第21話:本格的なレベル上げ

 しかし、超一級品の鉱石がこうも簡単に採掘できていいのだろうか。

 俺の採掘スキルのレベルはまだ1なんだけどなぁ。


「……ん? もしかして、素材の良し悪しでも使い勝手が変わったりします?」

「それはそうだよ! アースレイロッグで作り出された装備なら、一つ上のランクになれると言っても過言じゃないわよ!」


 ということは、この採掘結果はつるはしに使ったアースレイロッグのピックのおかげってことになるのかな。


「これだけの量があったら、三ヶ月は遊んで暮らせるお金を稼げるわよ」

「そ、そんなにかよ。ってことは、やっぱり本格的にレベル上げを──」

「私も協力するわ、全力で!」


 ものすごい前のめりで協力を申し出てくれたので嬉しいのだが、さすがに近すぎる。


「ちょっとリリアーナ!」

「……!?!?!? ご、ごめんなさい!」

「……いや、俺はいいんだけどね、かわいい顔を近くで見られるから。でも、やっぱり恥ずかしいというか、なんというか……って、あれ、リリアーナ?」

「…………か、かかかか、かわいいって、そんなはっきりと、はわわわわっ!」


 えっと、リリアーナが壊れてしまった。

 ……とりあえず、レベル上げに向かうとするか。


「あー、俺はレベル上げをするけど、手伝ってくれる……でいいのか?」

「も、もちろんよ! 私の気配察知の範囲は伊達じゃないんだからね!」

「へぇ、そんなに広いんだな」


 俺も気配察知は使えるがそれなりの範囲しか察知できないし、リリアーナが気配察知をやってくれるならレベル上げも捗りそうだ。


「とりあえず、強そうな奴がいるところと、数が集まっているところと、どっちに行こうかしら?」

「そうだなぁ……数が集まっているところにしようかな」

「あれ? てっきり強そうな奴がいるところって言うと思ってたけど……まあいいわ、それじゃあこっちね」


 俺も最初は強そうな奴のところに行こうと思ったのだが、よくよく考えるとそちらは後回しにした方が都合が良いのだ。

 もし強そうな奴から高品質な素材を手に入れられるとしたら、空間収納を持っていない今だと諦めるしかないかもしれない。

 だが、後回にしておけばレベルが上がって素材を回収できる可能性が高くなるのだ。

 そのことを群れの方へ向かいながら説明すると、リリアーナも納得してくれた。


「しかし、あの短い時間でよくそこまで考えられるわね」

「目的が空間収納を習得することだからな。レベル上げが目的だったら、俺も真っ先に強い奴のところって言ってたと思うよ」


 エルフの森に人がほとんど入ってこないとしても、何が起こるかは分からない。

 他の誰かが先に狩るかもしれないし、そもそもそいつがその場から離れるかもしれない。

 多くの経験値を得られる奴がいるなら、真っ先にそこへ向かうのがセオリーなのだ。


 群れを成していたのはでか豚だった。

 その数は八匹おり、俺の気配察知では分からなかったことからもリリアーナの範囲が俺よりも格段に広いことが証明された。


「……しかし、八匹はさすがに多いな。ナイフ一本で倒せるかな」

「えっ、余裕じゃないの?」

「いや、これだけの数を一度に相手したことが今までないんだよ」

「オルトロスと戦えたんだから、こんな奴らなんて一分も掛からないわよ」

「……他人事だと思って」


 戦うのは俺なんだけどと思っていたのだが、リリアーナの表情は真剣そのものであり嘘を言っているようには見えない。


「……本当に、ナイフ一本でやれると思うか?」

「絶対に大丈夫」

「……そうか、分かった。リリアーナの言葉を信じるよ」

「もし何かあっても、私が絶対に助けるからね! まあ、そんなことは無いと思うけどさ」

「いや、もしそうなったらお願いするよ」


 苦笑いを浮かべながら、俺は一度深呼吸をしてナイフを鞘から抜く。

 今までは狩りの直前になると手に汗が滲んできたのだが、今回はそうはならなかった。

 むしろとても落ち着いているようにすら感じられる。


(八匹も前にして、不思議な感じだな)


 俺は視線をリリアーナに向ける。

 おそらく、リリアーナがいてくれるからこれだけ落ち着いていられるんだろう。

 ……おっと、見ていたのをリリアーナに気づかれちゃった。


「……それじゃあ、いくかな」

「……うん、いってらっしゃい」


 いってらっしゃい、かぁ。

 なんだか、久しぶりに聞く響きだな。

 毎日のように聞いていた言葉なのに、久しぶりに聞くととても嬉しい言葉だったんだな。

 これは、何事もなく戻ってくるしかない。そして、もう一つの言葉を交わすんだ。

 そして、俺は隠れていた茂みを飛び出してでか豚の群れに突っ込んでいった。


 ──結果からお伝えしよう。本当に一分もせずに仕留めてしまった、それもあっさりと。

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