第45話 クソみたいな自分
修学旅行(3日目)
朝一番で部屋に戻ると竹田君に、
「昨晩もお楽しみでしたね」
と言われてしまった。はい、夜更けまで楽しみました。すいません。
今日は美ら海水族館に行く。朝食を食べた後にバスで出発。本日は班行動である。
バスの中で今井さんと河合さんに、昨日は遊べなくて残念と言われた。彩奈や恵と海にいたので話しかけるタイミングがなかったって。
水族館に着き、班行動になる。俺たちは水族館の中を見て回った。サンゴの海や深海、巨大水槽。
「俺、水族館がこんなにすごいなんて思わなかった」
巨大なジンベイザメやマンタに心を奪われる。すごいぞこれは。あんなでっかいのが海を泳いでいるのか。
「みんなで写真撮ろう」
今井さんに言われて写真を撮った。グループで。あと彼女たち一人ずつ腕を組まされて。あれ?まぁいいか。
その後はブサ可愛い魚?哺乳類?のマナティーを見たり、イルカや海亀を見学したりした。
水族館の見学が終わりバスに乗り込む。途中で昼食のラフテー定食をいただく。甘辛く煮込んだ豚が美味い。ゴーヤチャンプルーも、好きなだけ食べれたのでお替りしてしまった。チャンプルーは美味しいよね。
昼食後は国際通りにて買い物。ここも班行動だ。通りを歩きながらお土産を買う。家族と事務所に。
それにしてもお土産のお店がたくさんある。シークワーサーのジュースを片手に、色々なお店をひやかす。親父に泡盛も購入。銘柄はわからないので人気商品と書いてあるのを選んだ。
母さんには沖縄の海水塩を原料とした入浴剤。千尋には琉球ガラスのコップと海人と書かれてるTシャツを買った。Tシャツは受け狙いなので着ないかもしれないが。
事務所にはおかしの詰め合わせ。紅芋タルトとかちんすうこうとかね。
「アイス食べようか」
竹田君がアイスを食べたいと言い出した。うん、賛成。
パイナップルの果肉の入ったアイスを購入。うん、冷たくて美味しい。
そして偶然にも、竹田君と水沼さんがアイスを食べさせあってるのを見てしまった。
なんだー、2人はそんなに仲良しだったのか。今回の修学旅行で親密になったのか、前から付き合ってたのかは知らないけど。お幸せに。
そっと今井さんに2人の事を聞いてみると、今回の旅行で親密になったようだ。
「私も彼氏欲しいですー」
今井さんの叫びに俺は心の中でエールを送る。大丈夫だよ、君は十分可愛いし、超肉食系女子でしょ?いくらでも食える食える。
ホテルに戻り一休み。夕食までまだ時間があったので、ホテル内の土産物を見に行く。
ミミガージャーキーを試食。コリコリしてて美味い。よし購入。2袋も買ってしまった。
部屋に戻るときにホテルの中庭を歩く恵を発見。おー、何してんだ。
恵に声を掛けようとして歩きだした時に、さわやか君がいることに気がつく。
中庭の隅の目立たないところでアプローチか?さわやか君も折れないなぁ。
なんか、声かけづらくなったので戻ろうとした時に、さわやか君が恵を抱きしめた。
ん?んん?何やってるの?
あれ、あれれ?恵はなんで抱きしめられてるままなの?払いのけないの?
さわやか君は抱きしめた流れで、恵にキスをしようとしてる。顔を近づけようとするが、流石にそれは嫌なのか、顔を背ける恵。そして背けた顔がこちらを見る。偶然目が合った。
何が何だかわからない。ただ、ここに居ちゃいけない気がした。俺もとっさに踵を返して部屋に戻る。
「マジかよ。そんなに嫌がってなかったよな」
頭の中がぐるぐる回る感じ?なんかよくわかんない。
とりあえず部屋に戻って落ち着こう。
後ろから呼ばれてる気がするけどダメだ。あいつらの顔見たくない。
急いで部屋に戻り、水を飲んで椅子に座る。
スマホに着信がある。表示は恵だ。でるか?でねーよ。ふざけんな。
あれ、なんかムカついてるの?怒ってるの?そうか、俺はイライラしてるのか。
ちょっと冷静になってきた。
そうか、恵は俺とあいつを天秤にかけていたのか?抱きしめられてもすぐに払いのけて、逃げ出せばよかったのに。そうすれば男に文句の一つも言ってただろう。
でも、あいつは逃げなかった。つまり受け入れたってことだよな?
すごくショックかも。なんか悔しくて情けない。
俺は考えることをやめて布団にもぐりこんだ。だめだ、色々考えちゃからとりあえず寝よう。
ふと、暗闇の中で目が覚めた。時計を見ると23時になる。5時間位寝たのか。
いくら疲れてたからって、あんなにショッキングな現場を見たのによく寝れるな。自分でも感心するぜ。切っていたスマホの電源を入れるともの凄い数のメッセージ。恵からだ。まぁいいや。メッセージは読まない。というか読みたくない。
彩奈からも何通も届いている。内容はどこにいる?とか何してる?とか。
「寝てたよ」
明かりのついていない部屋でぼそっと呟いた。
はぁ、なんだろうな。どうしよ。
取り合えず彩奈には返信を送る。寝てたと。
すぐに着信。彩奈だ。
「もしもし」
「千秋、あなた今どこにいるの?」
「部屋」
「恵のことなら誤解よ」
「そう?誤解なら誤解でいいんじゃないかな。さわやか君に抱きしめられてまんざらでもなかったんだろ。俺は恵が嫌がるものだと思っていたけど違ったよ」
彩奈と話をしてる電話の向こうから鳴き声が聞こえる。
「いきなり呼び出されて抱きしめられたからビックリして固まっちゃったらしいの。そうしたら相手がキスをしようとしたから、とっさに顔を背けたら千秋と目が合ったって」
そんなの知らんがな。
「一度ちゃんと話を聞いてあげて」
「聞いてどうする。俺も思った以上にショックだったよ。あんなに好きだったのにさ。考えただけでムカムカするし」
「だからそれが誤解じゃない」
「好きだけどそんなつもりはなかった。好きだけどどうしようもなかった。なるほど、理解はできるよ。でも、恵は好きでもない奴に抱きしめられて黙っている女か?違うだろ?心の中では許してたんだろ?」
ふざけて抱き合うならまだわかる。嫌だけどわかる。
でも、恵はさわやか君を払いのけなかった。心の中で許容してたんだろ。
「とにかくゴメンな。彩奈、心配かけてすまん。俺、自分が思っていたよりメンタル弱かった」
何か言いかけてたけど電話を切った。
あー、なんか腹減った。晩飯食ってないし。
お土産でかったミミガージャーキーの袋を開けて、じゃキーを齧る。
まっず
ジャーキーを机に放り投げ、またベッドにもぐりこんだ。
本当はわかってる。恵に悪意はない。ちゃんと話を聞いて、俺も謝んなくちゃいけない。でも、悲劇のヒロインが入ってる俺。本当にクソみたいな自分。
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