えれば、エイマの怖がる顔を思いだせば、反論などできない。

 俺のような子供にできる事など限られている。

 現に今回の件だって、この村に直ぐに戻って助ける事だけを考えていた。

 攫われて売られた者がいる事に思い至らなかった。


 人生経験の差だと言えばそれまでだが、助けるというのなら、取りあえず命の危機から救いたした村人よりも、奴隷に売られた人を助けに行くべきだったのだ。

 それを指摘されて、顔から火が出るほど恥ずかしかった。

 何も分かっておらず、目先の自己満足で助ける助けると言っていた、自分が恥ずかしかった。


 いまヘルミさんが、盗賊達から聞きだした村人の売り先を訪ねてくれている。

 闘蜂を売った大金と武力を背景に、強気で女衒や買収宿と交渉するという。

 一人で大丈夫かと心配する俺に、必要なら皆殺しにするから大丈夫と笑っていた。

 心底強くなりたいと思った。

 単に武力の強さだけでなく、心も強くなりたいと思った。

 まずはエイマの態度に心折れないことだ!

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る