第6話 ここは異世界ですか?

 相手の射程圏に入ったら背を向けられた。


「暑いからいや」

 (なんなんだ)


「涼しくなったらくっ付いてあげてもいいかな、場合によってはー」

「えっえっと、近くに居たい」蚊の鳴くような声で。


「はっ?遺体にされたくはないけどあんな事こんな事なーんでも好きにしていいのよ、弟よ」

「お姉ちゃま、、、」

「なーに、どうしたの」

「そんなんじゃなくて、傍に居てくれたら、、、嬉しい」



 少し間が空いて。

「そうだった、私もそれを求めていたのよ、それよそれ!だけどね高校女子ともなると焚きつけられちゃうの、彼とキスしたとかラブラブしたとか、私見栄っ張りのでしゃばりだから『そんなのとっくに済ませちゃった金持ちの御曹司でも手玉に取ろうかなー』って言ってたの聞いてたでしょ、誓に聞こえる様に言ってたの、どんな反応するのか、それが誓いったら全然知らん振り、お姉さんはメラメラと欲望に火をともしちゃったのよ、バカやってるわ」


 マスクをうちわ代わりにして顔を仰いでいた。

「ごめん、これ売り物だよね、ちょうど良かったマスクなかったから、この刺繍の女の子私と違って清楚で良い感じ、見習うためにも買わせて頂きます」

(ほんとに見習う気有るんだろうか)

 そう言ってポケットからゴソゴソとピンクの小さめの財布を取り出し左手で僕の右手を掴んで右手で掌に500円玉を載せて両手で僕の掌を包み込んだ。


「あっ500円も要らないから、200円いやタダで良いから」

「だめ、私が気に入ったの200円で買ったら200円の価値になってしまう、500円以上の価値が有るの、プレゼントなら一月一日おめでとうーご、ざ、い、ますーっておめでたい奴だから」

「誕生日?」

「そう、だから日本一おめでたい奴なの私って」

「たしかに」

「こら、自分は良いけど、人に言われたら腹が立つ、で誓の誕生日は?」

「七月七日」

「あー替えて、ロマンチックが止まらない」

「うん替えよう、バカにされる材料でしかないから」

「よし商談成立、へへー先にプレゼント頂きー、じゃあ帰る暑くて死ぬ、化粧落ちて化けの皮剝がれる前に帰るよ、明日はうちに来ること何時でもいいから、化けの皮被らずに待ってるから、おかんに間違えるなよ」


 賑やかに出て行った。簡単すぎる地図を置いて。

(ほんとに良いんだろうかこんな冴えない僕で、たいっちゃんてめっちゃ美人でモテそうなのに、ちょっと気分転換か単に暇つぶしかな)



「お母さん明日友達の家に行ってくる、それから休校が終わったら学校へ行く、多分」

「えっお友達?男の子?」

「女子、同級生だけど弟みたいで放っとけないって」

「そ、そう、良かった、、、うん良かった」


 お母さんはまだ何か言いたそうだったけど言葉を飲み込んだ、そしてわざとらしく話を変えた。


「誓この頃注文なくってごめんね、お店で手配できるようになったしキャラの方も行き渡ったみたいで」

「いいよ、結構忙しくて学校始まる前に何とかしないとね」

「そ、そうよやっぱり勉強が一番よ、ご飯作るわね」

「お母さん明日から僕に作らせて今だけ、暇なんだ」

「そっかじゃあ頼んじゃおうか、でも低予算よ」

「分かってる」



 翌日10時電車で隣町へ向かう。

(そうだ自転車に乗れば定期代浮くな、乗れればだけど)

 

 電車を降りて手書きの地図通り直進、信号のある交差点の角に一軒だけ普通の家。

(一軒だけなら普通じゃないと思うけど)


 有った普通の家、いや立派なお屋敷、他はお店が連なっていてここだけ住居、彼女にしたらこれは普通の家なのか。(お嬢様って呼ばれたりしてるし)


 その家を過ぎた角を左に曲がり次の信号の多分二つ先を右折、ここかな。

(うわっこれは来る場所間違えた、ピカピカの豪邸ばかり、、、)


 歩くだけで肩身が狭い、一つ交差点を越えた左手。。。

(帰ろ、ここは異世界僕なんかの来る場所ではない)


 くるりと向きを変えさっさと歩き出す。

 と後ろからタッタッタッと足音が聞こえいきなり腕を捕まえられた。

「予想通り見張っててよかった」

「たいっちゃん」


 右腕を両腕で抱え込まれ連行状態。

(恋人どうし、、、見えないなあ、いいとこ出来の悪い弟が連れ戻されている)


「異世界に紛れ込んだ」

「私も昨日」

「住む世界が違うんだ」

「でも地続き息もできる、電車で通えるし」


 昔風の「門」を潜る。

「悪趣味でしょ、まるで悪代官」

「悪代官?」

「そうよ悪代官のおめでた娘、誓を座敷牢に閉じ込めて甚振いたぶるの、逃げない様に鎖で繋ごうっと」

「それにしては緩い掴みだけど」

「いいの逃げたりしないから、私の奴隷だもの」

「奴隷。。。」


「うそ、でも奴隷ごっこ、あーやっぱりやめ面倒くさい、今はお手伝いさんしかいないから気を使わなくていいよ、ただすっごい良い女だからポーとしたら拷問よ、そこは誓の彼女だから」

「弟だったんじゃ?」

「そうね血の繋がっていない将来夫婦を約束された弟、安心してこの家は出来の悪い実の弟がついで一代で身上しんしょう潰すから」

(なぜか僕の将来が決まってる様な言い方をされた)


 外は純和風だったけど建物は何て言ったらいいのか西洋の博物館に和風と中華風を継ぎ足した様な御殿の様な怪しげな建物の前に立つと「ジャーン」と銅鑼どらが鳴って鉄の扉が左右に開いた、もう例え様もない。


 そして中で一人のメイドさんが出迎えてくれた。

「おかえりなさいませご主人様お嬢様」


(どこかで聞いたようなセリフ、冗談なのドッキリなの)


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