第6話 適正ツールは斧? 知るか! 俺は工業MOD使うぞオラァ!!

「おうキヤ! 今日は働きに行くぞ!」


「へい、ボルタオジキ!」


「なんじゃそのオジキとは……」



 キヤは変人だ。ここ数日一緒に過ごしてボルタが感じたのはソレだ。話す言葉が元々キヤが居た世界由来のものなのか、会話がどこか斜め上を向いているような気がする。だがそれほど常識外れの行動はしない。むしろ礼儀をわきまえ、作法も言葉遣いもそれほど悪くないのだ。初日のアレは極限状態だったからなのだろう。腹が満たされれば若さゆえの機敏さでよく働いてくれている。



「今日は村で木こりの仕事を手伝う。倉庫から斧を取ってこい、ワシは弁当を準備しておく」


「オス!」



そしてキヤが倉庫から斧を持ってきたタイミングで二人は弁当を持ち仕事へ出かけた。




ЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖ



  この辺りの森の木はどれも非常に大きい。イメージとしてはジャイアントセコイアという巨木に近い。大人4人が手を広げてやっと幹を一回りできるほどだ。ボルタ曰く、この森に漂う魔力が関係しているとかなんとか。


 今日の二人の仕事は間伐も兼ねた伐採作業だ。森の維持にはある程度の伐採は必要となる。大きな木が増えすぎると葉が光を遮り地上に光が届かず下草が生えなくなってしまう。そうすると保水力が低下し土壌が流出しやすくなり、土砂災害が発生する可能性が出てくる。


 この森は魔力の関係か非常に木々の生育が早く、50年ほどで巨木となる。巨木が乱雑に生えすぎると地面の栄養状態も非常によくない上、魔物や猛獣の住処が人里に非常に近くなってしまうというリスクが出てくる。


 幸い薪や建材などで材木の需要は非常に高い。建材としての強度も高く薪の質もいいためこの辺りの森の木々は1種のブランドと化している。が、近年生育スピードが速まってきているのか、人手が全く足りない。なのでボルタたちもたまにバイトとして雇われるのだ。


 キツい作業だが割もいいので最近のボルタの懐をほどよく温めてくれている。そして二人は歩いて数十分の現場へとやって来たのだ






「はぇ~……スッゴいおっきい……」


「おう、この辺りに生える木々はすさまじく大きい。一本伐れば1年は薪を気にせずに済むほどな」


「今日のノルマはどれくらいなんです?」


「木が柔らかければ、1本行ければいいとこじゃろうな。なんせ切り倒しても枝を切ったりと仕事はゴマンとある。それにな、この木はすさまじい固さで伐採しにくいんじゃよ。今日は素人のお前がいるし中途半端で終わるじゃろ。普通なら1本平均して1週間かけてする作業じゃ」


「まっさかぁー、さすがに一本はできるでしょー!」


「おっ、そうだな。さて、木こりに会って切る木を教えてもらうぞ」


「ウス」




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「で、伐採はできたか?」


「できませんでした……」



 夕方、精根尽き果てて地面に大の字になっているキヤがいた。一方ボルタはピンピンしていて、水筒から水を飲んでいた。進行度合いは三分の一ほどだ。先は長い



「大自然には勝てなかったよ……」


「うーむ、思ったより作業が進まんのぅ。この木はかなり固いようじゃな」


「経験者から見ても固いんですか、それは仕方ないね……うーん、作ってみるかなーアレを」


「む? なんか作るのか?」


「できるかどうかはわかりませんけど、まぁ出来たらいいなって感じでやってみます。ボルタさん、魔物の素材を貰ってもいいですか?」


「それは構わんが……」



 それから数日、キヤは仕事終わりに作業場に引きこもるようになった。ちゃんと仕事終わりにしているあたり律儀である。ちなみに今日切っていた木は10日かけて手作業で伐採された



そうしてしばらく経って


ЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖ






「出来たよボルタさん!」


「なんじゃいいきなり?」



 キヤの方を見ずに包丁で野菜をトントンしながらボルタは答える。朝っぱらからキヤはかなり興奮しているようだ。



「前々から言ってたでしょ、この森の木の伐採が大変だって。伐採作業を大幅に短縮できる道具が出来たんですよ!!」


「ほーん」


「メシ食ったら見てください!! あ、お皿だしますね!」



 ボルタは調理中で包丁を握っているので気の抜けた返事で返す。それを分かっているのかキヤは気にしていないようだった。朝食後、ボルタは驚愕の悲鳴を上げることになるのだが








「というわけで、出来たよボルタさん! 『チェーンソォ~!』」



 なぜか急にダミ声になりながら発明品を取り出すキヤ。キヤの手には見たこともないものが握られている。ゴツい持ち手に細長い楕円形を半分にしたようなものがついている。その楕円形に沿うように何か平たい板のようなものがつけられているようだ。



「で、そのチェーンソーってのはなんじゃ?」


「んふふ、見ててくださいね」



 キヤはボルタを引き連れ大きな丸太が置いてある場所に赴く。以前二人が手作業で伐採した木材の一部で、まだ枝を切ったりとやることの残っているものだ。



「そんじゃいきますね? ガイガn、じゃねぇや、チェーンソォォォォォ!!! 起動ォォォォォォ!!!」


「なぜ叫ぶ」



 持ち手の安全装置、セーフティを外し魔石に魔力を流し込みながらトリガーを引く。すると



『キィィィィィ!!!』



 独特の音を立てながら楕円形の外周部分が激しく回転しだした。それを見届けたキヤはそのまま木の枝の部分に押し付ける



『ガガガガガガガガガガガ!!』



「おぉぉぉ?! なんじゃコレは?!」



 木を削るような大きな音を立てながらチェーンソーはその刃を丸太の枝にゆっくりと食い込ませていく。チェーンソーはキヤがいる方向にオガクズを散らしながら、枝を次々と落としていく。斧でやれば枝一つに数分かかるものを、この道具は数十秒で終わらせてしまった



「またすさまじいものを作り出したなお前……」


「いっひっひ、でも使いどころさんは気を付けなきゃですけどね。これがあったら世界中の森林が短期間でハゲますから」


「おい、どこ見て話しとんじゃい」


「どこって……ねぇ?」



 小馬鹿にしたような態度でボルタの頭頂部をチラリと見るキヤ。



「よぅしお前今日おかず一品抜き」


「それって実質パンだけじゃないですか!! やだー!!!」



結局チェーンソーはほとんどお蔵入りのような扱いとなった。






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チェーンソー(異世界製)


 言わずと知れた木を伐採するための道具。エンジンの動力でチェーンを高速回転、チェーンにつけられた刃で木を削り切る道具だ。


 異世界ではエンジンはないので回転の魔石が主な動力である。回転の魔石に噛み合うように作られた木の歯車が動力をチェーンに伝える。チェーンメイルリザードの皮が細切りにして使われており、それがチェーンの役割を果たす。刃にはウッドゴートの歯が使われており、チェーンに接着されて使われている。接着剤は粘着性の高いスライムの体液。ポピュラーなモンスター素材である


 木を削ることに特化したウッドゴートの歯なのでそれほど殺傷力は高くない。だが回転中はさすがに危険なので手を触れないようにしたい。


 ちなみにキヤは売り出してもいいと思っているが、厳しい制約や免許制などを使って普及を抑制しようと考えている。でないとマジで世界中禿山になるからね仕方ないね

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