初めてのお手紙

 羊皮紙に書かれていたのは日本語だった。カマエルが何らかの操作をしたのか、それとも俺になんか変な魔法でもかけたのかは知らない。読めるのは幸いだ。


 俺は手紙の初めの文字を見て

「はあ?」

 と声を出してしまった。手紙の内容は以下の通り。


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 神よ


 我々のような者共にこのようにお言葉を賜りまして感謝しております。

 本来であればより高価な品々を献上すべきなのでしょうが、なにぶん、我々も生活に苦しんでいる状況でありこれ以上の食事を献上することができません。何卒ご容赦ください。


 (中略 俺が送ったA4用紙の素晴らしさについてぐだぐだと書かれていた。あと字が綺麗だとも)


 不躾ながらお願いがございます。ポーションを一つ頂けないでしょうか。我々の中に重篤な病気にかかっているものがおり、天に召されるのも間近というものがおるのです。我々が薬草を使いなんとか命をつないでいる状況でございます。


 何卒よろしくお願いいたします。

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 俺が書いたあの手紙はどこに送られたんだ?

 神? カマエルはなんと言って俺に食事を送らせているのだろう。

 まあいい。ポーションを送ってくれと指示を出された。指示には従わなければならない。

 『備品』のボタンを押してポーションを選択、しようとしたが、いくつか種類があるな。一番安いポーションは10ポイントだが薬草と同じくらいの効果と書いてある。これでは意味がない。重篤な病気と言っていたから怪我を治すポーションでもだめだ。

 解毒?

 治癒?

 わからない。

 とりあえず一番高いやつを選んどけばいいだろう。説明にも大抵の病気は治すと書いてあるし。

 1000ポイントか。

 いや、指示に従うと決めたのだ、何ポイントだろうが構わない。

 クリックするとインベントリに入った。

 外に出て取り出すと、また手紙を添えて(ご自愛ください)鉄の箱に入れた。

 230ポイントになってしまったが当分大丈夫だろう。


 ◇


 王都より遠く離れた地、クロトア。領主の税収は厳しく、民は貧困にあえいでいる。

 ここに一つの教会が存在した。名をナサギ教会。2人のシスターと1人の司祭が任を果たしている。



 施設は大きくないにもかかわらず、施療院の役割も果たしているため人の出入りは絶えない。ミサなどの教会としての行事よりむしろ施療院としての仕事のほうが多く、教会内のベンチはすべてベッド代わりに使われていた。



 ある日、教会内の聖像の下、司祭やシスターが祈りを捧げる場所に金属の箱が置かれていた。誰かのいたずらかとシスター・コールは思った。中に入っている手紙には毎日パンとスープを入れるようにと書かれていた。手紙と一緒に銀貨が一枚入っていた。



 それは現行使用されている銀貨ではなく、文明以前、神と天使が顕現していた時代に使われていたというもので、翼が刻印されていた。聖遺物とでも言うべきそれは膨大な魔力が蓄積されているという。司祭に確認したところ、本物である、と。



 それ以来毎日欠かさずパンとスープを金属の箱に入れ、小規模ながら礼拝をした。

 先日、箱に入れた食事が消えた。

 数日後、見たこともない良質な紙とともに、無機質な文字が並ぶ手紙がともに入っていた。


 感謝の意とお礼になにか施しをするとのことだった。

 シスター・コールは手紙を読むと、声を上げて泣いた。

 つらい日々だった。

 もうひとりのシスター・テレスが倒れ衰弱していく姿をみるのが辛かった。

 毎日神に祈った。

 ついに神は現れた。

 ――お母さん、間違ってなかった、神様は祈るものをお救いくださる。


 コールはすぐに司祭とともに羊皮紙に手紙をしたため、箱の中に入れた。


 次の日、金貨10枚はくだらない特級ポーションが手紙とともに現れた。

 コールと司祭は口をあんぐり開けた。2級ポーション程度だと思っていたのに。

 話すのもつらそうだったテレスはポーションを数滴飲んだだけで立ち上がれるまでに回復した。

 二人は抱き合って喜んだ。


 施療院の人々にもポーションを配っていった。特級ポーションは一滴を薄めても劇的な効果があった。

 施療院は患者が減り、教会としての役割を取り戻した。


 領主が目をつけるまでは……。

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