第19話 2050年7月某日

 デスクでガバッとうつ伏して眠る横関。

「編集長…」

 小声で同僚の記者が編集長に注意するように促す。

「いいんだ…ほっとけ」

 半ば諦めたように編集長は、記者を手で犬でも追い払うように動かす。


 PiPiPi…PiPiPi…

 横関のデスクで電話が鳴る。

 俯せたまま左手で受話器を探り耳元にあてる。

「はい…」

 面倒くさそうに電話に出た横関がガバッと顔をあげる。

「アンタ…今どこにいるんだ?」

 何やら相槌をうって、受話器を乱暴に戻し、しわだらけのジャケットを掴んで編集部を飛び出した。


「何なんだ…アイツは…断りもなしに」

 編集長が頭を抱えてデスクにうつ伏した。


 ビルを出て足早に、いつもの喫茶店に入っていく。

 マスターが指で奥を指す。

「アンタが電話を?」

「あぁ…」

「初めて…だよな?」

 横関が名刺を差し出す。

「俺は一度…まぁヘルメットを被っているんだ解るはずもないがな」

「あの日俺に話しかけたSHIRLD`s…でいいんだよな」

「そうだ…山岸だ…防衛省、統合幕僚監部特別防衛班、通称『特防』あるいはSHIRLD`sと呼ばれる…まぁ使い捨ての駒さ」

「山岸さん、アンタなんで俺のところに?」

 山岸はチラッと名刺を見てアイスコーヒーをストローで吸った。

「横関さん…この間の餓鬼どう思った?」

「どうもこうも…見てないんでね」

「そうか…俺にはどうも…その…なんというか」

 コトッと横関の前にナポリタンとアメリカンコーヒーが置かれた。

 フォークにパスタを巻き付けて口に運んだ。

「で? 山岸さん…アンタには餓鬼がどう見えたんだい?」

「いや…バカみたいな話なんだが…その…何か…」

 歯切れが悪い山岸

「山岸さん、餓鬼…いやSMPは喰うこと以外、何も残らない…意思も思い出も全てを無くして変異する」

「だな…解っているさ…横関さん、アンタ達よりは専門的な教育は受けている」

「…そのSHIRLD`sのアンタが餓鬼に何を感じた?」

 アイスコーヒーの入ったグラスからストローを取り出し、一気に飲み干した。

「薄いだろ? ここのコーヒーは豆の風味を完全に消しちまうんだ…まるでSMPだな」

 ニヤッと横関が笑う。

「そして…ここのナポリタンは異様に塩っ辛いんだ、で…この組み合わせしか頼まんようになった…」

「真逆の組み合わせ…ってことか?」

「そうだな…餓鬼とVAMP…かな」

 深くため息を吐いて山岸は目を閉じた。

「あの時にも言ったが…あの餓鬼は、子供を庇っていた…母親のように」

「母親?」

「あぁ…事実、あの餓鬼が食いかけていた子供は、実の娘だったそうだ」

「食いかけていながら…庇った?」

「あぁ…食料をじゃない…子供を庇う母親のように見えたんだ」



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