第1章 ジークフリート隊の騎士人形

page.01 ウェイク・アップ

 輸送トラックの揺れの中、私は扉が開くのを今か今かと待ちわびていた。

 工廠こうしょうで生まれて一か月、ようやく全ての稼働テストを終えた。長かった。


 私は、テストを受けるために生まれたのではない。人形アンドロイドとして生命いのちあるモノの役に立つために生まれたのだ。はやく私に、命令を。はやく私に、名誉ある役割を。


 トラックの揺れが、止まった。いよいよ到着したのだ。

 扉が開き、灰色の量産型作業人形ワーカー・アンドロイドによって私は運び出される。

 到着したのは、キラキラと輝く騎士隊ナイト・フリートの巨大な隊舎。大都市の中心にある、騎士人形ナイト・アンドロイドの出撃拠点。ここが私の、活躍する場所だ。


 隊舎の中へ運び込まれ、私は埃ひとつない作業台に下ろされる。

 量産型が、私の胸からケーブルに繋がったままの原動力ハートを少し抜き出し、最終チェックを行う。


 原動力ハートは、私たち人形アンドロイドのエネルギー源と記憶領域を統一した大切なパーツだ。それが破壊されれば二度と、動くことも、記憶を再生されることもない。生命いのち無き私たちにとって、限りなくそれに近いものが原動力ハートだ。


 チェックは問題なかったようだ。当然だ。どれだけメンテナンスされたと思っている。

 量産型は、原動力ハートの裏側にある私の自律行動スイッチをオンにして、胸に戻す。慣れた手つきで、素早くやられた。おい、大切な瞬間だぞ。もっと丁寧にやってくれ。


 そして輝く、私の原動力ハート


 自律行動が許されたことで、私は作業台から起き上がる。自分の脚で立つ、その感触がたまらない。

 視界には、この隊舎の地図が映る。そこには私の、向かうべき場所が示されていた。この隊舎で一番大きな演習場。そこへ迎えというサイン。

 初めての命令だ。

 

「ここからは自分で歩いてくれ」

「言われなくても、そうする」

「……試作機って嫌いだ。どいつもこいつもプライドが高い」


 量産型の言うことなど無視して、私は歩き出す。

 歩きながら、ふと横を見る。光沢のある鏡のような隊舎の壁に、私の姿が映っている。


 最新鋭の試作機であることを証明する、純白のボディ。悪党どもに騎士隊ナイト・フリート威光いこうを示すための、真紅のマント。頭上に輝く黄金の羽飾りは、私固有のシンボルマークだ。


 ようやく、自分が自分である実感が湧いてくる。私は発声器のチェックを行う。


「私の名前はハルジオン。誇り高き騎士人形ナイト・アンドロイドだ」

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