第3話 出来たよボルタさん! 道具を作る道具だ!

 次の日の朝、ボルタは工太の様子を見に貸した部屋に赴いていた。



「あいつ、寝床に戻ってないとこを見ると徹夜しておったな? 予想通り職人気質じゃのう……」



 部屋に入るとそこにキヤはいなかった。そのかわり机の上には木くずやら魔石を削った粉やら、板の間に魔石や色々な部品を挟んだものが置いてある。まだ未完成なのだろうか? ヘタに触れて壊してもアレなので触らぬようにして観察していると



「あ、おはようございますボルタさん!」


「おう、起きとったのかキヤ」



 外の井戸で顔を洗っていたのか、キヤが部屋に戻ってきた。持参していたカバンに入っていたのか、タオルを首にかけている。



「えぇ、さっき朝日に起こされました」


「徹夜しとったんじゃないのか?」


「気が付けば意識がトんでました、机に突っ伏して寝てたみたいで体がバキバキです」



 伸びをしようとするが体が軋み痛んだようで、「あててて」と苦悶の声を上げるキヤ。




「それで、お前が作りたいってモンはできたのか?」


「いえ、材料の成形に手間取ってました。完成は今夜あたりですね」


「意外だな、完成まで机にかじりついとるモンかと思っとったわ」


「休む時は休み、やれるときに全力を尽くす、それが最適なパフォーマンスをするうえで得重要なことですよ。まぁ昨日はちょっとテンション上がり過ぎましたけど」


「そうか、いい心がけだな。それはいいが、どうする? 昼も作業を続けるか?」


「いえ、昼はボルタさんの仕事のお手伝いが出来ればと思ってます。何をするにも金・金・金!は大事ですから」


「ガッハッハッハ!! 3回も言うか! そうだな、金は大事だ!! 本当に面白い奴じゃな!! 気に入った! お前何かアテができるまでここに住め!!」


「アザァーッス!!」



 こうして元冒険者ボルタに奇妙すぎる同居人が出来た。ボルタはしばらくの間、この同居人の引き起こす数々のイベントに振り回されることとなる




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 ボルタの許可を得、魔石箱をいじっていた工太はまた珍し気な魔石を見つける。直径3センチほどの大きさで表面にはなんと矢印マークが刻まれている



「ボルタさん、この矢印マークの付いた魔石ってなんの魔石なんです?」


「これもまた微妙な魔石じゃの。産出は少ないものの特に利用価値のない魔石じゃ。『推進の魔石』という」


「ふむ……どういったものなんです?」


「まぁ見ておれ」



 ボルタが魔石を机の上に置いて、触れて魔力を流すと魔石がゆるゆると矢印の方向へ動き出した



「…………どういうことです?」


「このとおり、魔石に触れながら魔力を流すと矢印の方向へ少しずづ進むんじゃ。昔はなにか利用価値があると踏まれ研究もされておったようじゃが、問題点が色々あっての」



 曰く、動かすには魔石に触れ続けていなければならないこと。魔石が地面などなにかに触れていなければならないこと。それでなにができるの?ということ。



「どうじゃ、お前はこれでなにか作れるか?」


「コレって流す魔力によって進むスピードとかって変わったりします?」


「さぁ、試したことがないからわからんの。そいつはやるから自分で確かめてみぃ」


「ウッス! てかこれって、俺の予想が正しければメッチャ有用だぞ? 回転のと合わせれば一定の速度でモノが削れ、均等なヤマが出来る……」



 なにやらブツブツ言いだしたので、ボルタはキヤを放置してお茶の準備を始めた




ЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖ



数日後




「出来たよボルタさん! コイツを見てどう思う?」


「なんじゃい、作っとったモンが出来たのか?」


「いえ、それとは別件なんですけど。コレですよ!」



 朝一番なにやらテンションの高いキヤ。彼が手に持っていたのは細長い木の棒だった。だがボルタは気づいた、この棒は普通の棒ではない



「なんじゃコレは?!」



 その棒には均等な螺旋が凄まじい精度と密度で刻まれていた。現代でのボルトと同じレベルで螺旋が入っていると言えば想像しやすいだろうか? ミゾに爪を入れ、その緻密さに驚きを隠せないボルタ。


 さらにこの棒は綺麗な円柱なのだ。普通綺麗に円柱状に加工するのは魔法で、それ以外だと手作業で削るのだが、魔法で加工すれば綺麗にできるが魔力の消費も激しく量産には向かない。手作業は言わずもがな精度が悪くなり棒がデコボコになる。



「ありえん、お前、こんな細かい作業が出来るのか?!」


「あ、それ俺が手作業で刻んだわけじゃないんですよ」


「??」


「まぁこっち来て見てみてください」




 キヤについていくと着いたのは家の裏手だ。使わない薪などが乱雑に放置された場所で、ボルタも薪が必要になる冬以外はあまり行かない場所。そこにあったのはキヤが新しく作ったらしい背の低い机と、その上に置かれた奇妙なものだった



「なんじゃあの机の上のモンは?」


「あれはミニ旋盤ですよ。さっきの棒を作るのに作った設備……というかこの規模だと道具ですね」



 旋盤とは金属を加工する際に使われるもので、金属を固定し回転させバイトと呼ばれる金属用刃物で切削加工するための工作機械である。


 そう、キヤが作ったのは木製の小さめの旋盤だった。本来は地面に固定された大型の設備だが生憎とキヤにはまだ金属を加工できる設備や場所もなかったので、残念ながら机の上に収まるサイズのものを作ったのだ。


 ちなみにキヤが作った旋盤は卓上旋盤と呼ばれる小型の旋盤で、本来なら電気などで動かすのだが、キヤは魔石を動力として採用し製作した。



「ここに木の棒があります。コイツを……」



 キヤは先ほどと同じような、しかしミゾのない木の棒を取り出し、ミニ旋盤にセットする。そして魔石に魔力を送り旋盤を動かした。



 静かに、だがそこそこの速度で木の棒が回転し、それを確認したキヤは刃を棒に押し当てる。同時に青く光る部分に手を当てると、刃のついている部分が一定の速度で棒を固定した場所から離れていく。机には木がレールのように打ち込まれており、正面から見ると丁度『凹』の形になる。レールがあれば材料を削っていてもズレたりすることはない



「お前、これもしかして……」


「ほいっと、コレでさっきと同じヤツが完成です! ボルタさんの予想通り、コレは回転と推進の魔石が原動力なんです!」



 回転の魔石を仕込んだ部分で部品を回し、推進の魔石で一定速度に保ち加工する。魔石に流す魔力の量を調整すればミゾの間隔も自在だし、刃の位置を調整すればミゾの深さも自在だ。キヤはむしろなんでいままで作られなかったんだ?と疑問に感じている



「コレはコレでスゴいが……何の役に立つんじゃ?」


「さっき作った棒みたいな精密な部品の加工とか、大型化できればこの世界にあるであろう馬車の車軸を滑らかに作るとか……あとは」



 キヤがミニ旋盤をガチャガチャといじると、まっすぐだった旋盤が今度は逆L字型になって机の上に鎮座した



「さっき木の棒を挿してたとこに加工用のドリルをいれて、この推進の魔石の部分に加工したい部品……例えば木の板や鉄板を固定すればカンタンに穴があけられますよ!」


「ほう! 鎧の加工屋が欲しがりそうじゃな!」


「ハイ! ほぼ勢いで作りましたけど、大体満足ですね! 贅沢言うと、丈夫とはいえコレ木製なので……いずれはもっと大きく、金属で作りたいです」


「うむぅ……確か近くの村に鍛冶屋があったの。また行ってみるか?」


「オッス!」


「そういえば、あっちにもまだなにか置いとる用じゃが、なんなんじゃ? せっかくじゃ、見せてみィ」


「アレですか、ちょいとお待ちを」



 キヤは別の場所に置いてあった道具を持ってくる。台の上に、斜めにせり出すように、滑らかなキャタピラのような部分がある機械だ。



「コイツはサンダ。木や鉄を削り加工するものですね。種類としてはベルトサンダってやつなんですが」


「その出っ張ったとこに巻かれているのは……魔物の皮か? コレも回転の魔石を使ったものか?」


「デスデス。使ってみますね」



 キヤはその辺りに置かれたデコボコの木の板をとってくる。ノコギリで切ったばかりらしく、表面はどこもザラザラで間違えればトゲが刺さってしまいそうで危ない。


 サンダの魔石に魔力を流し、その木の板を高速回転し始めたベルト部分に押し付ける。『ヴィィィィ!』と音を立てながらベルトは木の板を削り、滑らかに研磨していく。細かい木くずが舞うと同時に木の板の一面が奇麗に研磨され、指でなぞっても棘一つ刺さらない滑らかな表面になった



「な、なんじゃコレは……あっという間にザリザリの木が滑らかに……」



 削られた面と削られていない面を指でなぞり、その圧倒的な違いを感じ取るボルタ。



「いいでしょ? 家具職人とか大工とかに需要ありそう! さっきボルタさんが言った通り、このベルト部分は魔物の皮を使ってます。ラベルには確かサンドシャークって書いてあったかな? 表面が程よくザリザリだったんで作ってみたんですが、うまく行ってよかったッス!」


「アレを使ったのか! 昔散々苦労して狩った甲斐があったわい……」


「ヘえぇっしょいおんどりゃぁ!! グズッ、木くずでムズムズする……」



 盛大なくしゃみをし鼻水垂らすキヤを見ながらボルタは、もしかしてとんでもないヤツを拾ってしまったのか? と今更思うボルタであった。






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