弓道の描写と、無料通話アプリのメッセージ機能を介した恋愛描写に注目

 作品タイトルの28メートルとは、弓道における的までの距離ですね。この距離と、年頃の男女の距離感をダブルミーニングにしたわけです。

 なぜ私が距離感に注目したかといえば、この作者の持ち味が「くっつきそうでくっつかない、もどかしい恋愛描写」にあるからです。しかも現代の若者らしく、無料通話アプリのメッセージ機能によって、既読がついたかつかないか、そもそも返信はくるかどうかで悶えることになります。

 世代によって、文章交流に使っていた技術が違いますが、基本的なポイントは一緒なはずです。

 シルバー世代の人は恋文でやっていたでしょうから、お手紙の返信がくるかどうかに悶えていたはずです。

 eメールが登場してからは、メールの返信にドギマギしたこともあるでしょう。

 いつしか無料通話アプリなどの、瞬間的に短文を送ることに最適化したサービスがメインになったことで、より既読ないし返信の価値が上がることになりました。なぜ価値が上がったかというと、リアクションをお手軽に返せるのに、なにも反応がないということは、相手はこちらに対してなんの関心も持っていないと表明することになるからです。

 さて、そんな無料通話アプリを介した交流にばかり注目することになりましたが、あくまでこの作品は弓道の物語なので、こちらにも触れていきましょう。

 主人公とヒロインですが、実は違う学校に通っています。それが弓道の大会をきっかけに知り合うことになりました。

 主人公は、真面目で不器用なので、違う学校に通うヒロインと縁が生まれるはずもなかったんですが、主人公の友人たちが、とても頼りがいがあるので、奇跡のように交流が生まれました。

 レビューの上の方で触れたように、悶えるような交流です。完全にお互いのことを知らない状態から始めているので、まさに手探りであり、ときどき躓くこともありながら、それでも確かに距離が縮まっていくのです。

 ですが、二人の関係を繋いでいる弓道は、あくまで部活動としての弓道なので、どうしても部活動内の人間関係の歪さなども触れていくことになります。

 そもそもヒロインは失語症なので、否応にも注目されやすいのです。注目はプラスにもマイナスにも働きますから、同じ部活動内での人間関係のトラブルなどでも無縁ではいられないのですね。

 これ以上の話は、本格的なネタバレになるので、物語の本筋に触れるのは、ここまでにしましょう(すでにこの時点で、そこそこのネタバレはしていることを、作者に謝っておきます)

 とにかく、弓道に興味がある人や、悶えるような恋愛に興味がある人は、ぜひともこの物語を読みましょう。

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