第42話:騒動

 アレッサさんのお店を出た俺たちはそのまま冒険者ギルドへ。

 すると、店内は昨日のように冒険者で溢れかえっているのだが雰囲気が少しおかしい。


「――なあなあ、本当にどうなっているんだ?」

「――森のどこを探しても魔獣はおろか動物も出てこないんだけどー?」

「――ギルドは何か情報を隠しているんじゃないの?」


 何やら冒険者たちが怒っているようだ。


「……他の冒険者からも声が上がっているというのは本当だったのね」

「どういうことだ?」

「冒険者は依頼をこなすだけじゃなくて、魔獣を討伐することで報酬を得ることができるわ。それは当然ながら生活をするために必要となる」

「……あぁ、なるほど。その生活のために狩らないといけない魔獣がどこを探してもいないから怒っているってことか。魔獣ってのは見つけにくいものなのか?」

「場所にもよるけど、近くの森ではそんなこと聞いたことがないわね。昨日も言ったけど、私は初めてだったわけだし」


 もしかしたら、推測通りにこの辺りに魔族が現れたのかもしれない。

 ゲルドックって魔獣も喰われていたみたいだし、これって犠牲になっている冒険者が出ていてもおかしくないんじゃないか?


「――た、大変だ! 仲間がやられた!」


 ……ほら、言わんこっちゃない。


「なんだ、魔獣か!」

「どこにいたの、私の獲物だからね!」

「ま、魔獣じゃない――ドラゴンだ!」


 ……ド、ドラゴンは予想外です、はい。


「突然風が吹いたと思ったら、頭上からゆっくりと下りてきやがった。……ま、真っ赤な瞳で睨まれて、俺たちは動けなくて……ブ、ブレスで、仲間が灰に!」

「……ドラゴンって、マジかよ」

「……そ、そんなの、倒せるわけないじゃないか」

「……ってか、なんでゼルジュラーダの近くでドラゴンなんか!」


 冒険者は口々に何やら喚いているが、今はそんな悠長にしている場合なのだろうか。


「ドラゴンって普通はいないのか?」

「……い、いないわね。これでも上級冒険者だけど、私も過去に一回しか見たことないわ」


 リリアーナで一回ってことは、相当珍しいってことだな。もしくは個体数自体が少ないとかか。

 ……って、待てよ。他の仲間はブレスで灰にって言ってたが、そのドラゴンはどうしたんだ? まさかほったらかしってわけじゃあ――


『——グルオオオオオオオオォォォォッ!』


 突然耳を劈くような恐ろしい咆哮が耳朶を震わせた。

 あまりの衝撃に窓がガタガタと揺れ、建物自体が揺れているように感じる。

 これは、確実にそうだろう。


「……あの冒険者は、泳がされた?」

「……かもしれないわね。ドラゴンは賢くて感覚も鋭いから、ゼルジュラーダに漂った勝てないという雰囲気を遠くから感じ取ったのかもしれないわ」

「それで今の咆哮か」


 恐怖に囚われた直後にあの咆哮を聞かされては、足が竦んでしまうのも致し方ないだろう。というか、普通ならそうなる。

 俺が見ている限りだと、ギルドにいるほとんどの冒険者がこのままでは動けないだろうな――隣の人以外は。


「全く、私が行かないといけないみたいね」

「行くのか、リリアーナ?」

「これでも上級冒険者だからね。まあ、勝てるかどうかは分からないけど」

「そっか。それじゃあ、行くか」

「……えっ?」


 えっ? って言われても、リリアーナが行くなら俺も行くに決まっているだろう。


「俺たちはバーティだろ? 一人だけ危険な目に遭わせるわけにはいかないだろう」

「いや、でも、アマカワは新人冒険者だし、危険過ぎるわよ」

「危険だからって理由があったとしても、俺の意見は変わらないよ。女の子一人でとか、ダメだろ」

「……お、おおおお、女の子!」

「間違ってないだろう?」

「……そ、そうね! そうよ、私は女の子! ……で、でも、今回は本当に危ないのよ?」


 おっ、今回はすぐに我に返ったみたいだな。


「危険は百も承知だ。まあ、色々とスキルはあるわけだし、多少の手助けはできると思うぜ」

「……そうか、あのスキルがあるか」

「何かいい作戦でも思いついたのか?」

「……あぁ。分かった、アマカワ。力を貸してくれる?」

「任せろ」


 本当なら炎袋と氷袋を受け取ってから向かいたかったが、今はさすがに無理だろう。お店自体が開いてないしな。

 今ある武器とスキルでやりくりするしかないと腹をくくった俺は、マリンさんに声を掛けるとそのまま走り出す。


「えっ! ア、アマカワさんも行くんですか? ちょっと、アマカワさーん!」


 呼び止める声も聞こえてきたが、俺は気にすることなくそのままギルドの外へ飛び出した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る