第39話 2046年11月某日

「公表はできんだろう…まったく…総理、自らが感染なんて…」

「抗体は効かなかったんですか?」

「そういうことだろうな、確かに『NOA』の連中が言っていたとおりだ…抗体は完全じゃない、イレギュラーを産む可能性を孕んでいると…」

「それはSMPのことではないのですか管理官」

「そう…それもイレギュラーのひとつなんだろうな…VAMPも…」

「管理官…こんな話を知っていますか?」

「なんだ」

「イレギュラーは仕込まれていたのではないかという話です」

「その話なら知っている…総理がSMPなど笑い話にならんよ」

 少し黙り込む管理官

「まさか、総理に仕込まれた…なんてことはないよな…」

「……」

 無言でニコリと笑う秘書官

「貴様‼」

 タンッ‼

 軽い破裂音が室内に響き、数秒かけて管理官が胸を押さえて絨毯に蹲る。

「この国の総理が欲の塊と化す…いや政治家、全てが欲に塗れているんだ…SMPとは欲そのものの具現化だ、お前等の黒い臓物を吐き出しむき出しの肉に変えろ‼」

 秘書官は手にした小型の銃をゴトンッと床に落とした。

「バカ共が…」

 吐き捨てるように動かなくなった管理官に言い放ち部屋を後にした。


「いかがでしたか?」

 官邸から出ようとする秘書官を少年が後ろから呼び止めた。

 ソレが誰だか確認する必要もないという感じで振り返りもせずに秘書官は答える。

「…この国は、背け続けた現実のツケを支払う必要があるんだ…私は後悔などしていない」

「そうですか、どうです…コチラに来ますか?」

「ブラックホールの中心か?」

「概念上は、まぁ…間違いではないんですけどね」

 フッと少し笑って秘書官は振り返った。

「なるほど…時の流れが無いというのは本当らしいな、初めてあった時と変わらんなキミは」

「キミねぇ…これでも僕は君たち人間とは比べ物にならないほど生きているんだけどね」

「だろうがね…時の流れを止めた世界で千年を生きていても成長はないような気がしてね…永遠の今なんて矛盾しているだろ」

「永遠の今を生きる僕は、千年生きても君たちに追いつけないとでも?」

「そういうことだ、永遠の少年…トリックスターとはよく言ったものだ」

 秘書官はコツコツと革靴を鳴らして大理石の階段を下りて行った。

「ふん…魔境がこんな世界に繋がったことが、僕の最大の不幸だな…複製宇宙を何度渡っても、劣化するばかりだ」

 少年は左手の中指にはめたリングに右手を翳した。

 ズルッと吸い込まれるように官邸から姿を消した少年。


「重力の中心に存在する、この太陽系は永遠が約束された世界…この世界には…僕しかいないのかな?」


 白い世界で黒い空を見上げる少年。


 ………

「見届ける義理はない…よな」

 ビルから身を投げた秘書官。

 グシャッ…体が地面に接触するまで…彼は笑っていた。

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