村に戻って

 村へ戻ってきた僕達は、ニアノ村のみんなから暖かく迎えられました。


「シャルロッタ様、お疲れでさまでした」

「シャルロッタ様ご無事で何よりです」

 

 村の人達は、こぞってシャルロッタの元に歩み寄っています。


 これこそ、シャルロッタがニアノ村のためにどれだけ頑張っているかを象徴している光景でしょう。


 普段から村のために身を粉にして働いているシャルロッタ。

 それこそ、朝早くから夜遅くまで、文字通り寝る間を惜しんで頑張っているのを、村人達もよく知っているからこそ、こうして出張から戻って来た彼女を総出で出迎えているんだと思います。


 僕にも、


「クマ様も、シャルロッタ様の護衛お疲れ様でした」


 といった声をかけてもらっています。

 僕には、その言葉がすごく嬉しく思えました。

 

 僕自身、この世界でシャルロッタのために頑張ると心に決めています。

 そんな中、リットの村では、空回りしてしまって落ち込んだりもしたのですが……ニアノ村の皆さんの声に応えるためにも、僕はもっともっと頑張っていこうと、改めて思った……


「クマ様~~~~~~!」

「うわっぷ!? ピリ!?」


 そんな事を考えながらシャルロッタの少し後ろを歩いていた僕に、ピリがすごい勢いで抱きついてきた。

 ピリに抱きつかれたぐらいではびくともしない僕なのですが……いきなり抱きついてきたピリは、僕の頬に自らの頬をすり寄せてきました。


「ちょっとピリ、まだ顔も拭いてないし……」

「何を言うんですか! 私が気にしてないんですよ? クマ様がそんなこと気にしなくていいんですって」


 ピリはそう言いながら、相変わらず僕に頬をすり寄せ続けています。


『ダーリーン! おかえりー!』


 そこに乱入してきたのはラミアのミリュウでした。

 僕以外、誰もミリュウの言葉が理解出来ないもんだから、シャルロッタの邸宅内から突進してきたミリュウを前にした村人のみんなは一斉にびっくりした顔をしながら飛び退いていました。


 ……とはいえ、満面に笑顔を浮かべながら僕の首に抱きついたミリュウの様子をみるにつけ


「ミリュウはおっかない印象だったんだけど、クマ様にはよく懐いているのだなぁ」

「ホント、すっごく嬉しそうに抱きついてる……あの笑顔は可愛く感じるね」


 若干警戒気味だった村人達の中から、そんな暖かな声が徐々にあがっていたんです。


 ……とはいえ


「ちょっとミリュウ、今は私がクマ様を慰労してるんだからさ、邪魔しないでくれる?」

『ダーリンはアタシのダーリンなの! そんなダーリンに甘えるのにアンタの指示は受けないの!』


 僕の頭を挟んで、左右から言い合いを始めたピリとミリュウ。


 ……おかしいな、ミリュウはピリの言葉を理解出来るけど、ピリはミリュウの言葉はわからないはずなのに、


「クマ様から離れなさい!」

『そっちこそダーリンから離れるの!』


 2人は、共に僕の首に抱きついたまま、激しい言い合いを繰り返しつつ互いの頬を手で押し合いしていたんだけど……た、頼むからもう少し仲良くしてもらえないかなぁ……


「……クマ殿、モテモテじゃなぁ」


 困惑しきりな表情を浮かべている僕を、シャルロッタが笑いながら見つめていた ……のですが、その笑いは思いっきり乾いていたというか……目がすごいジト目になっているというか……その背中に、妙なオーラを感じるというか……


「ちちち違うんだよシャルロッタ、これはその……」

「ちょっと何が違うのですか? クマ様!?」

『そうなの! ダーリンその発言は何かおかしいの!』

「ほら……やっぱりモテモテなのじゃ……ははは」

「ちょ!? だ、だからぁ!?」


 ……彼女いない歴=年齢の僕に、この状況を丸く収める方法なんて思いつくはずもなく……

 周囲に集まっていた村人達には、


「あはは、クマ様がんばって」

「いいねぇ、花がいっぱいで」


 お気楽な感じで冷やかされまくって……誰か、助けて!


* * *


 その後、どうにかピリとミリュウから解放された僕は、シャルロッタと一緒に邸宅内にある彼女の執務室へと異動していきました。


 ピリと、リットの街からやってきたミミーも同席しています。

 

 ミリュウも一緒に来たがったんだけど、これは仕事の話だからということで納得してもらいました。

 ちなみに、今のミリュウはシャルロッタの邸宅内にある応接室の1つを部屋として使わせてもらっています。


 で、その仕事の話し合いというのは当然、缶詰の卸売りに関することなわけです。


 応接室に座った一同。

 そこでまずシャルロッタが概要を説明していきました。


 僕・シャルロッタ・ミミーの3人はすでに申し合わせが済んでいるので、この説明はその内容の確認と、ピリへの説明が主な目的になります。


 ……もっとも、実はピリもすでにこのことをある程度把握しているんです。

 荷馬車で移動している最中に、神の耳魔法でピリに伝えておいたんだ。


 ちなみに、この神の耳魔法については

「みんなに知られたら面倒な事になりかねないので、このことは内緒にしておいてくれるかい?」


 そうお願いしてあるんだけど、これを受けたピリは、


「クマ様とアタシ、2人だけの秘め事ね……うん、わかった」


 と、熱い吐息混じりでそう答えてくれていたんだけど……な、なんか余計まずい方向に話が進んでしまった気がしないでもなかったというか……


 と、まぁ、そんなわけで……


「缶詰は、倉庫に置いてありますのですぐにでもお渡し出来ますよ。あと、シチューにもブラ……じゃなかった、ビーフシチューと、ホワイトシチュー、他にも数種類のスープを缶詰にした物を準備してありますから一緒に見てみてくださいな」


 ミミーが同行することを伝えてあったもんだから、ピリは準備万端整えてくれていたみたいです。

 シャルロッタの話が終わると、すぐにそう言ってミミーを倉庫へと案内してくれました。


 ちなみに……

 僕がリットの街で勝手に『ビーフシチュー』と名付けてしまった流血狼のシチューなんだけど、本当は『ブラウンシチュー』と言うそうなんです。

 その事を神の耳魔法でピリから教えてもらった時には「しっかり確認しておくべきだった」と思いっきり後悔したんだけど、

「あら、いいじゃないですかクマ様。流血狼の肉を使ったシチューを、そのビーフシチューと名付けてしまえば。こんな贅沢なシチューなんて他にありませんし、むしろ目立っていいと思いますよ」

 ピリがそう言って後押ししてくれたもんだから、この世界でのこの料理の名前はビーフシチューと決定したわけです。


 倉庫には、かなりの数の缶詰が準備されていました。

 きっと、僕の話を聞いたピリが頑張りまくってくれたんだろう……

 僕がピリへ視線を向けると、ピリはウインクを返してくれました。


 ミミーは、缶詰が詰まっている木箱を確認しながら

「いくつか試食してみたいのですが?」

 そう、ピリへ話しかけました。

 それを受けて、ピリが缶詰とスプーンをミミーに渡していきます。


 どうやらしばらくは缶詰の試食と、その説明に時間が費やされそうです。

 となると、ここはピリに任せておいても大丈夫だろう。  


 そう判断した僕は、この場をピリとシャルロッタに任せることにして、


「すぐに戻るから」


 シャルロッタにそう言い残して倉庫を後にしていった。


◇◇


 人気の少ないあたりまで移動していった僕は、そこでおもいっきり跳躍しました。

 そのまま村を覆っている柵を跳び越していくと、森の中を駆けていきます。


 すると、僕の前方で何かがむくりと起き上がるのが見えました。


 ……他でもない、ドラコです。


 僕達に付いてきたドラコなんだけど、ドラコは人型に変化することは出来ないそうなんです。

 そんなドラコを、村の中に迎えることは出来ないわけで……


 そんなわけで……実はリットの村からニアノ村へ移動している途中に、神の耳魔法でドラコともあれこれ相談したんだけど、

「どうだった? ドラコ」

「はい~、使えそうです~、といいますか、快適そうでした~」

 僕の言葉に、ドラコはこくりと頭を下げました。

「教えていただいたあの洞窟、とてもいいです~。近くに湖もありますし~、それに草原もありますので~クマ様の計画どおりいけそうですよ~」

「そっか……それはよかった」

 ドラコの言葉に安堵の息を漏らす僕。

「じゃあドラコはその洞窟を住処にする準備を整えてくれるかい? 夜には僕も手伝いに行くから」

「はい~、わかりました~」


 僕の言葉に再度頷くと、ドラコは大空に向かって飛び立っていきました。


 ニアノ村の近くに湖と洞窟があるのは、狩りに出たときに確認済みだったんだけど、ドラコにはそこに住めるかどうか確認してもらいに行ってたんだ。

 で、そこに住めそうだということが確定したおかげで、ドラコの居住場所という問題が1つ解決したことになります。


 さて、これでドラコの新居も決まったし、あとはドラコと一緒に行うもう1つの計画が上手くいくかどうかだな……


 僕がそんなことに思いを巡らせていると、


『うふふ~、新居ではじめての共同作業ですね~なんだかエッチィですぅ』

「え、えぇ!?」


 いきなり神の耳魔法でドラコがそんな事を言ってきたもんだから、僕は思わず顔を真っ赤にしてしまったわけで……

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