第3話 告白(confession)

母さんの話は衝撃的だった。僕はとにかく母さんの話に聞き入るしかなかった。


「母さんがね、に気づいたのも、カヲルぐらいの歳だったと思う。多分、高校2年生の冬。すっごく寒い日だったなあ…」母さんは昔のことを思い出しながら、ちょっと遠くを見るような目をして、少し感傷的になっているように見えた。


母さん、今はのんきにノスタルジーに浸ってる状況じゃないと思う。

「早く続き!」僕の中で、はちきれそうに膨らんだ謎が、ついつい僕の語気を強める。


少しもったいぶったような笑顔の母さんが話を続けた。

「あの日ね、友達と二人で当時ファンだったバンドのコンサートに行く途中だったの。駅近くにある交差点の角のコンビニで待ち合わせしてたんだけど、友達から少し遅れるってメールが来て…、でもその日はとっても寒くて、だからそのコンビニで雑誌を立ち読みしてたの。ちょうどお昼時だったから、コンビニの中はすごい混んでて…」


母さんはそこで伏目がちになって、少し唾を飲み込んだ。

「そしたらね…、そのコンビニに大きなダンプカーが突っ込んできて…、店内にいた人たちが…何人も下敷きになって…、母さんもその中のひとり…だったんだよね…。」


僕は、母さんの言葉にじっと耳を傾け続けた。母さんの目は涙でいっぱいだった。

「時刻は午後12時35分だった…。ガラスが割れる音、みんなの悲鳴、うめき声、今もハッキリと覚えてるよ。でも、気がついたら5分前に戻ってた。それから、何度も何度もその場面にループして…。何回目のループかは忘れちゃったけど、母さんね、戻った瞬間にコンビニをすぐに飛び出したの。離れた場所からコンビニを見てたら、やっぱりダンプカーが…」母さんはそこまで話すと大粒の涙を二つ三つこぼして、それを右手で拭うと、また話を続けた。


「そしたら、どうなったと思う? 気がついたら、その事故のね、前の日に戻ってたの。前の日に戻っても結局、また次の日にあの事故が起っちゃうじゃない? 母さんさ、どうしていいか分かんなくなっちゃって…。そしたらね、母さんのお母さんが教えてくれたの」


慌てて僕は聞き返した。「え…! てことは、おばあちゃん?」

母さんはにっこり笑ってうなづいた。

はね、母さんの母さん、そのまた母さん、つまり、ずっとずっと母さんの血筋に受け継がれてきたものなんだって。おばあちゃんは賜物たまものって呼んでた。つまり、良い贈り物ってこと。」


僕はただただ、母さんの話を聞くことしかできない。母さんの話は、すでに僕の身にも起こっていることなので、疑う余地すらなかった。


「おばあちゃんは、母さんにこうも教えてくれたんだよ。『賜物は、自分だけのものじゃない。他の人のためにも使うものだよ。もし、賜物が自分の命を救ってくれたなら、何度でもに戻って他の人の命を救うの。そうしたら未来に行けるんだよ』って。」


僕はすかさず聞き返した。「ちょ、ちょっと待って、じゃあ、過去に戻って自分の命を守るだけじゃなくて、他の人も救わなきゃいけないってこと?」


母さんは不機嫌そうな顔をして、こう僕に言った。

「当たり前じゃない! せっかく過去に戻れるんだから一人でも多くの人たちを救ってあげなきゃ! さっきのコンビニの話だけど、母さんは何度もループして、その度にみんなを外に出そうとしたけど、誰も母さんの話を聞いてくれなくて…。結局何度目かのループのとき、火災警報器のボタンを押してみんなを外に逃がしたんだよ。そしたらね、ループが止まったの! 『母さんがするべきことはこれだったんだ!』って、本当に嬉しかったなあ…」


母さんはまたノスタルジーに浸っているみたいだった。そんな母さんを見ていて、僕はちょっと嬉しくなった。でも、僕がしなきゃいけないことを知って、かなり不安にもなった。


僕はあんなにたくさんの人たちを本当に救えるのだろうか…。

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