第3話『ステータス』

なんとなく分かってはいた。

だって、魔法陣が現れたのはこいつの足元だ。

朝日が勇者であるのは必然とも言える。

俺はあくまでこいつの“おまけ”だからな。

“おまけ”が勇者なんて、まず有り得ないだろう。

納得したように頷く俺の傍らで朝日は『勇者?』と不思議そうに呟く。

まさか、こいつ勇者が何なのかも分からないのか?

異世界ファンタジーものの小説や漫画を読んでいなくても、それくらいは分かるだろう····普通は。


「ふむ···。そなたが勇者か」


「陛下、黒髪の少年のステータスは確認なさいますか?」


朝日の方が勇者だと判明し、ざわめく空間で王様と側近のやり取りが交わされる。

俺のステータス確認は必要か、と問う時点で俺は大して重要な人物ではないのだろう。

最も重要なのは勇者であり、“おまけ”ではないのだから。

俺だって、こんなところに来たくて来た訳じゃないのに···。

俺はあくまで異世界召喚に巻き込まれた被害者だ。

別に故意的に来たわけじゃない。

まあ、それに関しては朝日も同じだろうが····。

でも、必要とされる人材か否かで心持ちも待遇も何もかも全て大きく異なってくる。

はぁ····何で俺がこんな目に····。

何度目か分からない溜め息を零した。


「はぁ·····」


「う〜む〜····一応確認しておこう」


「畏まりました」


王様は長い長い長考の末、念の為俺のステータスも確認することにしたらしい。

一番最初の発言で『男二人の召喚者は今までにないパターンだ』みたいなことを言っていたし、ただ単に俺のステータスが気になるだけだろう。

水晶玉を手にしている男性が俺の前で少し屈んだ。

一見大きなガラス玉にしか見えない水晶玉はシャンデリアの光をキラリと反射させた。


「アサヒ君のようにこの水晶玉に触れながら、『ステータスオープン』と唱えてください」


事務的な言葉を投げかけてくる男性はさして興味無さそうに無表情のまま俺を見下ろす。

王様と違って、勇者じゃない俺には大して興味がないのだろう。不要なものはバッサリ切り捨てるタイプの冷酷な人間だと推測される。

あくまで俺の想像に過ぎないから、本当はめっちゃ慈悲深い良い奴かもしれないがな。

目の前に無表情で佇む男性がどんな人間なのか勝手に推測····いや、妄想を膨らませながら俺はおもむろに手を伸ばす。

想像通り表面がツルツルとした水晶玉は少しひんやりしていて、気持ち良かった。

指先から伝わる冷たい温度に僅かに頬を緩め、テンプレ通りの呪文を口にする。


「“ステータスオープン”」


すると、俺の目の前に朝日の頭上に現れたような長方形型プレートが顕現した。

恐らく周りの人達からはこの長方形型プレートが俺の頭上に見えることだろう。

徐々に浮かび上がる文字に柄にもなく胸を躍らせた。

──────もしかしたら、想像を絶するようなステータスが現れるかもしれない。

淡い期待に過ぎないが、『もしかしたら』と思わずにはいられなかった。


だが──────そんな俺の淡い期待は次の瞬間、粉々に砕け散ることになる。


――――――――――――――――――――――――――――


名前:若林 音羽(わかばやし おとは)


職業:無職


レベル:1

レベルアップまで(経験値)→0/500


種族:人族(ヒューマン)


年齢:16歳


性別:♂



生命力:980/980


魔力:400/400


体力:500/500


攻撃力:600/600


防御力:670/670



称号:幸運児


――――――――――――――――――――――――――――


む·····無職···?

見る限り、朝日より圧倒的に低いステータス。おまけに職業は無職····。

────────は?

この絶望をどう表せば良いのか分からず、俺はひたすら自分のステータス画面を見つめる。

どれだけ長い時間見つめようと、俺のステータスは一ミリたりとも変わらない。

攻撃力や体力量の数値が低いことは別に構わない。

チートを使って異世界無双とか、そんな大それたことを本気で考えていた訳ではないからな。そうなれば良いなぁ程度の認識で、本気でそう願った訳では無い。

が──────“無職”って何だよ····!?

今まで俺が読んできた小説や漫画にそんなものはなかった。皆、必ず何かしらの職業を手にしている。

異世界召喚された挙げ句、無職なんて····ふざけているとしか言いようがない。

しかも、一番腹立つのがこの称号だ。

『幸運児』って本気で言ってるのか?

不幸続きの俺のどこをどう見たら幸運児に見えるんだ?

この称号を俺につけた奴、目が節穴どころじゃないぞ····。

頭を抱え込む俺に周りの貴族達は哀れむような視線を向けてきた。中には俺を嘲り、小馬鹿にする者まで居た。

普段はそんな視線を向けられても気にしないのだが、今回ばかりはかなり落ち込んだ。


「なるほど····無職とな。さすがに“聖女”の役割を男にやらせるのは無理があったか」


聖女····?どういうことだ?

首を傾げる俺に水晶玉を持った男性がさり気なく補足説明を施してくれた。


「通常異世界から来る召喚者は一人なんですが、稀に二人来るときがあるんです。今までは男女ペア、もしくは女性二人ペアでそれぞれ職業に勇者か聖女が与えられて来たんですよ」


なるほど····。

男の職業は勇者で固定だったが、女性は勇者もしくは聖女どちらも行けるオールマイティーだった訳だ。

だから、王様が最初に『今までにないパターンだな』と言っていたのか。

さすがに男の俺に聖女は務まらない。

その結果、俺の職業は『無職』になったと····。

理屈は分かる。事情も把握した。

が─────だからと言って、無職をすぐ受け入れられるほど俺は順応能力が高くない。

まだ異世界召喚されたことも受け入れられてないのに···。この不幸体質は異世界に来ても変わらないのか····。

変えられない事実とどうしようもない現実に俺は絶望するしかなかった。


「勇者アサヒは余が保護者となり、それなりの教育を施そう。無職者ワカバヤシは····王家の家紋が入ったブローチと一流装備を与えてやろう。すぐに旅に出るが良い。


──────魔王を打ち倒し、我ら人族の平和を守るのだ」


つまり、俺は厄介払いされる訳か。

言葉をオブラートに包んではいるが、さっさと城から追い出そうって魂胆が丸見えだった。

これには周りの貴族達も苦笑い。

だが、反論する気はなさそうだ。彼らにとって、勇者でも聖女もない俺は利用価値皆無の面倒な人間なんだろう。

まあ、それでも一流装備は貰えるみたいだし、ここは何も言わず、王様に指示に従った方が良さそうだ。どうせ、この場で俺が反論したところで力でねじ伏せられるのがオチだからな。最悪、不敬罪と見なされ即あの世逝きなんかも有り得る。

ここはただ静かに····余計なことはせず、周りに流されるのが正確だ。


「召喚の儀はこれにて終了だ。勇者アサヒは余についてまいれ」

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