衿瀬涼子の使徒紀行・・・異世界ヘルザは甘い世界ではなかった!!・・・旧題『エルフっ娘の異世界ハッピーツアー』

いなば

はじまり

第1話 始まり

衿瀬 涼子(えりせ りょうこ)、これがこのお話の主人公の名前である。


とはいっても異世界転生物であり、あちらの世界ではもうこの名前を使うことはないので、この名前が出てくるのは、この最初だけであってもう二度と出てこないと思う。


無駄な話である。


それはまあいいとして、この主人公の人となりの解説から始めるのが妥当だと思う。


彼女はどういう人であったか。

一言で言うと・・・、ネット小説で異世界物語を読もうとしている読者諸氏にとっては興味を引くような人物ではない。なぜなら萌える要素なんぞ全くない人物だからである。


積極的な性格、現実社会の中を上手にさばける秀才、つまり絵に描いたような優等生であるが、容姿は十人並みというかそもそも外見に関心もなく、言動も可愛げのないただの理系女子なのだ。


で、優秀な成績でもって学業を修め、将来有望で期待溢れる新人として大手のIT 系会社に就職した。

人生の始まりからしてかくのごとしであるので、自信に満ち溢れた現実主義者であり、エネルギッシュで活動的な人物であることは言うまでもない。

敢えて欠点を探すならば、体の動きが鈍臭く、いわゆる運動音痴であったことぐらいであろうか。


彼女には創業という夢があった。


結婚にも関心を示さず、30才台早々にして前々から温めていたアイデアを実行すべく会社を飛び出し、自身で小さな会社を始める。

もとより緻密な計画を立てていたので、初期の成功を重ねていくのは当然である。

やがてその業界では少しは名も知られ、仲間:従業員も10人を超えるほどの会社となってた。


それなりに成功を収めたといえる。

しかし、成功と言っても事業としてはまだ始まりの終わりぐらいである。


ここからが大変なのだ。


そして、彼女は頑張る。ただひたすらに突っ走る。


そうなると、彼女の”仲間”、要するに社員であるが、彼らの能力不足にいら立つようになってきた。


特に会社のNo2である副社長は、創業いらい2人3脚でやってきた相手であるが、彼の無能ぶりが目に付いてきたのだ。

”この様にしなさいよ”、”決してああしてはいけないの”、あらかじめキッチリと教えていたのに、”俺には俺の考えがある”とか言って、初めからわかりきっていた落とし穴にわざわざ落ちてしまうという失敗をして見せる。

しかも、”その責任は自分にはない”と平気で言い張るのであるから、始末に負えない。


「このムノ~!ハゲ~!クソオヤジ~!」

他の社員が見守る中で、怒りに任せて怒鳴りつけ、ハンガーでバシバシとしばきまくる。


そんな事がしばしば起こるようになった。


トップの2人が仲たがいをさらけ出すという、会社としてはいささかマズい事態になってきたのだが、事業の成功そのものしか見えていない主人公はそのことに気が付くこともなく、ただひたすらに突っ走るばかりである。


と、ここまで来ると、次が落とし穴に嵌ってザマァ~となるのが、ノベルの定石というものである。


そう、足をすくわれるのである。会社を乗っ取られてしまうのだ。


誰に?


彼女の一番古くからの相棒として2人3脚でここまで一緒にやってきたが、そろそろ処分する必要があるかなと考えていた無能の副社長に、逆に乗っ取られてしまったのだ。


「あっあんた、そんな事してこの会社が持つと思ってるの!みんなが納得すると思ってんの!」


「社長、これは自分の考えだけじゃないです、他のメンバーも同意のうえです。みんなは、もう社長についていけないと。」


13人の他の社員たちはうなだれたままこちらを見ようとしない・・・。


絶句してしまう。

確かに業務はきつかったと思う。しかし、ちゃんとリターンはあったはずだ。もうけを独り占めしていたわけでなく、給料は仕事に応じて気前よく出していた。

みんなの会社だと思うから、株だって分けていた。いやそれが裏目に出たのか。


私が作り、私が引っ張てきた会社なのに・・・。みんなはそれを認めていなかった。寄生虫のような副社長の方について行ってしまった・・・。


がっくりと来て、やる気がいっぺんに崩れてしまい、何もかもいやになってしまう。


これはトラウマになるに違いない。

「もう、勝手にすればいいわ・・・。私、もう知らない!」


・・・・・・


会社を乗っ取られたからといって、金もなくなったというわけではない。残りの持ち株を銀行に売り払い、自分名義のパテントを会社に売り払う。これで結構な財産になる。そうそう金の心配は必要なかろう。


ただ、これで新たな人生のスタートを切れるかというと、そうはいかない。人間不信の塊となるのは当然であり、やがてその矛先が自分自身に向く。


なぜ、自分は裏切られたのか・・・。マンションの一室に籠り、答えのない自問自答を繰り返している。

無能の人である我らからしたら、まことにもって、ザマァ~というものであるが・・・。


そんな日々を悶々と送っているうちに、終に体の不調を来す様になってしまった。多分、神経科とか心療内科かそんなところだと思って、診察を受けると。


「血液検査の結果ですが・・・、白血病ということがわかりました。」


・・・。


そのまま、大病院に入院。

半月後には病室の天井から自分の遺体を見下ろしていたのである。そして、視野は病室をすり抜けていき、彼女はあの世へと旅立っていった、のであった~。


南無阿弥陀仏、ナ~ンマ~ンダ~

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