第24話 白い衣装を着た女性

 白いドレスを着た女性は西洋絵画の中では多く見られ、アングルの「リヴィエール嬢の肖像」、ポール・ドラロッシュの「若き殉教者の娘」、モーリス・カンタン・ド・ラ・トゥールの「ポンパドゥール夫人の肖像(マダム・ド・ポンパドゥール)」はその白い服またはドレスを纏った(18世紀~19世紀に描かれた)女性を描いている。どれも穏やかでそこに女性らしい清らかさを感じさせる。


 このなかで特にアングル作の「リヴィエール嬢の肖像」とポール・ドラロッシュ作の「若き殉教者の娘(殉教した娘)」を見てみようと思う。理由は他の作品よりもより「白」に関して意味を持たせていたのではないかと思ったからである。


 まず「リヴィエール嬢の肖像」であるが、このモデルとなった少女はフランス第一帝政で高官をつとめていたフェリベール・リヴィエールの娘である。描かれた当時のリヴィエール嬢は15歳といわれ、あどけなさが残るような歳だが、モデルという自覚があるのか、画面では背伸びした大人っぽさを感じさせる少女である。


 そんな少女をアングルは明確できっちりとした輪郭で少女を描く事で、彼女の純潔性を表現し、さらに彼女が着ている純白のドレスがその意味に通じる。白という色は「純潔」や「無垢」といった意味を人は持たせるといったが、私はアングルが画家はそれを意識していたように感じ、彼女のことを何も知らない者が見ても、その清らかさをこの作品をみただけで感じることができるのではないだろうか。


 もう一つの作品はポール・ドラロッシュが描いた「若き殉教者の娘(殉教した娘)」である。


 これはポール・ドラロッシュの最晩年に描かれた作品で、「初期キリスト教の若き殉教者」というものを主題にした宗教画である。描かれている女性は聖女であるが名前はない。


 彼女は、異教の神々に生贄を捧げることを命じられたが、それを拒否したため死刑を宣告されてしまう。そしてこの作品のなかでも見られるように、両手を縄で縛られテヴェレ河というところに投げ込まれ殉教するのである。


 この作品はちょうど河に投げ込まれ、息絶えて間もないころのように思える。空も河も闇に覆われている中で、彼女だけがぼんやりと光を放っている。その白い光が清らかで純粋さを伺わせ、さらに「殉教した聖女」ということもあってそこには神秘的さも感じさせる。


 もちろん聖書には、彼女がどのような色の服を着ていたかなどは書いていない。しかし画家が彼女の服を白で染め上げ、暗闇で希望も何もない中で光を放たせたのには、ここに描かれた意図を読み取ってほしいと思ったからであろう。


「若い娘」がどういう人物なのかということを想像させれば、私たち観者はここから純粋、清廉さを醸し出されているのを感じ、さらには暗闇に光る彼女をみることで神秘的だとすら思ってしまう。



【補足】

 ここでは説明しきれなかったが、他にも白い服を着た女性を描いた作品がある。折角なので名前だけ提示しておくので、興味のある方は検索して見てみてほしい。



【絵画】

*「リーヴィエール嬢の肖像」1805年 アングル


*「若き殉教者の娘(殉教した娘)」1855年 ポール・ドラロッシュ


<以下本文で紹介されていない絵画>


*「ポンパドゥール夫人の肖像(マダム・ド・ポンパドゥール)」1755年 モーリス・カンタン・ド・ラ・トゥール


*「散歩、日傘をさす女性」クロード・モネ


*「読書(パラソル)」1873年 ベルト・モリゾ


*「白のシンフォニーNO.2―白衣の少女―」1864年 ホイッスラー



【画家】

*ポール・ドラロッシュ(ドラローシュ)(1797-1856 )

 19世紀前半期にフランスで活躍したロマン主義・折衷派の画家。

 1797年にパリの裕福な家庭に生まれる。1816年にエコール・デ・ボザールというパリ国立美術学校に通い、絵画を学び、後に学校の教授を務めることとなる。

 その彼が描く作品は詩的で、演劇性に富んでおり、その主題の演出の仕方はロマン主義的であるが、その絵の表現の仕方は写実主義や古典主義の手法を取り入れた折衷派と言われる表現の仕方で描いているのが特徴である。

 それらの作品は、当時でも高い人気を誇っていたという。


*モーリス・カンタン・ド・ラ・トゥール( 1704-1788)

 18世紀に活躍したココ様式を代表するフランス出身の肖像画家で独自のパステル表現を確立した。当時の人々にパステルで表現するその軽やかな絵画が好まれ、受け入れられる。しかし年を重ねるごとに精神を病み、作品も完成後も手を加えてしまい、結果駄作にしてしまうことあったようである。1788年にパリで死去。


<以下本文で紹介されていない画家>


*クロード・モネ( 1840-1926 ) 

 フランス出身の印象派の画家。

 絵の具をパレットの上で混ぜないで、キャンバスに色を乗せる筆触分割という方法で描く。それにより自然な光や空気感が感じられ、また明るい画面になる。

 1840年に生まれ、10代のころから絵の才能を発揮する。19歳に本格的に絵画を学ぶためにパリへ出る。1870年まではサロンで出した作品が賛否両論を繰り返し、経済状況はあまり良くなかったが1880年の展示会で大成功を収める。

 それから作品の制作と展示会を精力的に行うが、1910年に白内障にかかってしまう。一時は制作威力が衰えたものの、手術によって回復し大作を手がける。

 86歳で死去。


*ベルト・モリゾ(1841-1895)

 フランス出身で印象派の女流画家。速筆的で大胆かつ奔放な筆触と明瞭な色彩によって、身近な人物や風景画などを作成する。マネとの交流も多かったことからか、彼の弟と結婚をしている。


*ホイッスラー(1834-1903)

 印象派時代に活躍したアメリカ出身の画家。主にロンドンで活動。同系色を用いることによって、色の調和を重んじる。作品の題名に音楽用語を含んでいるのが特徴。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る