お菓子対決(3)

 エミリーたち3人は、昼食が終わり、会場に行くと。驚いた3人。それもそのはず、たくさんの観客が客席を埋め尽くしていた。

 エミリーは、オープンキッチンに立ち。中央のステージの後ろには、審査員4人が椅子に座り。この審査員は、城の料理人。そして、中央には王の椅子には、王が座り。エミリーは王を凝視するかのように見ている。その様子を少し離れたステージの隅で椅子に座り見ている、背丈を小さくしたクッキーとメアリー。


 いよいよお菓子対決が始まる。双方、対戦相手が揃い。午後1時となり、お菓子対決始まる合図が鳴った。

 すると、進行役の家来がステージ中央に立ち。

「皆様、静粛にお願いします……。今から王様の挨拶があります。静粛にお願いします」

 王は椅子から立ち上がると。観客は静まり。王の挨拶が始まった。

「皆の者、今日はこの対決に集まっていただき感謝する……。本日、お城専属のお菓子職人を決めることになり。このお菓子対決の勝者には、お城専属の料理人兼お菓子職人として召し抱えることになった。皆の者にその対決を見てもらい。対決終了後には、勝者の作ったお菓子を好きなだけ食べて帰ってもらいたい」

 王の挨拶に、観客は大喜びで盛り上り。そこへ、進行役の家来がこの対決の説明をし。

「これより、双方の食べ比べを始める。双方の1名、中央のステージまでお越しください」

 店主は中央のステージに行き。エミリーも中央のステージ行くが、王が気になっている様子。


 双方、中央のステージに集まり。進行役の家来が1回戦のメニューを発表した。

 1回戦のメニューは、ドーナツ。プレーンドーナツと他に2種類のドーナツを作る。制限時間は1時間。作業開始の合図が鳴った。

 すると、店主がエミリーを見て。

「私の得意なドーナツで勝負か? 面白い。お嬢ちゃん。私に勝てるかな?」

 勝ち誇ったかのようなに鼻高々に笑う店主。

 双方、オープンキッチンに戻り。ドーナツ作りを開始した。


 ところが、作業開始から、2分経ち。エミリーはキッチンの前に立ち、動かない。

 その様子を見ていたメアリーは、エミリーの視線の先を見ると。王をジッと見ている。お菓子専門店を相手にして、何故王を見ているのか。

 メアリーはこの光景を見てハッとした。エミリーは、お菓子専門店と戦っているのではない、王様と戦っている。王様は前王様を見捨てた。そんな王様に負けたくない、そんな想いにすり替わり、自分を見失っている。そのうえ前王様の新しいレシピ。これでは、美味しいお菓子なんて作れるはずがない、エミリーは負ける。

 思わずメアリーは椅子から立ち上がり、エミリーに声をかけた。

「エミリー! どうしたの!? 早く作らないと!」

 すると、近くにいた家来が。

「そこの者、静かに! 失格になってもいいのか?」

 メアリーは口を噤み椅子に座った。対決ルールとして急遽、声かけはアドバイスとして禁止になっていた。


 その時、やっとエミリーの手が動き出し。

「王様なんかに負けてたまるもんですか!? 私は負けないからね!」

 何か自分に言い聞かせるように独り言い、エミリーはドーナツを作り始めた。

 双方、手際の良さは互角ようだが。店主の方は、余裕の表情を見せている。


 作業開始から1時間経ち。1回戦の終了の合図がなり。

「双方、それまで! ステージの中央まで来てください。まずは、お菓子専門店様の方からお願いします」

 テーブルに載せられた5皿分のドーナツを家来が審査員の方に運び。ドーナツが載った皿をテーブルに配り。皿に上には、プレーンドーナツ、チョコレートドーナツ、苺ドーナツが載っており。審査員4名は食べ始め。

「この間、この店のお菓子を食べたが、中々の出来栄え。見たこともない食べ物だけに、驚きましたな!?」

「そうですね」

「これは美味しい……。この間よりも数段美味しくなっている」

「本当ですね!」

「この上にかかっている、チョコレートは甘さを抑えていて、美味しですね!」

 お菓子専門店のドーナツを絶賛する審査員たち。


 次は、エミリーの番。偶然にもお菓子専門店と同じ種類ドーナツ。

 審査員たちはエミリーの作ったドーナツを食べ。審査員皆口を揃え、この味ではダメだと言い。王は、店主とエミリーのドーナツを食べたが、何も評価はしない。そして、この勝負の結果は。


 審査員4名は、赤札を挙げ。王は何を考えているか、どちらの札も挙げずに、勝負が決まり。この勝負、お菓子専門店の勝ち。会場は、お菓子専門店が勝ちに、大盛り上がり。


 店主は、勝って当たり前という表情でエミリーを見て。

「誰が世界一だって? 笑わせるな!」

 捨て台詞を吐き、オープンキッチンに戻り。

 負けたエミリーは、自分がどうして負けたのかわからず。また王を見て、オープンキッチンに戻った。


 1回戦が終わり。お菓子専門店、1勝。異国のお菓子職人、1敗。

 2回戦のメニューは、プリン。制限時間は1時間。作業開始の合図が鳴った。


 クッキーはステージの隅で椅子に座り、エミリーを見て心配している。なんであんなに怖い顔してお菓子を作るのか、ちっとも楽しそうじゃない、いつものエミリーではない。あの5日間もそうだった。なんか悲しくなるクッキーだが、エミリーを見守っている。

 その隣に座るメアリーは、何であのことに気づかない、どうして気づかないと思っていると。


 エミリーは、 メアリーとクッキーが絶賛したプリンで負けた。


 審査員4名は、赤札を挙げ。王は何を考えているか、2回戦目もどちらの札も挙げずに、勝負が決まり。この勝負、お菓子専門店の勝ち。会場は、お菓子専門店が勝ちに、またしても大盛り上がり。双方、オープンキッチンに戻り。

 店主はこの勝負に歯ごたえのなさにあきれ、ストレート勝ちを確信していた。しかし、何故、王は札を挙げないのか気になっていた。


 2回戦が終わり。お菓子専門店、2勝。異国のお菓子職人、2敗。

 進行役の家来より、ここで10分間の休憩を告げられ。3回戦のメニューは、ケーキ。制限時間は1時間30分。


 あとがなくなったエミリー。このまま行けば確実に負ける。

 3回戦はケーキ。エミリーは、ケーキが選ばれたら、チョコレートケーキを作る予定だった。スポンジケーキに苺のムースをサンドし。周りにスライスした苺をちりばめ。その上から光沢のあるチョコレートをかける。

 しかし、負けた敗因がわからないまま、先に進めなくなっているエミリーは、このまま終わってしまうのか。


 休憩と同時に、メアリーとクッキーは、エミリーに駆け寄り。エミリーは、その場に座り込み。今にも泣きだしそう。

「メアリー、教えて!? なんで私は負けたの? わかんないよ。もう王様には勝てない。どうしたらいいの!? 教えて!?」

 そんなエミリーを見てメアリーは、このままでは王様に吞みこまれてしまうと思い。

「エミリー。あなた、泣かないって言ったよね!?」

「……」

「なんでわからないかなー!? 自分が負けた敗因……。いいわ、私が教えてあげる。泣いたら怒るからね! エミリーはもう作らなくていいから、あの椅子に座って見てなさい!」

「えっ!? メアリーが作るの!?」

「今のあなたは、誰1人として勝てない。私にも勝てない。いいから見てなさい!」

「王様に勝てるわけないよー」

「クッキー、あんなほっといてケーキ作るよ」

「エミリーが可愛そうだよ」

「そう思うなら、一緒にケーキ作ろう!?」

「ケーキを作れば、エミリーが元気になるの?」

「そうよ。私達がエミリーの目を覚ましてあげましょう? エミリーは天才なんだから。そうでしょう!?」

「そうだよね」

「とびっきり美味しケーキ、エミリーに食べさしてあげようね!」

「わかった」


 メアリーは、突然走り出し、王の前に行き、ひざまずき。エミリーとの交代を願い出た。

 すると、王はすんなりと承諾し。その光景を見ていた店主は、勝ち誇った態度で。

「私の方は一向に構わない。誰が相手でも負ける気がしないからな」

 メアリーにはそんな声など届かない。メアリーはエミリーの為にケーキを作る、それだけに集中していた。


 10分間の休憩が終わり。ステージの隅でエミリーは椅子に座り。もはや、何故ここに入るのかさえもわからない状態。

 そんな中、メアリーとクッキーを見ていると。勝負などどうでもいいように見える。何故なら、なんか楽しそうにケーキを作っている。ちょっともめると時もあるが。この2人、まるで長年コンビを組んでいるかのように、息がピタリと合っている。


 1時間30分経ち。3回戦の終了の合図がなり。メアリーたちは、時間内ケーキを作り上げた。そのケーキは、エミリーが作る予定だった、チョコレートケーキ。しかし、どことなく美しさにかけているような。


 ところが、審査員3名は、見てくれよりも味に、白札を挙げ。お菓子専門店の赤札は1人。メアリーとクッキーが勝った。

 だが、王はどちらにも札を挙げない、ケーキは食べているのに。これはいったいどういうことなのか。


 メアリーとクッキーは勝ったことに驚き、喜んでいる。しかし、以前、崖っぷち状態には変わりはない。

 一方、店主は負けたのにもかかわらず平然とし余裕の態度。


 3回戦が終わり。お菓子専門店、2勝1敗。異国のお菓子職人、1勝2敗。

 4回戦のメニューは、シュークリーム。2種類のシュークリームを作る。制限時間は1時間。作業開始の合図が鳴った。


 メアリーとクッキーが作るシュークリームは、エミリーのツインシューとメアリーとクッキーのオリジナルシュークリーム。


 1時間経ち。4回戦の終了の合図がなり。この4回戦でお菓子専門店が勝てば、エミリーたちの敗北が決定し。前王を見つけだすことはできなくなり。エミリーは王の言いなりになる。


 双方の食べ比べが始まり。雲行きが怪しくなってきた。優勢だったお菓子専門店の味に、何かを感じている審査員たち。その反面、メアリーとクッキーの味に。4回戦の結果は。

 審査員4名が、白札を挙げ。メアリーとクッキーが勝った。

 しかし、いまだに王はどちらにも札を挙げていない。いったい何を考えているのか。不気味に思える。

 

 4回戦が終わり。お菓子専門店、2勝2敗。異国のお菓子職人、2勝2敗。

 2連勝したメアリーとクッキー。この勢いのまま、この対決に勝利することができるのか。残るは、あと1回戦。この勝負で全てが決まる。


 ここで店主は一変し、あの余裕の態度はなくなり、焦りを見せ始め。何故、王は札を挙げないのか、そのことばかり考えていた。

 エミリーはというと。あの2人が勝ったのにも関わらず。いまだ負けた敗因がわからず、うつむいたまま。まるで抜け殻のように。

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