極悪非道な異世界チート転生者を処理《殺害》するだけの簡単なお仕事です~転生トラブル解決課のプロフェッショナル~
浅見朝志(旧名:忍人参)
プロローグ
第1話 「恐縮ですが、死んでください」
大陸で
その最高評議会が本拠地とする議事堂で『テロ』が起こっていた。
建物の半分が竜巻でも通ったかのように崩れ落ち、残った半分からは黒煙が上がっていた。内部からは今も破壊音と爆発音が響き、戦闘が続いていることがうかがえる。
警備の人間の指示に従って逃げていた議事堂周辺の人々は、みな一様に『ありえない』といった表情を浮かべていた。
――いったいどうなっているんだ? あの議事堂には世界最強と名高い共和国の長、レオナルド・ゴルドーがいるはず。並大抵のテロリストごとき瞬殺だろう。それなのにどうして戦闘音はいまだ絶えず続いているのだ……?
人々が思う通りレオナルドは議事堂内、国策を決めるために評議員たちが集まり議論する場である大ホールにいた。
「はぁ……はぁ……ッ‼」
しかしそのレオナルドは今や
「ねぇwww そろそろ諦めたらwww?」
レオナルドのその姿を、正面から
それはひと目見る限りにおいては必要以上に脂肪を蓄えて髪の脂ぎった、ただの不潔な男だ。
その他に人影はない。この大ホールに『生きて』立っているのはその2人だけ。
本来そこで議論を交わしているはずの評議員たちはみな、すでにその男によって殺されていた。
「手も足も出ないのわかるでしょ、状況把握力クソなのwwwwwwwww?」
男は早口気味に言葉を発する。
「大人しくお前が持ってる『世界の鍵』を渡せってwwwwwwwww」
「クズめ……ッ‼ 貴様のような者に、この世界を委ねるわけにはいかぬッ‼」
レオナルドは手に力を込めて、聖剣を強く握り直した。
決してこれを、『世界の鍵』を渡すわけにはいかない理由があるのだ。
『世界の鍵』――それはこの世界が生まれた場所、『ファーストエデン』への道を開くものだと、レオナルドの家系に代々言い伝えられている秘宝中の秘宝であった。
その場所ではこの世界の在り方を変えることができると言われており、悪しき者の手に決して渡してはならないものだ。
その世界の鍵を目の前のこの男――自らの欲望のために評議員たちを皆殺しにするような人間にむざむざ渡す結果になってしまえばどうなることか。
レオナルドにとって、それはまったく考えたくもない事だった。
「さすが国長サマはカッコイイわーwww 『この世界を委ねるわけにはいかぬッ‼』だって、おっとこまえ~wwwwwwwww‼」
「貴様は――ここで死ねッ‼」
挑発を重ねる男へと、レオナルドは折れた聖剣を振りかぶり突貫する。
正面の男はそこに至ってもなお軽薄な笑みを隠すことはなく、片手をレオナルドへと向けて魔法の詠唱をする。
「――
「ぐぅ……ッ⁉」
男が起こした暴力的な風に、巨岩さえ動かすほどの勢いを乗せたレオナルドの踏み込みはたやすく止められてしまうが、しかし、
「まだだ……ッ!」
レオナルドは接近できないと判断すると、今度は聖剣を手放して両手を男に向けて掲げる。
「――
レオナルドの両の手のひらから火山が噴火を起こすかのような勢いで、紫電を帯びた炎の光線が放たれた。それは男に向かって一直線に
「へぇ、この世界の『純正な』人間にしてはやるじゃん国長サマwww 三属性融合の三重詠唱なんて魔法職専業の奴らの中でも天才と呼ばれる人間にしかできないんだろ? まあ、あくまでこの世界の基準では、だけどなwwwwwwwww」
特大の炎の一撃を目の前にしてなお、しかし男は口笛をひとつ吹いて余裕の姿勢を崩さない。男はゆらりと人差し指をレオナルドに向けると、
「
男の指から放たれたのも1つの光線だった。それはらせん状に9色の糸を絡めたような形をしており、男の目前に迫った三重詠唱魔法にぶつかるとたやすくそれを消し去った。
「なッ⁉」
自身の持つ最高位の魔法が破られたことにレオナルドは一瞬固まるが、なおも勢いを衰えさせずに迫る男の魔法を避けるために大きく横へと飛びのく。
だがしかし、それだけでは不十分だった。
レオナルドは直感的に顔と頭部を腕で覆うようにして庇う。
「――ッ⁉」
直後、レオナルドの身体は空中を高く舞った。その光線は決して彼に当たってはいない。かすりもしていない。身体から1メートルは離れた横の空間を貫いただけのはずだった。
しかしそれだけ離れていてなお、空間を逆巻かせるような衝撃波がレオナルドを襲って吹き飛ばしたのだ。彼が身に着けていた鋼鉄製の鎧は粉々に砕け散った。
そしてあり得ないほどの滞空時間を経てレオナルドの身体は議事堂の床へと背中から叩きつけられる。
「グハァッ‼ ガァ……ッ‼」
肺の空気が一気に抜けて、そして吐血した。もはや立つことも叶わないほどのダメージに苦悶の声がもれる。とっさに守りを固めた頭部はともかくとして、それ以外の全身にメイスで強く殴りつけられたような激痛が走っていた。
目をつむり痛みに堪えるレオナルドを、男はニタニタとした顔で嘲笑する。
「ぶはははっwwwwwwwww 無様スギィッwwwwwwwww‼」
男はレオナルドの倒れ伏したすぐそばに屈むと、その髪を引っ張り上げ、絶望色に染まるレオナルドの瞳を覗き込む。
「どうだよwwwwwwwww? 世界最強の魔法を喰らった感想はさwwwwwwwww? 言っとくがお前が死なない程度に手加減してやってんだからなwwwwwwwww? マジでやったら光線の周りに立ってるヤツらをもれなく全身ミンチにできる魔法なんだぜコレwwwwwwwww」
レオナルドはあまりの激痛に涙を滲ませながらも辛うじて目を開き、
「あ、あり得ん……ッ‼ 全属性結合魔法だと……ッ‼ そんなもの聞いたこともないッ‼」
「ぶはははっwwwwwwwww ナイス‼ ナイスリアクションwwwwwwwww‼」
「嘘だ……嘘に決まっている……ッ‼ 人が人である限り、9つの魔法の組み立てと結合を同時にできるわけがない……ッ‼」
「そうだよなぁwwwwwwwww 『普通の人間』ならそうだよなぁwwwwwwwww」
男はレオナルドの反応に痛く満足したのか、機嫌もよさそうにウンウンと大きく頷いた。
「そんじゃ、冥途の土産に教えてやるwww 俺はなぁ、『転生者』なんだよ。わかるか?」
「て、テンセイシャ……?」
「そう! この世ならざる異世界の記憶と能力を持って生まれてきた存在さっ‼」
目を見開くレオナルドに、さらに気を良くして男は続ける。
「俺がこの世界に転生してきて得た俺の能力は2つあってな、1つは『あらゆる属性の最高位の魔法を扱うことができる超位魔法適正』、もう1つは『10までの魔法演算を同時並行に行える超位演算能力』なんよ。
俺は9種類の魔法の構築処理をそれぞれに独立させた脳の演算領域で行って、さらに10個目の演算領域でその魔法全部を融合させることができるってワケwww
1つの脳みそで無理やり3つの魔法構築してるお前とはそもそもの前提性能がちげーのよ、チート性能でごめんねwwwwwwwww」
「演算……チート……? なんだそれは……貴様は、いったい何を言っているんだ……」
「ま、わかんねーならいいよwww」
自らを転生者だと語った男は嘲笑混じりの説明を終えるとレオナルドの身体を服の上から荒っぽく叩いて、
「お、これかwwwwwwwww」
とレオナルドの胸元にぶら下げられていたペンダントを引きちぎる。
そして男のその手にエメラルドグリーンに光る、長い年月の間ゴルドー家で受け継がれてきたにしては不思議なほど傷の少ない石造りの綺麗な鍵が握られた。
「これが世界の鍵か……いいねぇっ‼ ふぅっwwwwwwwww‼ 断然アガってきたわwwwwwwwww‼」
「か、返せ……ッ‼ 貴様は……
「うっせぇよwwwwwwwww」
男がレオナルドの身体を踏みつけにする。
「これから世界は俺を中心に回るんだ‼ まずは女だな、女。女ってヤツは人を見た目だけで判断するからな、教育が必要だろぉ? 世界の鍵を使って『この世で最も素晴らしい人間は俺だ』ってことを頭に刷り込むのさwww そんで世界中すべての美女を俺の元に集めて玩具にしてやるwwwwwwwww
次は金だ。俺が金を得るのに俺が働かなくちゃならない世界なんて俺の求めた異世界じゃねぇんだよ‼ 世界に生きる人間1人1人に『俺税』を課してやる‼ 毎月俺に1人、そうだな……1000ドグルでいい‼ 支払う義務を与えてやるんだ‼ たった1000ドグルだぜ? 優しいだろぉwww 毎月の税を払えなかった奴は身体が爆散するっていう物理法則をこの世界の原理に書き込んでやるんだwwwwwwwww」
男はそんな新世界を今から想像してか、陶然とした笑みを浮かべる。プヒプヒと詰まり気味の2つの鼻の穴から荒い息を吐き出された。
「このゴミクズが……ッ‼ 力をかさに着て、やることは愚か者の童貞の独りよがりか……‼」
レオナルドが唾を吐き捨てるようにして言った。
「あぁ……? テメェ今何つった?」
「フン……っ‼ 『この腐れ童貞が、地獄に落ちろ』と言ったのさ――ぐぅっ⁉」
男は憎々し気な目でレオナルドの顔面を踵で踏み潰すようにして蹴りまくる。
「負け犬の遠吠えとかよぉ、男の風上にも置けねぇなぁ‼ このカスがッ‼ ボケがッ‼」
頭を何度も地面に打ち据えられて、レオナルドは意識を手放した。
男は肩で息をしつつ、残酷な笑みを浮かべて、
「決めたぜ、お前はゆっくりと殺してやるよwww まずは、そうだなぁ……」
どんな拷問をしてやろうかと想像を働かせたその時だった。
「――失礼。アーク・エギルマ・バルディッシュ様で間違いございませんでしょうか?」
突然、この大ホールの空間全体へと異様によく響くテノールの声が聞こえた。
「――ッ⁉」
自身のフルネームを呼ばれた転生者の男――アークは驚きのままに声のした方へと勢いよく振り返った。
議事堂のこの大ホールに来るまでの間に建物内のあらかたの警備兵は殺していたはずで、まさかこの場に他の人間が現れるとは思ってもみなかったのだ。
そこにいたのは見る者に知的な印象を与えるシルバーフレームのメガネをかけ、モダンなダークスーツをきっちりと着こなした男だった。
「……てめぇ、誰だッ‼」
「私は日本輪廻生命保険会社営業部『転生トラブル解決課』の
霊治と名乗ったその男は口を動かしながら悠然とした足取りでアークへと向かって歩く。そして背中側へと手を回し、腰元から引き抜いたソレは、大振りの刃を黒光りさせるボウイナイフだった。
「――たいへん恐縮ではございますが、ここで死んでくださいますでしょうか?」
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