page.07 騎士人形たちの日常


緊急発進スクランブル緊急発進スクランブル。ジークフリート隊に告ぐ、第七地区で犯罪組織による暴動が発生。制圧対象は銃器で武装した人間で、周辺の市民へ発砲しながら人形アンドロイド雇用の撤廃を訴えています。速やかに現場へ急行してください』


 騎士隊ナイト・フリートの隊舎、その出撃待機エリアに緊急発進スクランブルがかかる。今月に入って何度目だろうか。私はもはや数えるのをめていた。


 手早くシールドレーザー・ブレードを掴んだ私は、大都市のブロードウェイを脚部車輪レッグ・ホイールで疾走する。


 私の両隣では、赤い試作機エクスカリバーが両手のブレードを研ぎながら、青い試作機ミトラィユーズは弾倉をチェックしながら、話し始める。


「ミトラィユーズ、最近物騒だよな」

「ああ……エクスカリバー。私たちが大義を果たすことに、誰もが期待している……」


 この2機がわざとらしく名前を呼びあうのは、私への当てつけだ。私は彼らの無駄に壮大な名前が、嫌いだ。


「お前はどうだ、?」

「……ふふっ」


 2年前から何も成長していない。彼らは。

 私は、成長した。こんな幼稚な嫌がらせの相手をしない程度には。


「ああ、悪党どもには困ったものだ。奴等が増えると、私の相棒バディがまた無茶をするからな」


 エクスカリバーとミトラィユーズが顔を見合せ、メイン・カメラをチカチカと点滅させる。彼らは“あきれ”のサインでやっているつもりらしいが、私から見れば“悔しい”サインだ。


「誰が貴様の相棒バディだと?」


 私の頭上から、落石のようなバス・ボイス。我らが騎士隊ナイト・フリートの総隊長だ。重装甲の量産型特有の轟音を立てながら、私と並走してくる。走行音に負けないよう、私は発声器のボリュームを上げた。


「誰って? 貴方に決まってるじゃないですか、ジーク!」

「その不敬な呼び方を止めろと、何度言ったらわかる!」

「貴方が無茶をしなくなったらと、何度言ったらわかるんです?」


 あの初陣以来、私は数々の戦場をジークの隣で駆け抜けてきた。そして、驚愕した。この大将は、大義のためとあらばとにかく無茶をするのだ。

 

 暴徒に単身突撃をしかけることなどは朝飯前。人質を取られれば自分が総隊長であることを名乗り、積極的に破壊されに向かう。その度に私は、彼が破壊されないようにサポートしてきたのだ。


 なぜ、彼がこれほどまでに無茶をするのか? そう問う度に、彼はこう答えるのだ。


「この大都市の市民を救う。工場部品の製造や、家事を手伝う人形アンドロイドよりも多くを救う。そうしている限り、我ら騎士隊ナイト・フリートの名誉は続く。これほどに誇らしい仕事はない。大義だ。大義こそが我らの至上の使命」


 ジークが、私のメイン・カメラを重厚なマニピュレータでつつく。


「それに比べて、我一機が破壊されたことで失われるものなど、我だけだ」

「大義、大義、大義! 貴方はそればっかりだ!」


 ミトラィユーズや、周りのベテラン量産型たちまでが笑い声をあげる。


「……ふふっ。また、始まったな」

「総隊長、聞いてください。コイツ、犯罪組織活性化に対する感想が『総隊長がまた無茶をする』だったんですよ? どう思いますか? ちなみに、俺の答えはこうです! 『市民が脅かされている!大義を果たさねばならない!』」


 ミトラィユーズの高みの見物も気に食わないが、エクスカリバーのゴマすりには本当に呆れる。


「うむ。エクスカリバーは模範的な騎士隊ナイト・フリートの隊員だ。我らは大義のためにある。我を救って良い気になるのはやめろ、ハルジオン」


 私たちは大義のためにある。それ自体に文句はないのだ。私が言いたいのは――


「現場へ到着するぞ。G1部隊は私に続いて突撃。G2部隊は市民の避難を。G3部隊は敵の増援に備えてバックアップ。G3部隊からハルジオンだけは、私についてこい」

「話が終わっていない!」

「それは大義と比べる価値のあるものか? 考えろ!」


 ジークはそう言うと、轟音と砂煙をまき散らしながら加速した。

 私も負けじと加速する。今日も心配事は多い。

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