第55話:ギャレミナの錬金術

 ギャレミナさんから詰め寄られると俺でも怖いからレイチェルが後退るのも分かる。


「ギャレミナさん、できればその場で話をしてもらってもいいですか?」

「なんじゃい、面白くないねえ」


 面白くないって……この人、わざとやってたな?


「まあいいよ。それよりも小娘、お主はドラゴンじゃな?」

「えっ!」


 そしてあっさりとレイチェルの秘密を言い当てちゃったよ。


「どうしてそう思うんですか?」

「ひひひっ! 儂の鼻をごまかせるものかい。小娘からはドラゴンの臭いがプンプンするよ!」


 ドラゴンの臭い? ……うーん、別に臭いなんてしないけどなぁ。


「……ちょっとアマカワ、女の子の匂いを嗅ぐなんて変態のすることよ?」

「……アマカワさん、酷い」

「いや、ちょっと待て! 謝るから、変態はやめてくれ!」

「ひひひっ! 本当に面白い小僧じゃのう!」

「ま、まあ、ギャレミナさんには分かるってことで納得しますよ!」


 これ以上は俺が墓穴を掘りそうなのでごまかすのは諦めよう。

 だが、レイチェルがドラゴンだからどうだというのか。


「ドラゴンの鱗、一枚くれんかのう?」

「ギャレミナさんもお金目当てですか?」

「何を言うか! 儂は純粋にドラゴンの鱗を使って錬金術が使えないかを試したいだけじゃわい!」


 め、めっちゃ怒られてしまった。

 だが、ギャレミナさんは珍しい素材が好きだと前回でリリアーナからは聞いていたので、確かに失言だったかも。


「それは失礼しました」

「分かればよろしい。それで、小娘の鱗を儂にくれんか?」

「ちょっとギャレミナさん! 無償で大事な鱗をあげられるわけないでしょう!」

「そ、そうです。私の鱗はそう簡単にあげられるものではありません!」


 ギルドでは何枚でも渡して構わないと言っていたのに、ここでは無理なようだ。

 まあ、ギャレミナさんにあげるとなると何に使われるか分かったもんじゃないしな。

 ……しかし、これはちょっとしたチャンスかもしれない。


「では、こういうのはどうでしょう」

「……なんじゃ、言うてみい」

「これは俺たちの依頼ではなく、ギャレミナさんの興味を満たすための、いわばお願いになるわけですよね。であるなら、その鱗を使って作られた道具を俺たちに無償でくれるというのはどうでしょうか?」

「何い! む、無償じゃと!?」


 俺の提案にはギャレミナさんだけでなく、リリアーナとレイチェルも驚いている。


「ギャレミナさんはドラゴンの鱗で錬金術を試してみたい。その鱗を俺たちは提供できるが錬金をしてほしいとは求めていない。だったら俺たちは断ることだってできるわけです」

「……確かにそうじゃ」

「なら、ギャレミナさんから俺たちに提供できるものは何かと考えた時、それは錬金術の技術ですよね」

「……」

「単にドラゴンの鱗で錬金をしてみたいという欲求を満たすだけなら、その道具を俺たちに無償で譲ってくれても構わないのではないですか?」


 これは俺たちにとって全く懐が痛まない提案であり、むしろ潤う可能性だって秘めている。

 提供できるレイチェルの鱗は実際のところ何枚でも渡していいと言っていた代物だからギャレミナさんが了承してくれれば渡しても構わないし、実は俺も持っている。戦闘時に落っこちていた鱗を拾って空間収納に入れているのだ。

 だからレイチェルが断ったとしても俺から提供できれば問題はない。

 そしてギャレミナさんが断ればそれまでで、俺たちはここを離れるだけだ。


「……小僧、お主は商人か?」

「れっきとした冒険者です」

「ふん! 儂に対してこのような条件を付きつけてきた奴は初めてじゃよ!」

「そうですか。それで、どうしますか? 断るか、ギャレミナさんの技術をドラゴンの鱗につぎ込んでみますか?」


 ギャレミナさんは腕を組み、何度も唸りながら考え込んでいる。

 レイチェルが少し不安そうに俺を見ていたので、優しく頭を撫でてあげると安心したようで笑みを浮かべてくれた。


「……いいじゃろう。その条件を飲んでやるわい」

「分かりました、ありがとうございます。では、少しだけ失礼しますね」


 俺はレイチェルを連れて壁際に移動する。

 鱗の件で俺も持っていることを伝えたのだが、レイチェルは首を横に振りこの場で鱗を手渡すと言ってきた。


「ギャレミナさんは誠意を示してくれた。なら、私も誠意を示すべきだわ」

「誠意っていうか、自分の欲求に正直なだけだと思うんだけどな」

「それでもよ。安心して、私は大丈夫だから」


 レイチェルとの話し合いも終わり、その場で右腕をドラゴンに変化させると鱗を一枚だけギャレミナさんへ手渡した。


「おぉ……おおっ! ま、まさか、暗黒竜だとは思わなんだ! ひーひひひっ! 小僧よ、楽しみに待っておれよ! これで儂の最高傑作を作り上げてやるわい!」

「助かる。それと、俺たちは明日からゼルジュラーダをしばらく離れるんですが、どれくらいでできそうですか?」

「……分からん」

「……えっ?」

「ドラゴンの鱗に錬金術を施すなど、夢のまた夢だったんじゃ。儂の技術全てをつぎ込むが、いつになるかは約束できん」


 へぇ、意外と殊勝なことを言うんだな。

 俺は少しだけギャレミナさんのことを勘違いしていたみたいだ。


「分かりました。では、出来上がり次第で構わないのでそのことを冒険者ギルドに伝言していただければ助かります」

「分かったよ。ひーひひひ、楽しみだねえ! しばらくは店を閉めないといけないねえ!」


 興奮するギャレミナさんに頭を下げて、俺たちはお店を後にした。

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