第7話

 俺の期待と欲望は、百婆ちゃんによって完膚なきまで叩き潰された。

 ゴブリンを皆殺しにして、無事に街に帰ると、前言を翻しやがった。

 命の恩は命で返してくれと言い直しやがった。

 エルフのお姉さんも直ぐにそれに応じていた。

 さっきのは長生き二人組の、若造に対するエグイ冗談だったのだ。

 俺の純情を返せ!


「ふぇふぇふぇ。

 そう怒るな槍太。

 色事を覚えると、命が惜しくなって戦いの途中で逃げ出してしまうことがある。

 こっちの世界でそれをやると、肩を並べて戦っていた戦友が、今度は逆に敵になってしまうのじゃ。

 もう少し戦いに慣れて、こっちの習慣も覚えてから、それでもヘルミが好きなら、男の甲斐性で口説けばいい」


 百婆ちゃんに何を言われても、怒りが解消されるわけではないけれど、そのあとで交わされた百婆ちゃんとヘルミの会話に、それどころではなくなった。


「それにしてもヘルミ。

 お前ほどの猛者が、あの程度の相手の苦境に陥るとは、信じられないのだが?」


「今の私は実力の百分の一も発揮できないのよ。

 どっかの馬鹿が古代竜に挑んで返り討ちにあったのは自業自得なんだけど、それに怒った古代竜が暴れまわったの。

 たまたま近くの人間の国にいた私も巻き込まれちゃって、魔法もスキルも封じられちゃったのよ」


「ふむ、それにしても、基礎能力だけでもゴブリン程度なら軽く全滅させられたのではないのか?」


「味方に裏切られて、襲われている最中にゴブリンにも襲われたのよ」


「なんじゃ、あの場で死んでいた冒険者は、ヘルミを襲ってヘルミに殺された愚か者どもだったのか?」


「そう言う事なの。

 結構名の知れた実力派の冒険者チームだったんだけど、急におかしくなって襲いかかってきたのよ。

 しかも夕食に毒を混ぜて、私の自由を奪う念のいれようだったわ」


「だとしたら急にではなく、周到に用意したうえでの謀略だな。

 ヘルミには色々と秘密がありそうじゃな、ふぇふぇふぇ」


「私に秘密があったらどうするというの?」


「美女の秘密ほど男を奮起させ成長させるものはないからな。

 よろこべ、槍太!

 エルフ美女を助けられる好機じゃぞ。

 中二病が満たされるかもしれんぞ」


「ねえ、さっきから口にしているチュウニビョウて何のこと?」


「家の一族の男がかかる心の病じゃよ。

 ヘルミの邪魔になるどころか、助けになる病気じゃ」


「ふぅぅぅん、そうなの。

 それは何でもいいのだけど、さっき貸してくれた剣、これからも貸してもらえないかな?

 あれがあれば封じられている力を解放できるのよ」

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