宇宙人が家に来る②

第7話

「ワンワンッ」


 家に辿り着くと、玄関でポチが出迎えてくれた。

 ビー玉みたいな黒い瞳をクリクリさせて、しっぽを大きく振っている。


「ポチ〜、ただいま〜っ」


 全力で、ひとりっ子の私を癒してくれる。ペットではなく、もはや可愛い弟のような存在だ。


 あっ、でも、癒してくれる人は他にもいる。

 うちのおじいちゃんとおばあちゃんだ。

 おじいちゃんは天然で面白いし、おばあちゃんは私の最強の味方だ。


「ただいま〜」


「あら、瑠璃、おかえり〜」


 パートで忙しいママに代わって、おばあちゃんはずっと家に居てくれる。


「買い物に行ってくるけど、何か欲しい物ある?」


「うん、アイス!」


 そう言えば、おばあちゃんは私の好きなアイスを買ってきてくれる。


「じゃあ、行ってくるね」


「行ってらっしゃい」


 玄関の鍵を閉めて、おばあちゃんは出ていった。

 手洗いうがいをしてから、私も二階にある自分の部屋へと上がっていく……。


 木製のドアを開けると、ポチがサッと先に入っていった。

 白いラックの上に赤いランドセルを置いて、ベッドにダイブする。


「はぁ〜、疲れた〜っ」


 ポチも、床に寝転がった。


「ねぇ、ポチ! UFOって、本当に居ると思う?」


「ワンッ」


 一応、私が話し掛けると、律儀に応えてくれる。


 その時、ポチの向こうにヒラッと落ちている布が目に入った。


「あっ、忘れてた!」


 慌てて起き上がり、その布を拾い上げる。


「公園に行けば、あのマートっていう子に会えるかなぁ……」


 七色の輝きは、昨日よりも若干弱くなっている。


「ポチ、とりあえず公園に行ってみよっか!」


 その布を、机の脇に掛けてある手提げ袋に突っ込んでいると、


「ギャンギャンッ、ウーーーッ、ギャンギャンッ!」


 ポチが目を三角にして、うるさく吠えだした。


「どうしたの! どこか痛いの?」


 慌ててポチを抱き抱える。


「キャーンッ、キャーンッ……」


 痛いのでなく、何か訴えているようだ。


「どうしたの? 何かあったの?」


 ポチが、私ではなく、入ってきたドアの方を見て怯えている。


 恐る恐る、振り返ってみた。


「えっ……、えーっ……、えぇーーーっ!!」


 もう、もう、驚きの3乗? 3段階? とにかく、最上級だ!


 なんと、昨日の夜、公園で会ったマートという少年が、その、あの、ドアの前に! 私の部屋の中に! 澄ました顔で立っている。

 不自然なシルバーのつなぎではなく、グレーのTシャツにジーンズというごく普通の服装に変わっている。


「ちょ、ちょっと、なんで? なんで、勝手に入って来てるの!」


「キャイ〜ンッ!!」


 ポチも、私の腕の中でうろたえている。


(なに! なんなの、このトリック!!)


「君が、呼んだからだよ」


 またまた、大人のような話し方で応えている。


「えっ、私、呼んでないし……。だいたい、どこから入ってきたの?」


「君が呼んだから、ワープしてきた!」


「ワ、ワープって……。そんな、そんな! ゲームじゃないんだから!」


 かなり混乱して、全身に鳥肌が立っている。


(えっ、私が呼んだって……、あっ! 私が、マート君のことを考えてたから?)


「うん、そうだよ!」


(やばっ、心読まれてるんですけど……)


とにかく、一旦、落ち着こうと思った。


 ポチを抱きしめ、冷静さを取り戻しながら、とりあえずどこかに座って! とお願いした。


 マート君が、ピアノの黒い椅子に腰を下ろす。


「あの、靴は脱いでもらえるかなぁ」


 紺色のスニーカーを指差すと、


「靴を脱ぐ?」


 なぜか、マート君は鼻で笑った。


(えっ、意味が分からない……)



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