リットの村でのエピローグ その1

 まだ口約束とはいえミミー商会との間で缶詰の卸売り契約を結ぶ方向で話がまとまりました。


 正式な契約は、僕達が村へ帰る際にミミーに同行してもらって、ニアノ村ですることになっています。


 村を豊かにすることが出来るかもしれない契約の話がまとまりそうなもんだからシャルロッタは超ご機嫌で、


「ホンに、クマ殿は頼りになるのじゃ」


 そんな感じで、ことあるごとに僕を褒めてくれています。


 その笑顔を見る度に

『あぁ、頑張ってよかったなぁ』

 そう思う気持ちが9割、

『いや、違うんだ……ミミーが兎さんで眼鏡っ子だったから即決したんじゃなくて……』

 そう思う気持ちが1割……


 少し心にささくれが立ってはいるものの……このささくれを払拭するためにも、今後もっと頑張っていかないと……そう、改めて心に誓った僕でした。


◇◇


 缶詰の契約をまとめたからといって、本来の仕事ももちろん忘れてはいません。


 僕とシャルロッタが、ここリットの街までやってきたのはあくまでも山賊退治の助っ人です。

 基本的には、山賊の襲撃情報かアジト発見の情報が入るまでは待機なわけなのですが……その山賊達にほとんど動きがないんです。


 ……これは僕の新しい友人の、ドラゴンの魔法使いのドラコが、どっかん魔法で山賊達を壊滅状態に陥れているからに他ならないんだけど……それをみんなに伝えるにはドラコの存在まで公にしないといけないので、躊躇しているわけなんです。

 人見知りで、あまり表に出たがらないドラコの性格のことを考慮して、僕はこのことを胸の中にしまい込んでいる次第です。


 そんなわけで、僕とシャルロッタがリットの村でやった事と言えば、近隣の森の捜索に3度ほど同行したくらいでした。


 山賊が出ないので、その代わりに僕は、神の耳魔法を駆使して魔獣の討伐を行って行っていました。


 僕が狩ったのは主に夜陰犬と言う魔獣でした。

 こいつらは群れで人や他の魔獣を襲う魔獣だそうで、牙に含まれている毒を最大限に活用するため茂みなどに隠れていて、そこからの奇襲攻撃を得意としているそうなんです。


 ただ、僕の神の耳魔法は周囲1キロ圏内に存在している魔獣達の音を聞き取る事が可能ですから、夜陰犬がいくら気配を殺していても、僕はその接近をたやすく察知することが出来て、常に先制攻撃を行うことが出来ていたんです。

 先制攻撃と言いましても、相変わらず木を引っこ抜いて振り回すだけなんでけど……


 村で、シャルロッタに剣の稽古を付けてもらったこともあったのですが……どうしても刀身が細い剣では、僕の怪力に耐えることが出来なかったんです

 

 そんなわけで、木で夜陰犬を狩りまくった僕の活躍を前にして、

「どうじゃ、妾の村のクマ殿はすごいであろう?」

 幼なじみであり、リットの村の長であるジェナさんに向かってドヤ顔をしていたシャルロッタ。

 そんなシャルロッタの前で、ジェナさんも、

「……えぇ、確かにすごいとは思っていましたけど……まさかここまでとは思わなかったわ」

 そう言いながら、びっくりした顔をしていました。


 3度目の森の捜索に向かった際、

「クマさん、よかったらこれを使ってみてくださいな」

 ジェナさんがそう言って、僕に大きな刀を渡してくれました。

 その刀は、刀身がかなり分厚くて、幅も広いです。

「なんか、斬りにくそうな剣ですね……」

 ジェナさんの部下が5人がかりで運んできてくれた剣をひょいと持ち上げた僕は、その刀身を確認しながらそんなことを口にしていました。

「えぇ、そうよ。その剣はバスターソードといってね、斬るのではなく、敵をなぎ払うようにして使用するの」

 ジェナさんから、簡単に使用方法を教えてもらった僕は、その剣を使って早速魔獣退治を行ってみたんだけど……


 いや、この剣ってばホントすごかったです。


 何しろ、夜陰犬が20匹近くの集団でやって来た時に、僕が、

「ふん!」

 と、バスターソードでモグラ叩きよろしく上から叩きつけると、一ほんの数発ですべての夜陰犬を退治することが出来てしまったんです。

 問題点としては、その下敷きになった魔獣達がぺちゃんこになってしまって、その肉を採取することが全く出来なくなってしまうってことと、そのせいで叩きつけた後の剣の下がすさまじいスプラッタ状態になってしまうこと……

「…とりあえず、このバスターソードは叩きつけるのではなく、横薙ぎにして敵を吹き飛ばすようにして使用した方がよさそうですね」

 僕は、バスターソードを見上げながらそんなことを口にしていたんだけど、

「ま、まぁそうなんですけどね……そもそもそのバスターソードをそこまで軽々と操れる人がいた事の方に少々びっくりしているのですが……」

 ジェナさんはそう言いながら苦笑していました。


 ちなみに……僕がこのバスターソードを使用した翌日、ちょっとした事件が起きました。

 

 衛兵の1人、ゴリンゴが村からいなくなったそうなんです。

 このゴリンゴは元々山賊の手下で、この村にスパイとして紛れ込んでいたヤツなんですけどね。


 で、神の耳魔法でゴリンゴのことをマーキングしていた僕は、さっそくその声を聞いてみたのですが……


「姉さん、やばいですぜ……あの村にとんでもない男が現れやがったんです」

「とんでもないっていったって、たかが1人じゃないのかい?」

「そ、それが、あの街の至宝である護国のバスターソードを自在に操れるという……」

「ちょ!? 嘘でしょ!? あの剣は古代怪獣族の王が使っていたっていう伝説級のアイテムなのよ!? 身長10mはある古代怪獣族でないと使えるわけが……」

「それをですね、軽々と使ってるのをこの目で確認したんでさぁ。ほら、これが証拠です」

「……なんだい……この、夜陰犬の毛皮……って……なんか思いっきりぺしゃんこだねぇ……」

「それ、その男がバスターソードで叩き潰した夜陰犬の死骸でさぁ」

「な、なんですってぇ!?」


 とまぁ、そんな感じで……どうやら僕がバスターソードを自在に操ることをボスであるラビランスに伝えに戻っていたらしい。

 最初こそ、その報告を信じていなかったラビランスなんだけど、夜陰犬のぺちゃんこになった死骸を見せられたことで、戦意を喪失してしまったらしく、


「……部下もほとんどやられちまったし……そんな化け物まで現れたんじゃあ、アタシ達ラビランス山賊団も年貢の納め時かねぇ……」 

「「「姉さん……」」」


 こうして、僕達がリットの街へ駆けつける原因となったラビランス山賊団はひっそりと姿を消すことになりました。

 

 ラビランス山賊団の最後を偶然見届けたというか、聞き届けることになってしまった僕なのですが……この事をどうやってジェナさんにお伝えしたものかと思案していました。

 と、いうのも……この報告をした場合、僕の魔法能力を秘密にしたままでは信じてもらえないでしょうし……かといって、この魔法能力を公にしてしまうと、何かと面倒なことに巻き込まれかねないとも思ったり……そんなことをグルグル思案しているうちに、結局僕は、

『……とりあえず、このことは保留ってことで……』

 そう決めて、しばらく考えないことにしようと思ったんです。


 ……これって、元の世界にいた頃から僕がよくやってたことなんだよね……


 にっちもさっちもいかなくなった挙げ句、パニクってどうしていいかわからなくなると、誰かに助けを求めたりすることなく自分一人で悶々と考えこんでいって……そして最後は、問題を先送りにして、結局放置……そして後に問題が悪化し炎上、僕が何もしていなかったことが発覚して上司に大目玉をくらってしまうという……あぁ、思い出したくもない、この負のスパイラル……


 うん、これじゃ駄目だ……これじゃ元いた世界での繰り返しじゃないか……

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