第28話

「なんて、硬い糖分なんだ!」


 それからマートはりんご飴を食べて、


「僕、これ得意なんだ!」


 自信満々で射的の店へと入っていく……。


「あっ、あれ、ポチにそっくり!」


 私が、一番上の棚にある茶色い犬の小さな置物を指差すと、


「じゃあ、あれから」


 マートは狙いを定めてコルクガンの引き金を引いた。


「当たった!」

「やった!」

「凄い!」


 見事に、茶色い犬が倒れて転がった。


「ミクは、どれがいい?」


 マートが、自信ありげに聞いている。


「えっ、じゃあ、私はあれがいい」


 そう言って未来ちゃんが指差すと、ピンク色のうさぎの置物が跳ねるように飛び上がった。


「すっげ! やったことあんの?」


 マートの命中率に、翔ちゃんはもう大興奮だ。


「マート、ありがとう! 私、これ宝物にする!」


 未来ちゃんが、小さなピンク色のうさぎを大事そうに抱きしめた。


「私も! 宝物にするね」


 未来ちゃんと同じように、私も茶色の犬を抱きしめる。


「タカラモノ?」


 そう言って、マートが首を傾げた。


「宝物っていうのは……、ずっとずっと大切にして守り続ける? みたいなことかな〜」


 同意を求めるように、私は未来ちゃんに視線を送った。


「うん、そう! 大切に、大切に、守り続けるってことだよねっ」


 未来ちゃんが、その通りだと繰り返してくれる。


「タカラモノ……、ずっとずっと大切に守り続けること!」


 マートが、例のものに吹き込んでいる。


 その後も、マートはお菓子やよく分からないおもちゃを倒し続け……、


「ちょっと、見て! 百発百中よっ」


 通りがかりの人達も立ち止まって、マートに注目し始めた。

 このままだと、商品を総取りしてしまいそうだ。


 マートは何か、特別な訓練でも受けているのだろうか?

 私は、少し怖くなった。

 闇の組織? それとも、スパイ……。まぁ、宇宙人というだけで、充分怪しいのだけれど……。


 最初は、凄い、凄いと応援していた店のおじさんの目が、次第に怪しいものを見るような目付きに変わっていく……。

 祭りの見廻りをしていた警官も、騒がしいこちらの様子を気にし始めた。


(えっ、これって、かなりまずい状況かも?)


 翔ちゃんと未来ちゃんも、その空気に気付いたようだ。

 マートはまだ、夢中になって打ち続けている。


 警官が、じわじわと近付いてきた。


「マート!」


 声を掛けて、マートの意識を私に向ける。


(マート、早く逃げて! 警察に捕まったら、マートが宇宙人だってことに気付かれちゃうよ!)


 マートを見つめて、心で叫んだ。


「うん、分かった!」


 マートに、しっかりと伝わったようだ。けれども、大勢の人に道を塞がれていて、身動きを取ることが出来ない。

 ここでワープを使えば、町はもうパニックになってしまうだろう。

 さりげなく、消えることは出来ないだろうか……。


 店のおじさんが、マートを見ながら警官に声を掛けている。


「瑠璃! マートは、俺が連れていく!! 時間稼いでろ!」


 翔ちゃんが私の耳元でそう言って、マートの手を引っ張った。


「こっち!」


 人波を上手く交わしながら、走り去っていく……。

 こういう時の翔ちゃんは、本当に頼りになる。


 それに気付いた警官が、マートを追いかけようとした。


「あっ、あの!」


 そう叫んで、私は警官の右腕にしがみ付いた。


(何か、言わなきゃ!)


 言葉を探すけれど、良いアイデアが浮かんでこない。


「あの、お巡りさん! 出口はどこですか?」


 未来ちゃんが、私と同じように警官の左手にしがみ付いて聞いている。


「君たち、分かってるでしょ!」


 警官が、マートの背中を目で追いながら呆れたように言った。


「分かりません!」

「分からないんです!」


 未来ちゃんと二人で、必死に粘る。


 マートの背中が人混みに消えて、見えなくなった。


(ふぅ〜、良かった〜)


 ホッとして、警官にしがみ付いていた手を緩める。


「そこを右に曲がれば、出口になってるよ」


 諦めた警官が、親切に教えてくれた。


「ありがとうございました〜」


 二人でお礼を言ってから、神社の出口に向かって歩いていく……。

 神社を出てからは猛スピードで、翔ちゃんとマートを追いかけた。

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