旅人ライフ

ぱんく

第1話 旅人は優秀でありたい

昔、侍は刀を持ち歩き、人を殺めていたらしい。


危険がもっと身近にあったんだ。 


昔、人は危険と知りながら、目的地に歩いて向かったらしい。


旅がもっと身近にあったんだ。


今、何が身近にあるのか考える。


ぶらっと空港に行き、ふらっと乗った飛行機で、ふわっと宇宙を飛び、

到着した知らない星で異星人とフラットな会話をする。


宇宙が身近な時代だ。


無限の宇宙には無数の星がある。

そして、その星一つ一つに地球のように文明があり、独自の美しい自然があり、

環境に適した生物がいる。


旅人が多い時代になるわけだ。


誰も知りえない宇宙一美しい景色を見つけるため。

宇宙のように無限な知識を得るため。

天文学的数値で起きる奇跡の出会いのため。


理由は様々だが宇宙を旅する奴が多い。


何を隠そう俺も旅人だ。

18歳の頃から10年間、宇宙を旅している。

つまり、現在28歳。三十路手前だ。


「思い返せば旅人駆け出しの青二才から、ずいぶん成長したもんだ。」


顎の髭はモミアゲと繋がり。右目の上に残る傷跡は男の顔を歴戦の戦士のように見せる。

汚れと風化でボロボロの黒マントは旅の過酷さを物語っていた。

あと、けっこう臭い。


「どこがっ!?成長している奴なら今頃宿見つけて、シャワー浴びてるってーの。」

右肩から呆れたような声がした。


俺の右肩には翼が4つ生えた全長30センチほどの鳥が乗っていた。

名前はラックで旅を共にしている。天鳥類コウノトリ種の相棒だ。


「はっ!!さっきまでリュックで寝てたやつがよく言うぜ」


「私がいないと何もできないのかな?バッツ君?」

目を細めて嬉しそうにラックが言う。


「たまには宿をお前が探したらどうなんだ?ラックさん?」

お互い旅の疲労で不満が溜まっている。


ここは水の星。

その名に違わぬ環境だ。

今この星唯一の陸地にいる。

99%水で覆われいる星であるため周りを見渡せば、

水中に特化した生物ばかりだ。


100を越す星を渡り歩いてきたが、未だに新しい星に着くとドギマギする。


街を歩く異星人の姿形。

星によって変わる言葉、文字、価値観、環境。

その全てにすぐ順応できる旅人なんていないと思う。

いないで欲しい。俺は旅人界で優秀な方だと信じたい。

だが、優秀とはいえ看板の文字は読めないので、建物の中を覗きながら宿を探して行く。


「ごるだがみほーまっち??」


前歯が発達した、尾の平たいビーバーのような生物が、少し高い声で話しかけてきた。

この星では、ビーバーみたいなコイツが一番知能が高く、進化した生物らしい。


「なんて言ってっかわかんねーけど、宿を紹介してくれねーか?」

恐らく何かしらの店の呼び込みだ。

宿屋ではないかもしれないが、当たって砕けろの精神で、身振り手振りで俺の意思を伝える。


「びぶにゅーげら」

OKのサインをしてから、ついて来いとジェスチャーしてきた。

宿屋の呼び込みビーバーだったらしい。


「。。。」


人間の下半身くらいのビーバーが前足を胸の前に構えて、

俺の前をピコピコと二足歩行して道案内している。


ちょっと愛らしいじゃん。。。


「毎度思うけど。。。なんでさっきので異星人とコミュニケーションとれんのよ」

呆れた声に聞こえるが、ラックは俺の能力を珍しく褒めている。

素直じゃないラックの精一杯の褒め言葉だ。

きっと。。。


「理屈じゃねーのよ。心のあるやつなら言葉なんて使う必要がねーのよ。」


「まぁ、一個くらいできることがないとね〜」

一個褒められたと思ったら、その一個以外全て貶された。


「もう一個できるぜ?」


「何かしら?」


「てめーを黙らせることだ〜〜〜〜!!」


そう叫びながらラックに掴みかかる。


ラックはフワッと右肩から飛び立ち、俺の拘束行為を躱す。


「チッ!」


すばしっこい奴だ。


言葉が通じても言い合いになるラックより、言葉が通じないビーバーの方が、旅の相棒に適しているのではないだろうか。

愛らしいし。


そうこうしているうちに、土、石、木で作られた小さなドームの前で、

案内していたビーバーが足を止める。


「びらごろーく」

ビーバーが上目遣いで話しかけてくる。


目的地に着いたぞ。と言っている。


恐らく宿屋であろうドームの中は、空洞なのか光が隙間から見えている。

ビーバーの巣に親しみはないが、なぜかその光を見ていると心が落ち着いた。

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