第21話支援部は活動休止

「よっ、皆野。一日目ご苦労さん」


「……っ! いってー! ちょっと黄島先生、加減してくださいよ……」


 放課後、支援部へと向かって廊下を歩いている俺の尻を叩いて、黄島先生が俺を労った。


 ただ、加減知らずの一撃であり一瞬呼吸が止まる衝撃を尻に受けて、思わず仰け反りながら痛みに悶絶する。


 涙目でさすりながら、俺は黄島先生に抗議した。


「いやー、すまんな。可愛い尻がそこにあったんでつい」


「……先生、それPTAにセクハラと暴力で伝えてもいいですか?」


「ならば私はそれを伝えようとする皆野のその口を、この手で割いてやるまでだ」


「何考えてるんだあんた。サイコパスかよ」


 黄島先生は俺の抗議を受け入れず、セクハラ発言をする。


 俺は呆れて訴えると脅しかけると、逆に口を割くと脅し返されてしまった。


 俺は思わず敬語を忘れて、素で黄島先生を罵ってしまった。先生などと失礼な言い方をして。


 だが、先生は気にする様子もなく、ケタケタ腹を抱えて笑っていた。本物のサイコパスかもしれない。


「まあ、冗談はさて置いてだ。ちょっと皆野の事で気になる噂を聞いたんだが、日堂と揉めたんだって?」


「あ、黄島先生の耳にも入っちゃったんですね。はい、今朝少しだけ」


「まあ、噂しか知らないが、気をつけろよ。日堂には生徒指導の先生も手を焼いている。やばかったら私を頼れ」


「ははっ、そうならないようにしますよ。まあ、ピンチの時は頼らせてください」


 黄島先生も俺と日堂さんが揉めたことを耳にしていたようで心配してくれていたようだ。


 何かあれば頼るようにと言ってもらい、俺はありがたくその好意を受ける。


 しかし、生徒指導の先生すら手を焼くのかその日堂さんは。


 面倒な事にならなければいいんだが。


「お前と春野と土方は心配いらないと思うんだけど、近藤と皆野妹は少々心配だからなあ」


 先生は腕を組んでうんと悩みながら、真白と翠を心配な人間としてピックアップした。


 春野は昔の事があるとして心配いらないのは納得できるが、魅墨はなんでなんだろう。


 純粋に疑問に思って、黄島先生に質問をした。


「春野はわかるんですけど、土方も大丈夫なんですか?」


「ん? ああ。土方の実家、道場もやってるならな。あいつはあれで、空手黒帯だぞ」


「へえ、空手ですか」


 黄島先生の説明を聞いて、俺は知らなかったが納得する事は出来た。


 確かにあの男勝りな性格はそういうところから来ているのかもしれないし。


 うん、だとしたらやはり心配なのは真白と翠か。


「翠は俺が一緒に登下校するんで大丈夫なんですが、真白はどうしましょうか」


「うーん、そっちは私の方でなんとかしよう。あくまでほとぼりが冷めるまでなら私が登下校を見守ってもいい。とにかく、注意だけはしろよ」


「了解しました」


 とりあえず翠は俺が。真白は先生が一緒に登下校する事で取り急ぎ確定とした。


 春野と魅墨は自己防衛が出来そうなので除外したが、何事もなければいいのになあ。


 思ったよりも大事になってしまった事が、自分の中の心配の種として胸を締め付けた。


「そうだ。今日から支援部は問題解決まで活動しないし適当な理由をつけて、帰るように伝えておいてくれ。近藤には私から説明するつもりだ。あと、服装指導は引き続きしてもらうがお前と皆野妹で登校するなら大丈夫だろ」


 黄島先生はふと思い出したように、しばらく支援部の活動は服装指導以外の休止を宣言した。


 まあ、状況が状況だけに仕方ないと言えるだろう。


「わかりました。服装指導については俺がいるので大丈夫です」


「ありがとう。じゃあ、頼んだぞ」


 俺は支援部活動休止を了承すると、黄島先生は俺に連絡を託して職員室の方向へ歩いて行った。


 俺は黄島先生の背中を見送ると、そのまま支援部室の方へと歩き出した。






「お疲れーっす。みんないるかー?」


「あ、蒼司さん。お疲れ様。皆いますよ。なんなら魅墨もいます」


 俺は支援部室の扉を開いて、出席確認するとお茶を組んでいた真白がいの一番に返事をしてくれた。


 春野と翠は二人で話していて、魅墨は遊びに来ていたのかパイプ椅子に腰掛けていた。


 まあ、全員いるなら話は早いな。


「みんな、ちょっといいか」


 俺は手をパンパンと叩いて皆の注目を集めた。


 すると、春野と翠は話すのをやめてパイプ椅子に腰を下ろし、真白も魅墨の隣のパイプ椅子に腰を下ろした。


 全員の注目が注がれたのを確認して俺は口を開いた。


「支援部についてだが、服装指導が落ち着くまで活動休止してくれと黄島先生から指示があった。まあ、新体制になってから慣れるまでという配慮だと思う」


 俺は適当な理由をでっち上げて、支援部の活動休止を説明していく。


 皆各々納得したような感じで俺の説明を聞きながら頷いていた。特に問題はなさそうだな。


「復帰の連絡はまた追って黄島先生からあると思う。それまでは待っていてくれ」


「皆野さん、質問いいっすか?」


「ん? なんだ?」


 なんでもなく納得してもらえると思っていたが、春野が手を挙げて質問の許可を求めてきた。


 これはなかなか想定外。何を聞かれるのだろう。


 不安に思いつつ、春野に質問の許可を出した。


「いつも部活してないようなもんっすけど、ダラダラしててもいいんすか?」


 ……確かに部活してないな。


 春野の質問がごもっともすぎて、返答につまった。出来たら帰らせないといけないし。


「……ぶ、部活休止のような状況と部活休止は違うからダラダラ禁止」


 苦し紛れに言い訳のように、屁理屈を並び立てて春野に居残り出来ない旨を説明する。


 春野はふーん。と、納得したでも、してないとでもとれる表情で二、三度頷いて手を下ろした。


 納得してもらえたでいいんだよね。聞いてしまったら、別の質問が飛んで来そうだから納得したか? とは聞かないけど。


「他にいるか?」


 春野の質問は終わった事にしてしまって、他の人の質問がないか確認して全員を見渡す。


 うん、どうやらなさそうだな。


「じゃあ、今日の部活は終了だ。明日からは復帰まで待っててね」


 俺はもう一度手をパンパンと叩いて部活休止発表を終了した。

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