第3話 2050年4月某日 その3

「にしても…随分と小柄だな、42番は…」

(子供か?)

 トンッと煙草の灰を灰皿へ落とす。

(独りで…初陣だよな…優秀なのか、それとも人不足…)

「いや…吸血鬼不足か…」

 PiPiPi…

 男のスマホが小さく着信を告げる。

「社長か…」

 ため息を吐いてスマホを耳に当てる。

「はい…」

「横関、オマエ…なんでソコにいる?」

「たまたま…ですよ」

「……偶然か?」

「ですね…」

「まぁいい…記事にできるんだろうな?」

「そりゃもう…ただね、カメラはさすがに持ってないもんで、スマホの画像になりますよ」

「構わんよ、オマエの型遅れのスマホでも充分撮影できる距離から動画撮影してくれればな」

「はいはい…」

「夕方にはサイトにアップするからな、記事に時間かけられねぇぞ、解ってるな」

「はいはい…切りますよ…始まりそうなんで」

 スマホをVAMPへ向けてズームさせる。

「アイツを中心にオートで追わせて…と…おっ…早いよ…やれやれ」

 横関がスマホの被写体オートモードの設定が終わるか終わらないかというタイミングで1階ではフォウツーが変異体の左腕を斬り飛ばした。

(早ぇ…なぁおい…カメラ…追えてんのか?)


 小柄なVAMP『42』フォウツーの動きは目で追いきれないほどに速い。屈強な体躯のブレイズ数人が連続で斬りつけてもダメージすら負っていないように見えた変異体、その左腕を一刀で斬ってみせたVAMP、その存在がいかに特殊か…一太刀でよく解る。


(なんてぇ化け物なんだろうな…人なんて完全に蚊帳の外だ、あの化け物共にはただの飯の奪い合いなのにな…)


 変異体の動きは速くはない、が…それでも人を捕獲して食うには充分な速さを有している。

 訓練を積んでいるブレイズやシールズが捕まるようなことはないのだろうが…それは逃げることができるという条件下であればだ、足を止めるとなれば話は違ってくる。

 どうしても立ちはだからなければならない…とすれば…何人かの犠牲は覚悟しなければならないのだ。

 そんな相手を単騎で駆逐するVAMPと呼ばれる変異体とは別種の化け物。

(内閣府の切り札…『A』じゃねぇよな…『JOKER』ってほうが正しいんだろうな、防衛省の面目はねぇわな~)

 煙草を吸い終わらないうちに、大方ケリはついていた。

「防衛…じゃねぇもんな…この有様は…」

 フロアには変異体の破片が散らばり、その肉を貪り、血を飲むVAMP。

 スマホを覗き込む横関

「おいおい…女…まだ子供じゃねぇか…」

 ずらした仮面から覗く顔は少女、白い肌を赤黒い血で汚し、生肉を貪る。

 それは、野生の豹が久しぶりのエサに在り付いたような飢えと渇きを満たすだけの云わば本能…理性など垣間見ることができない、だからこそ凄惨で美しい。

(レンズを通して視るだけならば…そうも視える…)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る