第6話



 時間は、夜。店はすでに閉じていて、宿の宿泊者以外は建物内にいない。


 その宿泊者にしても、ほとんどが部屋にいるため、今食堂にいるのは義父と義母だけだ。

 二人は眉間に皺を寄せていたので、声をかけた。


「どうしたんだ?」


 俺が近づいて声をかける。

 義父と義母が難しい顔でこちらを見ていた。


「ああ、レリウス。それがな。201号室のベッドが硬いと不満をもらってしまってな。そろそろ、新しいベッドにしないとダメだと思ってな」

「……なるほど」

「ただ、それほどお金に余裕があるわけじゃないからどうしようかなって思ってね」


 二人は揃って息を吐いた。

 ベッド、か。

 そういえば、もう魔力だけで作成できるものだったな。


「それなら、俺が作ってみようか?」

「え? 作る? どういうことだ?」

「俺、鍛冶師だから。ベッドも作れるんだ」

「え……そうなのか? 鍛冶師って結構便利なんだな?」


 義父が頷いていたのだが、それを聞いていた義母が首を振った。


「ちょ、ちょっと待ってねレリウス。……鍛冶師って武器しか作れない職業じゃなかったっけ?」

「俺もそうだと思ってたけど、俺の持つ神器で壊したものなら作れるんだ」

「そうなんだ……そういうのもあるのね。それじゃあお願いしたいんだけど……どのくらいかかりそう?」

「今すぐできると思うけど」

「今すぐ!?」


 義母が驚いたような声をあげる。それには義父も目を見開いていた。

 ……何かおかしなこと言ったか?


「レリウス、どういうことなんだ?」

「作りたいものと同じものであれば、今すぐにでも作れると思うけど……」

「ちょ、ちょっと待ってくれ……本当に作れるのか?」

「あ、ああ」


 生産系の職業について詳しくないが、そういったものがすぐに作れる能力なんじゃないのだろうか?

 ひとまず、見せたほうが早いだろう。


 俺は近くにあった椅子をハンマーで壊してから、それと同じものを魔力で生産した。

 それを取り出して、その場に置くと、二人は目と口をパクパクと動かしていた。


「ど、どこにあったんだそれ!? そ、それに今どうやって作ったんだ!?」

「えーと、普通に作って、取り出しただけだけど」

「そ、そんなのありえないよ!? だって、普通こういったものって木を切ったりして作るものなんだよ!?」


 え、そうなのか?

 俺は実際にこういった家具が作られる場面を見たことがなかった。

 てっきり、職業を持っている人は誰でもこうやって作れるんだと思っていたんだけど。


「と、とにかく『鍛冶師』の能力が凄いってことはわかったよ。それならレリウス。今すぐ201号室のベッドを作ってもらってもいいか!?」

「ああ、わかった」


 首肯したあと、俺は201号室へと向かう。

 あとには義父もついてきていた。

 子どものような無邪気な表情だ。


 俺が部屋に入ってから、問題のベッドへと向かう。

 その上に座ってみると、確かに堅い。


 おまけに、ベッドの足がもろくなっているのか、想像以上に沈む。

 少し動くだけでぎちぎちと嫌な音がした。

 マットレスも含めて、すべて作り直してしまったほうがいいだろう。


「さすがにもう寝にくいかもしれないよな?」

「うん。このベッドだと確かにそろそろ限界だったかも、ちょっと待ってて」


 俺は一度ベッドを破壊してから、それを素材として回収する。

 その後、ベッドを作り上げるために魔力をこめる。


 最近わかったのは、魔力の量で生産するもののランクがあがるということだ。

 いつも以上に魔力をこめてみると、Sランクのベッドが出来上がった。


 それをもともとあった場所に置いた。

 あんぐりと義父がこちらを見ていた。

 

「ほ、本当に一瞬でできるんだな……」

「これで、どうだ?」

「……なんだこれは!?」


 ダメだっただろうか? 義父がベッドに乗って何度か体を揺らしていた。


「す、凄いふかふかだぞ! 他の部屋のベッドとは比べ物にならない!」

「そっか。それならよかった」

「こ、こんなベッド、うちの宿屋で扱うようなものじゃないぞ!? もっと高級な宿に置かれていてもおかしくないようなものだ! 凄いなレリウス! ありがとう!」

「力になれたみたいでよかった」


 二人には色々とお世話になっている。

 

「よかったら、時間を見つけて他の部屋の家具も作り直していこうか? 魔力を消費するから、一気にってのは無理だけど……」


 この家に返せる恩といえばそのくらいしかないだろう。

 義父が目を輝かせて頷いた。


「やってくれるのならありがたい! 暇なときにでいいから、やってくれ!」

「ああ、わかった」


 熟練度稼ぎにもなるしな。

 ひとまず、201号室のものを作り直してから、俺は部屋に戻った。


 『鍛冶師』。

 確かに戦闘向きの職業ではなさそうだが、日常生活を送る上では悪くないのかもしれない。

 

 この『鍛冶師』には作製できないものは今のところ見つかっていない。

 レベルが足りずに作製できないものはある。

 ただ、それ以外で作れないものはない。


 例えば、そこにある本などもそうだ。

 魔力を用いれば、完全な複製が可能だ。


 ……魔石だってそうだ。

 ただ、これは今のレベルでは足りないようだが。


 レベル6から先のレベルでは武器が増えていくのかもしれない。

 そうなると、素材を回収してもう一度同じものを作るというのはできないだろう。


 今後は素材も確保しておく必要がある。

 ……魔石を買うにはお金もかかるだろう。

 仕事を手伝っているため、いくらかお金はもらっているが、それにしたって大量の道具を買う余裕はない。


 お金お金……どうしようか。

 いっそのことお金も複製できればいいのにな、と思ってみてみると、現時点では作成不可能と表示された。


 ……いや、できちゃうのかよ。

 さすがにそれはまずいだろう。あとでばれたときが怖いので、お金だけは複製しないと決めた。


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