第37話 青と黄色の補色関係

 絵画の中で一番多く登場してくる補色関係は、青と橙もしくは黄色という組み合わせだ。今まで話してきた作品の中にも、青と橙(もしくは黄色)の組み合わせのものがある。以下、その一覧だ。


 ・「サーカス」1890-1891年 ジョルジュ・スーラー

 ・「ノラム城、日の出」1835-40年 ウィリアム・ターナー

 ・「解体のため錨泊地に向かう戦艦テメレール号」

   1838年ウィリアム・ターナー

 ・「真珠の耳飾りの少女」1665-66年 ヨハネス・フェルメール


 見ていて心地よいものが多く、そして印象に残りやすい作品ばかりだ。

 その他にも、補色関係が見事に調和し、人々の心を掴んで止まない作品がある。

 それが、ゴッホの「夜のカフェテラス(夜のアルルのカフェテラス、アルルのフォラン広場)」と「星月夜-糸杉と村-」の2作品である。


 まず「夜のカフェテラス」であるが、このカフェテラスは南仏の町アルルの旧市街の中央にあるフォラン広場にある、比較的裕福な階級層が利用する場所だ。夜、文明発展の象徴のひとつであるガス灯が灯っている様子が印象的である。


 一方で「星月夜-糸杉と村-」は、ゴッホが神経疾患にかかり、精神病院に入っていたときに描かれたものである。ゴッホは自然との一体を盲信していたようで、夜に溶け込むように星や月が渦を巻いて光を纏っていることから、その思いが投影されていると感じる。


「夜のカフェテラス」と「星月夜-糸杉と村-」を見て分かると思うが、ゴッホは夜の情景を濃い青で表現している。そのため夜とはいっても陰鬱さや冷たさがなく、夜が人を受け入れるような、そんな柔らかさを感じる。


 そしてここで注目したいのが、青と黄色の素晴らしいコントラストだ。青と黄色が丁度よいバランスで組み合わさっており、青い夜が星々を引き立てている。


 もしこれらの夜が、黒い絵の具で描かれていたなら、黄色の部分が前に出すぎてしまっていただろう。故に夜空と星やガス灯、それによって照らされているカフェテラスがなじむように絵の中に納まらず、多分ここまで惹かれることなかったかもしれない。


【豆知識】

 偶然かもしれないが、日本の牛乳は青と白の牛乳パックに入れられて売られている。何故、この色の組み合わせが多いかを考えてみると、「白い牛乳」=「新鮮さ」を出させるためだと思われる。

 さらにここには「心理補色」が利用されている。心理補色とは、ある色をじっと見た際に、別の所(白い紙の上だと分かり易い)を見ると、別の色が残像として受け日上がる色のことを言う。赤であれば緑が、青であれば黄色が見えるという具合だ。

 つまり牛乳パックを見ると、青い色を見た後に出てくる黄色の心理補色により、白いパッケージの部分がクリーム色っぽく見えるようになるのである。それにより、売っている牛乳が「濃厚な牛乳」に見えて、消費者に買ってもらえるような工夫があるのではないかと私は考えている。


 そういえば、フェルメールが描いた「牛乳を注ぐ女」で牛乳が登場しているので、その効果が現れているのかどうか自身でみてみるのも面白いかもしれない。


【余談】

 スタジオジブリの宮崎駿監督作品の中でも、「青」と「黄」の補色効果を使っているものがある。それは「風の谷のナウシカ」である。


 ――その者、青き衣を纏いて金色の野に立つべし。(「風の谷のナウシカ」より引用)


 映画のラストシーンに、ナウシカがオウムの体液で青く染まった衣服を纏い、オウムの黄色(金色)の触手の上に立つ姿がある。これもこの項目の話を読めば、見事に補色関係が使われているということが分かるだろう。宮崎駿監督がそれを意識したかどうかまでは分からないが、あの印象的な最後はストーリー自体が素晴らしいが、色のことも理解してみると、人はあのシーンを見て感動せずにはいられないのかもしれない。


【絵画】

「夜のカフェテラス(夜のアルルのカフェテラス、アルルのフォラン広場)」

 1888年 フィンセント・ファン・ゴッホ


「星月夜-糸杉と村-」1889年 フィンセント・ファン・ゴッホ

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