イクス =ディス ワールド

無芸クオン

記憶:それを忘れることは決して無い

第0話 あの日の誓い


 少年は少女を抱きしめていた。


 抱かれた少女のさらりとした短髪は、添えられた手に込められた力で乱されていた。身にまとう薄い浅葱色の病衣も同様で、そこら中が皺になっていた。

 その様子は、『誰にも渡さない』と、少年が誰彼構わず、吠え散らしているようだった。

 

 ――震えていた。

 まるで狼に睨まれた子山羊こやぎのようで、とても弱弱しく無力に見えた。


 そんな震えを、知ってか知らずか、少年は、一層強く少女を抱きしめる。そして耳元に小さく、それでいて確かに、呟く。 

「僕が、守るから」

 それは、誓いだった。

「何があっても、絶対に、守るから」

 決して、色褪せることの無い、誓いだった。




「……大丈夫、だよ、にいちゃん」

 少女の口から、消え入りそうな声がこぼれる。


「私は、どこにも行かないから」

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