02 試合開始

 プレーヤーは三人ずつ。

 ピッチャーと、野手が二人。

 壁がキャッチャー代わり。当然捕球失敗による出塁はない。

 三角ベース。つまり一塁、二塁、本塁だ。

 長打は無効。つまりホームラン級の打撃であっても、進めるのは一塁ずつ。

 出塁中に打順が回ってきた場合、走者と一時交代して打席に立つ。

 現在昼休みで時間がないため、イニング数は一回のみ。


 ルールは理解した。

 だけど、一番大きな疑問がまったく晴れていない。


 なぜわたしたちまで、ここにいるのかということ。

 わたしと海子の二人が。


「よーし、やっるぞお。お前ら、本気出せよな」


 ショートボブの小さな女の子が、わくわくとした表情を隠さず、水平にしたバットを肘に絡ませ高く上げながら、腰を左右に捻っている。


 完全に、この子に巻き込まれた。

 発端が海子にあるとはいえ、ごめんなさいで済むはずだったのに。

 場所を譲れば済む話だったのに。

 もしわたしたちだけだったら、絶対にそうしていたのに。


「ハンデやろうか? 女だからな」


 男子の一人が、まるで漫画みたいにケケッと笑った。


「いらねえよ、そんなん。おんなじ土俵に立ってえ、ぶっ潰す!」


 女の子は、右拳を勢いよく前へ突き出すと、にっと笑みを浮かべてこちらへ振り向いた。


「な、お前ら」


 な、といわれても。

 どんな答えを期待しているんですか、あなたは。

 クラスで気の強さワーストワンツーである、最弱を誇るわたしたち二人に。


 わたしはまだ野球をやっていたという経験があるからいいけど、海子なんか一週間前までボールに触れたこともなかったというのに。


「じゃあ始めっぞお。プレイボール!」


 男子の一人が両腕を高く上げた。

 かくしてわたしの胸中など当然のごとくお構いなしで、試合が開始されたのだった。


 確かに試合をやりたいとは思っていたけどさあ……

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