復讐
国王を殺すのはそう難しくないと思っていたがそうでもないらしい。
物理的に殺すのはそう難しくない。ただバリスタや魔法兵器で殺せばいいだけの話だ。問題は俺の心理だ。何も殺すことをためらっているわけではない。そんな感傷的な部分はとうの昔に捨てた。
難しいのは、別に殺したい奴が現れてしまったからだ。
塚原を殺したからだろうか、国王は完全に守りを固める姿勢に入ったようで、ほかのメンバーを守護に置いていた。
スーツ姿の伊ヶ崎。
革ジャンの古田。
そしてニートなのだろうか、スウェット姿の星澤が謁見の場におり、王の姿はなかった。
「敵っていうのはお前のことかユキハル」
スーツの伊ヶ崎が言った。
「敵と言えばそうかもね」
「ふっ、3対1じゃ話にならないな」
革ジャンの古田がそう言ったが食い気味に星澤が言った。
「そうでもない」
星澤は、革ジャンの腕を切り落とした。
「ぎゃああああ、てめえ何しやがる」
「あの頃は俺に力がなかったからお前たちに反抗できなかった。だが、今なら反抗できる」
どうやら仲間割れを始めたらしい。その間に伊ヶ崎でもいじめておこう。
「伊ヶ崎」
「なん……ぐああああ」
俺は伊ヶ崎の両足を奪った。常套手段だ。
革ジャンは未だに腕の痛みに呻き続け、スーツの様子に気づいていない。
俺は伊ヶ崎の足に中級ポーションをかけると言った。
「首謀者のお前にはすべての苦痛を味わってもらう」
「何を言ってる。俺はただ遊びでやってただけだ」
皆同じようなことをいう。支配者は、上層部にいる人間ってのは皆同じようなことを言うんだな。下の人間のことなんか考えやしない。
だから人間なんてくそなんだ。
俺はまず、伊ヶ崎のみぞおちを蹴り上げた奴が腕で痛みをこらえるために、防御するためにみぞおちを抑え始めたので。俺はさらに両腕を切り落とした。
呼吸を失った後の痛みだ。伊ヶ崎はひどく苦しんでいるようだった。
両腕両足を失った体にスーツをびしっと来ている姿がそこにはある。
「俺の腕が、俺の脚がああ」
伊ヶ崎は自分の身体を見ながら嘆いている。嘆けるうちはまだ大丈夫だ。
生きている。
俺は仰向けに寝転がる伊ヶ崎のみぞおちを殴った。何度も、何度も。
伊ヶ崎は仰向けのまま嘔吐した。いいものでも食べてきたのだろう、肉片やら何やらが口からあふれ、呼吸が苦しそうだ。まだだ。俺はみぞおちを殴り続ける。革ジャンの古田にやられたように、何度も何度も。呼吸ができず、意識を失った伊ヶ崎を蹴り上げて、顔面に大量の水を浴びせる。
ばっと目を覚ました伊ヶ崎は体を苦の字に曲げて、その後エビぞり、何とか逃げようとしている。
「逃げんなよ」
みぞおちを蹴り上げる。
「みぞおちばかり蹴るんじゃねえよ」
「そう古田に指示してきたのは誰だ? あ? おまえ高校時代自分が俺に何をしたのか覚えてねえだろ。俺ははっきりと覚えてるんだよ」
蹴り上げる、蹴り上げる。
「作業着着てた塚原は俺に虫を喰わせるのが好きだったよな。だから虫を喰わせて殺してやった。お前は首謀者だ。全ての痛みを受けてもらう」
俺は、今度は煙草を取り出した。火をつける。
「何をするつもりだ」
「お前の大好きなことだよ」
俺は腕の丸くなった肉に煙草を押し付けた。
「ぎゃ」
伊ヶ崎はのけぞる。
もう一本煙草の箱を取り出す。
今度は火をつけると、目に近付けた。
「やめろやめろ! 死んじまう」
「失明するだけだろ。それくらいで騒ぐな」
押し付けた。喉の奥がガラガラと震えるような悲鳴が上がる。
「ほら、もう一方もだ」
「やめ、……やめてくださ……ぎゃああああああああああああああああああ」
両目を焼かれた伊ヶ崎はびくびくと痙攣していた。
「おい、寝てんじゃねえぞ」
タバコの火を足の肉に押し付ける。
「ぎゃ」
寝たふりをしていた伊ヶ崎が目を覚ます。すでに目はないが。
俺はさっきからやけにうるさい星澤の方を見た。奴は革ジャンの古田を八つ裂きにしていた。目を突き刺し、両腕を切り裂き、身体は肉塊になっていた。星澤のスウェットは真っ黒に染まっている。
「おい、殺してんじゃねえよ星澤」
「あ、ごめん。楽しくてつい」
俺は舌打ちをすると、伊ヶ崎に向き直った。インベントリから例の虫の肉を取り出す。
「伊ヶ崎。伊ヶ崎! 聞いているか」
奴は肯いた。
「今から選択してもらう。虫の肉を食うか、今までされたことをもう一度全部やり直されるかだ。俺は特級ポーションを持ってる腕だろうが脚だろうが、目だろうが直してやるよ。ま、そのあとまた破壊するんだけどな。どうする? 選べよ」
伊ヶ崎はためらうことなく
「虫の肉を食べます」
そう言った。
「あ、言い忘れてたけど、これ毒あるからな。死ぬほど、いや、死にたいいと思うほど辛いみたいだぞ。塚原が言っていたから間違いない。でも選択しちゃったからな。しょうがない。ほら喰えよ」
すでに腐り始めている虫の肉はひどい悪臭がした。伊ヶ崎は口元に押し付けられたそれのにおいをかいで嘔吐いたが、最終的には噛みついた。
「もっと喰えよ。てめえ飲み込んでねえのわかってんだからな。全部喰えよほら」
俺は奴の口の中に指を突っ込んで、無理やり飲み込ませた。
体の痙攣が始まる。
声にならない叫び声があたりに響く。
少量しか与えていない。死ぬまでずいぶん時間をかけてもがき苦しむだろう。
俺は星澤のもとへ近づいた。
「星澤」
「ユキハル君……。ごめん俺、あのときは怖かったんだ。またいじめられるのが怖くて、それで、いやだったけど、ユキハル君を一緒にいじめちゃって」
「そうだったのか」
俺は微笑む演技をした。
「だから、これから罪滅ぼしするよ。力になる。なんでも言ってよ」
「そうか、じゃあ」
俺はバリスタを発動させた。
「え?」
「死ねよ、星澤」
バリスタの矢が星澤の眉間を貫く、脳漿をぶちまけて、星澤は死んだ。
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