第37話 2048年9月某日

「お前たちは捨て駒である‼」

 入隊初日、その言葉で自分の立場を知った。

 厳しい訓練の末、勝ち取ったのは『捨て駒』というポジションだった。

 別に落胆したわけじゃない。

 ただ…俺は…俺達は『VAMP』と呼称される奴のために存在し、『餓鬼』と呼ばれる化け物の足止めするためだけに入隊したわけだ。

 解っていたことだが…なんだかモチベーションを維持していけるのか疑問が拭えないだけだ。

「諸君らは、戦闘において自信を持っていることだろう、だが、その自信ゆえに命を落とすものも少なくない…これは自らの過信が招く事故である」

(事故…だと?)

「実際にSMPと対峙したことがあるものは、ほとんどいないだろう…奴らは…餓鬼は、諸君らの想像を遥かに超えた存在だ、繰り返すが諸君らの任務は討伐でも駆逐でもない‼ 足止めだ」


 入隊の、ありがたい訓示は、俺達のやる気に冷や水をかけてきた。


「それでも自分は…戦えると信じてました」

 片腕を引きちぎられた俺は戦線から外された。


 あの日…初の出動。

 訓練のときと何ら変わらない装備のはずが、やけに重く感じたことを覚えている。

(やってやる…)

 餓鬼がなんだというのだ…ただ暴れまわるだけの化け物だ、それも少し前まで人間だっただけの存在。

 トラックの荷台で日本刀を握り、俺は軽く興奮していた。

 トラックが止まり、俺達は荷台から降り整列する。

「いいな‼ すでにSHIRLD`sが餓鬼を包囲している、『VAMP』の到着は40分後、それまで包囲網から餓鬼を出すな‼」

 小隊長の言葉など耳に入ってこなかった。

 俺は、餓鬼を狩ってみせる…。

 それしか考えていなかった。


 俺の目の前で暴れる餓鬼は、想像を超えた化け物だった。

 本当に数時間前まで人間だったのかと疑いたくなる。

 それほど、その容姿は変異していた。

 毛のない獣人とでも言えばいいのだろうか、そもそも関節すら人のそれではない。

 当然、動きも予想ができない。

 その目を見てゾクッと悪寒が走った。

 そして俺は理解した。

 奴らは俺達を敵視しているわけではないのだ…ただ動くものを捕食するためだけに動いているだけだ。

 殺そうと思えば、いつでも殺せる…そんな感じだ。

 それは絶対的な立場の差。


 俺達はコイツのエサでしかない。


「クソが…」

 俺は命令を無視して抜刀した。

 そのまま、餓鬼に切っ先を向け、全身の体重を乗せ勢い任せに餓鬼の胸に突き立てた。

 グズッ…

 何を突いた解らない固いのか柔らかいのかも…

 次の瞬間、俺の右腕に餓鬼が喰らいついて、牙で腕をねじ切るように捥ぎ取った。

 ゴキッ…グチャッ…

 俺は恐怖の中で、自分の腕を喰われる音を聞いたのだ。



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