第2話 自覚

ガタンゴトンガタンゴトン

はっと目を覚ます。

少し頭がくらくらする。

周りを見渡す。でもすぐにここがどこかわかった。

電車の中、いつも通りの光景だった。

あの後どしたんだっけ

さっき起きたこと?夢?

薄っすらとしか思い出せない。

ナギっちと電話してて、学校の話をした気がする…完全には思い出せないが多分夢だろう。

昨日の記憶が入り混じった夢だ。

そう確信した。

通学中の電車で寝てしまうことはよくある。

薄っすらとしか思い出せない、夢とはいつだってそんなものだ。

少し時間が経ってからまた思い出した。テストだ!テストの結果が良かったから自慢してたんだ。

それで寝ちゃったんだっけ…

「まぁいいや。思い出したとて何かが変わるわけじゃないか」

私は電車の窓に目をやり街の風景を見て時間を過ごした。

私が降りる駅に到着しドアが開く、電車から降りた私はホームにある大きな時計を見る。

今日はテストの日ではないから歩いても余裕で間に合う。

初めて遅刻せずに席につける。

きっと先生は褒めてくれると思う。

私は歩いて学校に向かった。

正門に着いたときに空を見上げた。

空は…少し曇っていた。

今日はかなり暑い。なんなら昨日も暑かった覚えがある。

教室は冷房が効いていて涼しい。廊下は早足で歩いた。

教室のドアを開ける。先生と目があう。遅刻をしなかった私を先生は褒めてくれると思っていた私は先生の第一声に驚かされた。

「また梓ちゃん遅れてきたの?次はないですからね!」

「えっ、でも今日は通常授業だから…」

「何言ってるの?今日はテストの日だよ、昨日も言ったでしょ?許容範囲内だから怒りはしませんが次はないですからね! ほら速く席に座って」

言われるがままとりあえず席に座った。

席に座るとすぐに先生が「わからない問題があったら言ってねわかるまで教えてあげる」と言ってプリントを机に置いてくれた。

配られたプリントを見る。

「同じだ…」

思わず声に出す

「先生あのこの問題昨日しました」

教室を出ようとする先生を止めるように私が言う先生は半開きにした教室のドアを1度閉め私の元に来た。

「それはどう言う意味?家で勉強した内容があった?それはいいことだね」

「違います。昨日先生が配ってくれたプリントと同じやつです。配るプリント間違えてませんか?」

「昨日?昨日は授業をしたのでプリントは配ってませんよ?」

そんなはずがなかった。確かに覚えている。昨日この教室でこの問題を解いた。

「熱でもあるんじゃない?保健室行く?熱中症かも…大丈夫?」

「いや、大丈夫です。すいません多分勘違いです」

先生は不思議そうな顔をして離れて行った。

勘違い。口ではそう言ったが実際そんなこと思っていない。

一瞬ドッキリかなにかかとも思ったけど周りの反応や先生の表情からそれも違うとわかる。そもそもそんなドッキリやるメリットがない。

頭の中がこんがらがる。

ナギっちに助けを求めようと斜め後ろを見る。

だが今日もナギっちは休みらしい。

「あのサボリ魔め、肝心な時にいないんだから」

でももしかしたら本当に勘違いかもしれない。

それを確かめるためカバンから筆箱を取り出しテストを解く。

だがやはりおかしい。

計算せずとも答えがわかる。

昨日した問題だから…

全て解いて先生を呼ぶ。先生は丸付けを始める、チラチラとこちらの様子を伺いながらペンを走らせる。

丸付けが終わると先生は褒めてくれた。

返されたテストの点数を見る58点だった。

「暗算で解いたの?梓さんどうしちゃったの?家で勉強した?この調子で頑張ろうね」

不気味に感じ軽く会釈をしてプリントをカバンにねじ込む。

1秒でも早く教室から出たかった。

ありがとうございましたと先生に挨拶をして教室から出た。

走って駅に向かい帰りの電車に乗り込む。

ガタンゴトンガタンゴトン

降りる駅の2つ手前の駅に差し掛かるあたりで右足に異変を感じる。

とっさに私はスカートの右ポケットに手を突っ込み中に入っていた物を取り出す。取り出した物を見ると綺麗に折られた紙だった。

その紙を開いて私は後悔した。

昨日の65点のテストの回答用紙だった。

「テストはカバンに入れたはず…それに点数は58点だったはずだし。やっぱり昨日テスト受けたよね…でもなんで先生は嘘をついたんだろ………」

たくさんの事が頭の中に浮かんでは消えて行った。

怖くなった私はマナーが悪いことはわかっていたが比較的電車内は空いていたためナギっちに電話をかけた。

「どしたんだいアズッさ?あんたから電話かけてくるなんて珍しいね。息切らしてるけど大丈夫?なにしてたの?もしかして…」

私は今にも泣き出しそうな声で答える

「信じれないことが起きてる。みんなが私を騙してるだけかもだけど。なんて言えばいいんだろわかんないけど助けてほしいとにかく怖い」

「待て待てホントに大丈夫?梓、まずは落ち着いてほら深呼吸して」

ぎこちない深呼吸をする

周りの席から視線を感じる、だが今は恥ずかしいと言う感情より怖いが勝っている。

学校で起きたことを手短に話した。


「きっと何かの間違いだよ。でも昨日

プリントなんて配ってたっけ?英語の授業して……どんなプリント?」

「ナギっちまで…英語の授業は2日前だよ?」

「え?梓大丈夫?いや一回落ち着こう。なんで英語の授業が2日前あったって思うの?」

私は今日起きたことを全て話した。

テストのこと 昨日のこと 夢のこと

全て

「ポッケにあった回答用紙は解いた覚えあるの?誰かの間違えて入れちゃったとかじゃなくて?」

「…………」

途中どんな会話をしたかは覚えていないがナギっちは私が電車を降りるまで相談に付き合ってくれた。

「ありがとナギっち少し楽になった。

色々運が悪いことが重なっただけだよね…ホントありがとう風香が友達でよかった…」

「なんでいきなり下の名前で呼んだんだよ…またなんかあったらいつでも電話してきてね。一応親にも言いなよ。んじゃまたね」

私の方から電話を切った。

ナギっちのおかげでかなりスッキリはしたがまだモヤモヤする部分はある。

電車を出るとき後ろから目線を感じる少し恥ずかしく感じた。回答用紙は両方なんとなく駅のホームにあったゴミ箱に捨てた。

駅を出たときなんとなく空を見上げた。

空は…黒い雲に支配され今にも雨が降り出しそうだった。

私が走り出したと同時に頰に雨が当たった。

駅から家は目と鼻の先ってほどではないがかなり近い距離だ。私は走りだした。

ポツポツと雨が降り出す中私は家のドアを開けた。

玄関には見慣れない革靴があった。

父の物だとすぐに理解した。

お父さんが起きてたら今日あったことを全て話そう…そんな軽い気持ちでいた。その後に衝撃の告白をされるとはその時の私は知る余地もなかった…

………

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