不遇職【清掃員】の俺だが、ダンジョンで会った邪女神と結婚し、かわいい娘もできました。無双しつつ幸せな家庭を築きたいと思います。

くま猫

第1話『スライム嫁との出会い』

 俺は前原 宗治まえばら そうじ

 日本出身の38歳独身男性の転生者だ。


 この世界での名前はソージ。

 元の名前を使った安直なネーミングである。


 俺がこの世界に転生してからちょうど半年。

 最初は分からないことばかりだったが徐々に、

 この世界のことも分かってきた。


 俺が住んでいるところは王都と呼ばれるところだ。

 王都以外の地名はない。

 強いて言うならば"王都"というのが地名だ。


 俺のギルドライセンスにはFランクの下のランクの

 Gランク冒険者と記載されている。


 その王都で俺はGランク冒険者として、

 毎日、王都の地下の下水掃除をしている。


 まあ……、冒険者と言っても俺は "冒険をしない" 冒険者だ。

 だからGランクという前例のないランクなのだが。


 ギルド経由で仕事を請け負う者は便宜上全員、"冒険者"と呼ばれるので

 俺も例外なく冒険者だが俺は王都外への冒険はしない。

 仕事は王都内の清掃のみに限定している。


 俺が行っているのは王都の地下下水道の清掃だ。

 需要があるのに人気がまったくない仕事である。


 俺がGランク冒険者として専業でこの仕事に就くまでは、

 奴隷紋を付された犯罪者達が地下下水道掃除をさせられていたそうだ。


 今はもっぱらこの巨大な地下下水道の掃除は俺が行っている。

 というか俺以外の自主的な志願者はいないというのが実情だ。



 理由は2つある。



 まず、王都の地下下水道が非常に臭く、不潔なこと。

 次に、下水内部は視界が悪く、強力なモンスターが現れること。


 王都ともなると多くの人間が住まう場所だ。

 

 そうなると人々が生活暮らすために地下下水道も巨大な物となる。

 王都の地下下水道はもはや地下迷宮と言っても過言ではない。


 半年も同じ依頼を請けていれば周りにも認知されてくる。

 最近は俺は密かに【清掃員さん】と呼ばれているようだ。



 マレに俺をバカにしてくる奴もいるが、気にはならない。

 Fランク冒険者よりも報酬は多くもらえるし、何より安全だ。


 それに、この仕事の重要性を理解している一部の人達には、

 感謝されている。対価としてはそれで十分だ。


 俺の座右の銘は"名を取るより得を取れ"である。


 安全に生活に不自由ないだけの報酬がもらえるのであれば何ら不満はない。


 報酬が下げられるような事になるなら、

 その時にランクアップを考えれば良いだけのことだ。



 さて……Fランクの冒険者がやりたがらない、

 "理由"がお出ましになりやがった。

 俺はタリスマンコインの形状のお守りを掲げる。



「インセクティサイド」



 いわゆるジャイアント・ローチと呼ばれるゴキブリ系の

 害虫には効果てきめんな 殺虫魔法 である。


 地下に巣食うモンスターは害虫系が多いので、

 ほぼこれで片がつく。

 害虫を殺虫するのに最適化された 掃除魔法 である。



「おしっと。これで良い感じに片付いたな」



 それにしてもちょっとこんな楽な仕事で

 お金をもらってちょっと申し訳ないなと思う。


 倒したモンスターの死骸の一部を切り取り集めて、

 それをギルドのカウンターに持っていけば報酬がもらえる。



「楽な仕事なのに競争率が低いのは素晴らしい。俺以外はやりがたがらないからな」



 下水は悪臭が身体に染み付いて一週間は抜けないとの理由で、

 ギルド冒険者はまず引き受けない仕事だ。


 この王都で地下水道を清掃しているのは俺一人。

 まあ、気楽な身分である。


 体に染み付いた臭いも 掃除魔法 を使えば完全に消臭・滅菌できる。

 消臭しとかないと宿屋にすら入れてもらえないからな。



「おっと地下の主が出やがったな」



 地下下水道の主、ダーティー・スライム。

 黒いドロドロの粘性の身体で体中に目がびっしり覆われている。

 下水に際限なく流れてくる汚水を吸い込み吸収し

 拡大するモンスターだ。


 こいつが本当にやっかいなのは体内で、

 病原体を作り出しそれを吐き出してくることだ。


 おびただしい量の病原菌やウィルスの粘液を飛ばしてくる。

 通常であれば、これに当たればその時点で人生終了である。



「無駄だ」



 だが、俺は【健康体】というチートを持っている。

 あらゆる状態異常を無効化する能力である。

 いかなる、病気、ウィルス、呪い、毒、麻痺、混乱等々を無効化する。



「相手が悪かったな。――サニテーション」



 聖なる浄化の光がダーティー・スライムを包む。

 本当はAクラスの冒険者が6人パーティーで討伐するモンスターだ。

 だけど俺には関係ない。清掃魔法があれば瞬殺である。



「ギルドからの依頼じゃないから討伐しても報酬もらえないのは残念だけどね」


 とは言っても見過ごせるものでもない。

 ご近所さんの家の屋根にスズメバチの巣があって、

 更に自分にそれを駆除するだけの能力があったら駆除する。

 その程度の感覚だ。



「経験値多くもらえるし、倒さないと外に出て悪さをするかもしれないからな」



 ダーティー・スライムはAランクの冒険者が6人がかりで

 討伐するモンスターだけあって経験値の割が良い。


 経験値の話の流れで言うと現在の俺のレベルは、

 かなり順調に成長している。


 ちなみに、現在のステータスはこんな感じ。




 ===================

 名前:ソージ

 種族:人族【LV:268】

 職業:清掃員


 能力値

 【筋力:1】【魔力:10】【速さ:1】

 【耐久:1】【運:1】


 装備

  【呪:破戒僧はかいそう外套マント】【呪:邪神のタリスマン】


 特殊ユニーク

 【健康体】

 ====================




 "能力値" は初期値固定のまま、不変だ。

 レベル上昇による"能力値"の変動はない。

 これは転生時の俺の選択によるものである。

 俺は【魔力極振り】を選択した。


 "魔法で遠距離から一方的に攻撃できれば、回避も防御も関係ねぇ"

 という考えだったのだがどうやら正解だったようだ。


 まあ、少なくとも王都の地下下水道のような限られた環境には適している。

 あの時の俺、グッジョブ。


 ちなみに俺が呪いの武器や防具を装備しているのは、

 【健康体】によって、あらゆる呪いによる状態異常が無効化されるからである。

 メリットしかないのだ。


 例えば、【邪神のタリスマン】の効果はは無詠唱、

 【破戒僧の外套】は常時MPを微回復という優れた性能だ。


 ただ、本来は【邪神のタリスマン】は狂気付与、

 【破戒僧の外套】は常時HP減少のデメリットがあるようなのだが……。



 これらの一切の不都合が【健康体】によって無効化されているのだ。



「ちょっと苦手なのはアルビノ・アリゲーターくらいか」



 アルビノ・アリゲーターは若干の魔法耐性を持っている。

 また掃除魔法が弱点ではないため数発の魔法を放つ必要がある。

 だが、魔力のゴリ押しでなんとかなる敵ではある。



 あとレベルが尋常じゃなく上がっているので、

 これも俺がギルドランクをあげたくない理由の一つだ。

 ギルドランク昇進時にはレベルを申告しないといけないからな。


 チラッと酒場で聞いた話だと、

 Fランク冒険者の平均レベルは5レベル。

 つまり単純計算で約50倍である。


 あくまで俺は特化型であるとはいえ、悪目立ちするのは避けたい。

 何らかの方法でレベルを偽装する方法があれば良いのだけど。



「やっぱり地味で地道な人生が一番ですよ」



 俺は人前に立って目立った行動をするのが苦手なのだ。

 人混みとかはもってのほかだ。


 第一、いまのこの仕事で十分過ぎる分の報酬を稼げている。

 俺としては現時点でも特に不満はないわけだ。



「それに呪いの防具の効果で魔力が枯渇することも無いからなぁ」



 人間関係に若干のトラウマを持っている俺にとっては、

 ここでの仕事は快適そのものだ。


 それに地味な仕事ではあるがこの地下下水道を放置していれば

 下水からあふれ出たジャイアント・ローチやキラーラットなどの

 モンスターが女子供を狙って食い殺すらしい。


 だから俺がやっていることと言うのは意味のある事だと思っている。

 誇りをもって仕事を行っているのだ。


 本当だよ?



「おっ。この壁、妙に汚れているな。バブル・ウオッシュ」



 洗浄魔法で壁のこべり付いた汚れを落とす便利な魔法である。

 なによりも使っている本人も綺麗になれば気分がよくなる。



「なんだろ? 隠し扉かな」



 手に持った【邪神のタリスマン】がほのかな紫色の光を帯びている。

 壁にはちょうどタリスマンコインの形状のお守りをはめる事ができる穴があったのではめてみた。

 イン○ィー・ジョーンズの仕掛けみたいでちょっと面白かった。



 ゴゴゴゴゴゴ……



 音をたてて巨大な隠し扉が開かれる。



 その部屋には一人の少女が居た。



 厳密にいうと少女の形をした【スライム】である。


 スライムとはいっても完全な人型だ。

 体が透き通っているくらいで他は人と変わらない。


 おっぱいが大きく動かなくても微妙にプルプルとしている。

 プルプルの上にヌルヌルである。


 身長は140cm程度。


 おしりも小ぶりだが形が良い。

 吸いたい……いやむしろ……吸い込まれたい。

 お腹のなかに顔をうずめてみたい……。



 ……凄いぞ……えっちだっ!



 ――好きだ。



 俺の本能先生下半身が告げている……。

 ――この人こそが俺の運命の人である、と。



わらわを千年の眠りから解き放ったのはお主であるのじゃな?」



「はい。俺の名前はソージです。ふつつか者ですがよろしくお願いします」



 しまった。ここ最近は人と話していないせいか、

 思わず変な事を口走ってしまった。



「ふむ。お主もなかなかの変わり者よのう。して、主は、邪神の徒であるかの?」



「いえ、地下下水道の清掃員です」



「ふむ。その"タリスマン"は妾を信仰する者しか持たないはずじゃがのぅ?」



「王冠被った骸骨を倒したら落としたので貰っちゃいました。まずかったですか? お友達とかだったりしましたでしょうか?」



「いや、妾の知らぬ者なのじゃ。ゆえに、お主も気にするでないのじゃ」



「よかった。ご友人を殺めてしまったのかと思いました」



「ふむ。……それにドロップアイテムは正当な権利じゃ。問題ないのじゃな」



「ほっとしました」



「それよりも。相当強い相手だったはずだが? お主は苦戦しなかったのか?」



「清掃魔法をズドーンって感じで放ったら倒せちゃいました」



「はははっ。お主は愉快な奴よの。妾はお主が気に入ったのじゃ、"ソージ"とやら」



「俺も、その……気に入り……ました」



「どうした。口ごもって、やはりお主も妾が怖いのかの?」



「いえ……とても、素敵です。俺はあまり若くはないのですが、もしそれでも良ければ、俺と真剣交際を検討してくれませんか?」



「と……年の事は気にするのではない。妾は千年を超える年を生きる者じゃからの。ま……っ、まあ、最初は手を繋ぐとこからなら、良いのじゃな?」



「ええ……!? 最初から手繋ぎとかえっち過ぎませんか?! 俺に心の準備が無いです。まずは、真剣交際の第一歩として交換日記から始めませんか?」



「その"こうかんにつき"っというのは何じゃ?」



「お互いその日あった出来事を日記に書いて毎日交換することです」



「おっ、お主は、明日も妾に会いに来てくれるというのかの?」



 心なしか目が潤んでいる。



「もちろんです。毎日来ます! いろいろな事を話しましょう」



「よっ、よろこんでなのじゃ///」



「ところで、この部屋から外に出ることはできないのですか?」



「この部屋にはの。強力な封印がほどこされておっての、出られないのじゃ」



「ひどいことをする人がいますね! 怒りがこみあげてきます!! いつの日か、あなたが王都の美しい街並みを見られるように、頑張って封印を解きます!」



「その気持ちだけでも、妾は嬉しいのじゃ……ありがとうなのじゃ」



 最後に彼女は自分の自己紹介を忘れていた事を思い出し、

 ソージに向かって笑顔で告げる。



「妾の名はソピア。改めて、これからもよろしくなのじゃ、ソージ」

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