第17話行き倒れ美少女が看病致します。


 朝起きたら風邪を引いていた。


 咳、頭痛、倦怠感がひどく、体が浮いた感覚、熱かったり寒かったりと体感温度がおかしい程に酷い風邪だ。


 それでも、俺は倦怠感を我慢して学校に連絡をして、次いで親父にSNSアプリで学校を休む事を伝えた。


 暫くしてから親父が体温計、濡れタオルをお粥と一緒に部屋まで持ってきてくれた。

 すると親父が「今日は店を臨時休業にする」と言った。


 けど、俺は大抵出来るから、と言って店を開けるよう言って部屋を出てもらった。

 そのあと、お粥を食べて市販の薬を飲んだ。


 寂しい。

 熱のせいか気持ちが沈んでる。

 こういう時は寝た方がいい。


 そして、起きたのは3時半くらい。起きたら汗で部屋着はぐっしょり。だるい体の汗を吹いて別の部屋着に着替えて、布団を被った瞬間、ノックも無しに扉が開けられ誰かが入ってきた。


「文く〜ん!!」


 その正体は一葉で、入ってきて早々抱きつかれた。

 部屋にやって来た一葉の目は涙目になっていた。


「おぉい、風邪移るから離れてくれぇ。あと落ち着け」

「やだやだぁ、離れない!いっそ移せぇ〜」


 より抱き締める。むにゅんとした柔らかな感触を感じたが、堪能するほど元気は余りない。


「……一葉」

「……文くん?」


 少し離れ一葉は俺を見つめる。この時、泣いてても美少女なんだなとぼんやり思った。


「それだと、俺が困る」

「…う……うん」

「さんきゅう。あと…呼び方戻ってる」

「……こっちの方がしっくりくるみたい」


 確かに、俺もしっくりくる感じがする。でも、文って呼ばれるの嬉しかったから複雑だなぁ。


「それより熱はどう?」

「だいぶマシになった、かな」

「……熱計ってないな」


 俺は目を剃らしてしまった。

 すると、一葉は「駄目だよ」とお姉さん感を出して叱る。


「まあ、ケホッ」

「……文くん計ろうか?」


 頭痛でぼんやりしている俺は計ってと頼む。すると、一葉は目をぱちくりさせていた。

 意外だったようだ。


「…じゃあ、お姉さんに任せてね」

「誰がお姉さんだ?」

「実際お姉さんだよ」


 そうでした。妹がいるって前に言ってました。


「はい、じっとしててね。苦しいなら目瞑ってて良いから」


 優しい声に委ねて目を閉じる。

 すると、心地い冷たさが額に感じた。俺は一葉が何を当ててるのか気になってと目を開けた。


「い、一葉」

「文くん、ちょっとだけじっとしてて」


 額、いや、こういう場合おでこって言ったら良いのかな。一葉は覆い被さるようにベッドに乗って俺の髪を掻きあげて、おでこを当て熱を計ってた。

 これは一歩間違えれば友達の一線越えてしまう。


「……体温計あるから」

「妹が風邪引いた時はいつもこうだからこっちの方が慣れてるの。だからお願い」


 心臓の鼓動が早くなってきた。そのせいか、めちゃくちゃ熱い。

 見ると、一葉の頬が微かに赤い。同時に目があった。これが逆の立場だったら、唇や鼻先が当たりそうで理性が保てていたか分からない。


 寧ろ、熱で何を言うか分からない危機的状況だ。


「うーんおかしいなぁ」

「…うん?…何が」

「顔の赤みより熱が高いんだよ」

「…それは一葉が近いから」


「……ドキドキしてるの?」

「ド、ドキドキしてる」

「そ、そっか……」


 一葉はくっつけるおでこを離す。その瞬間、頬が赤くなってるのが見えた。


「…顔が赤い…風邪移ったか?」

「だ、大丈夫だよ」


 一葉は左右にブンブンと手を振る。

 本当かどうか関係無く、ほっと俺は安堵する。


「……一葉…来てくれてありがとう……親父に店開けろとは言ったけど……熱のせいかな、凄く寂しかったんだ」


 熱でポロっと出た本音。恥ずかしいけど、言えて良かったと嬉しい気持ちが強い。


「えへへ、そっか来てよかったよ。昼休みに文くんとお昼食べたいなぁと思って教室行ったらいないから。丁度先生いたから聞いたら風邪で休みだって言われて、帰ろうと思っちゃった」


 一葉はニコニコと経緯いきさつを教えてくれた。


「…踏み留まってくれて良かったよ。お腹は大丈夫なのか」

「うん、大丈『きゅるるる』あれ?」

「あはは、空いてるんじゃん」

「さ、さっきまでは大丈夫だったんだよ!」


 と、一葉が必死に抗議する中で間の悪いことに咳き込んでしまった。

 そのせいで一葉に申し訳ない顔をさせてしまう。

 安心してほしい、そう思っていたら一葉の頭を撫でていた。まあ良いかと熱に浮かされるままに撫で続ける。


 その一葉はというと嬉しいのか不服なのかよく分からない表情をしていた。


「……は、はい!文くんは大人しく寝てて。頭も撫でない」

「落ち着くからもうちょっと」

「う………じゃあ仕方、にゃいね」

「さんきゅう。でもお腹空いてるんだよな……止める」

「も、もぉ文くんのアホ〜!」


 顔を真っ赤にしてぺちぺちと叩いてくる。

 けどそれはお腹に住む可愛い獣の『きゅるるる』という声(音)で終わる。


「一葉、桃缶食べるか?」

「桃缶…」

「冷蔵庫にあるから」

「……ううん、それは文くんが食べるべきだよ」


 食べたそうな顔をしているのに俺の為と我慢して首を横に振る。


「…食欲ない」

「でも、食べないと…何かない?」

「桃缶なら」

「…うん、分かった取ってくるね」

「あ」


 今日の一葉のお姉さん感がそうさせたのか、口走った事で一葉は部屋を出た。

 そして、フォークと器に移された桃缶の桃を持って戻ってきた。


「はい、文くん。あーん」

「いや…自分で」


 むぅと膨れっ面になる。可愛いけど。

 でも、それをされると熱が上がり浮かされて、また可笑しな事をしそうだ。


 そんな事を考えてるなんて知らずに一葉は引き下がらず、『あーん』と桃を口の前で保持している。


 いずれ腕が疲れて下ろすだろう。でもそれは俺の本意じゃない。

 だから口を開けた。


「あーん」


 そして、一葉は恥じらいながらカットされた桃を俺の口に運んだ。

 何故か恥じらっている。その姿は微かに妖艶で、


「一葉色っぽい」

「あ…う……あう」


 ……何を言っとんじゃオラァァァ。

 一葉、顔真っ赤にして困惑してるじゃねぇか。

 もう嫌だ。早く治したい。


「文くん…」


 これはまたぺちぺちかとドキドキしている。


「熱で可笑しくなってるね、もう寝よ」

「大丈夫…本音だから」


 熱でぽーっとなって何を言ってるか、言いたいか、分からなくなってきた。


「……は、はいはい熱に浮かされてるだけだから」

「一葉ぁ」

「あう…そんな捨て子犬みたいな顔しないでよぉ」

「じゃあ手、握って……ほしい」

「…うん、ちゃんと寝てよ文くん」

「分かった、お姉ちゃん」

「ぶはっ!」


 とんでもない一言により、一葉は一回転する勢いで仰け反った。

 自分もわけわからん。


「文く…ん、お姉ちゃんを困らせたら駄目、だよ」


 お姉ちゃんとして冗談っぽく言う一葉。次いで頭を撫で始める。

 優しく温かく、そして、落ち着く一葉の安心感は何だろう。

 これが姉というもの何だろうか。


 なんて考えていると、うとうとしてきた。

 そしてそこに、留めをさす言葉が耳に入った。


「おやすみ文くん」

「………おやすみ」

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