第14話 百合の紋章

~安西彩奈~

今日は花火大会。夕方から恵の家で花火を見る。もちろん皆一緒だ。

千秋は一人で仕事に行くみたい。大丈夫かな?

あの仕事はそこまで大変じゃないから平気だと思うけど心配だ。


夕方になって恵の家に行くと千秋はすでにいた。

浴衣姿かっこいい。千秋はどんな格好でも雰囲気を持っている。

千秋に浴衣姿を褒められた。ちょっと恥ずかしくて顔が赤くなったかも。


BBQの買い出しに行き食材を購入した。

飲み物の重い袋を最初に自分で持つ千秋。こういうちょっとした優しさが嬉しいと感じる。

最近よく千秋と一緒にいる。仕事の関係もあるけど、普段からそばにいる事が多い。

なんでだろう。楽しい?元気が出る?何を期待してるの?

よく分からないけど嫌いじゃない。


お肉ばっかりのちょっと変なBBQ。

普通なら文句の一つも出そうだけど、みんなで食べるから最高においしい。

となりに仲間がいる楽しさ。味を覚えると楽しさを忘れられない。

ここ数年で一番充実した毎日。みんなと会えてよかった。

途中で千秋に食べすぎじゃない?と言われた。失礼な。そうだ、運動に付き合ってもらおう。

今度、散歩する約束をした。運動運動。


突然打ちあがった花火。

夜空に色々な花が咲く。こうやって花火を見たのはいつ以来か。

キラキラと飛び散る花火。すごいっ!

ふと横から視線を感じた。振り向くと千秋と目が合った。どうしたのかな?

千秋は何も言わない。何かあったの?

すっと手を出された。反射的に手をつないだ。ぎゅっと手を握られすぐに手が離れた。

何か意味があるの?わからない。でも手が熱い。千秋に触れられた手が熱い。

心臓がものすごい勢いで動いてる。私、恥ずかしいの?

……ふぅ。

彩奈、いい加減に認めなよ。誤魔化せないよ。自分の事なんだからわかるでしょ?他の誰よりもわかってるでしょ?私、完全にやられてるわ。

まいったなぁ。




夏の海。

今日は1泊2日で伊豆の海に来た。

秋司の親戚が所有している別荘を借りることができた。

花火大会があった夜、BBQの最中に恵が海に行きたいと言い出した。小泉さんも同調してたので、秋司が頑張ったのかもしれない。

場所は伊豆で親戚の別荘があるらしい。使っていいと言われてたけど今までは一緒に行く人がいなかったんだって。

「みんなにはお世話になってるからね。使えるものは使おうと思って」

秋司君、男前すぎる。

朝6時に出発だったので少し眠い。敏彦や恵はテンションがすごい。そんなに楽しみなのか。俺も海は楽しみだけど、それより彩奈の事を意識しちゃってるほうがやばい。すぐに目で追ってしまうし、視界から消えると探してしまう。俺よ、平常心を保つんだ。

「千秋は泳げるの?」

隣に座っている彩奈に聞かれた。

「人並みには泳げるよ。スピードを競うのは無理だけどね。ずっと浮かんで遊んでるタイプかな」

「そうなんだ。私は全然泳げないから。海って少し怖いし」

「俺も最初は怖かったよ。プールと違って底が見えないからね。大丈夫だよ、一緒にいれば何かあっても助けられるし」

泳げない人は怖いだろうから、俺がフォローをしよう。

それよりも、彩奈の水着で鼻血でちゃったらどうしよう。

「お仕事はどう?頑張ってる?」

「うん、今は夏休みだから週に2~3日働いてるよ。雑誌の撮影とかじゃなくて、TVや映画のエキストラが多いかな。こないだ一言だけどセリフ付きの仕事があった。おはようございますって挨拶する役」

「へぇ、モデルじゃなくて俳優方向の仕事にシフトしてるんだ。また一緒に仕事したいね」

俺と彩奈の仕事が重なるのは基本的ないからな。売れっ子と新人だしね。

「いつか一緒に仕事できるように頑張るから」

「また恋人役?」

「いっぱしの仕事任されるのに時間かかったら、熟年夫婦役とかになるかも」

「そんなに待たせるの?すぐに上がってきてよ」

俺に寄りかかる彩奈に頑張ると答えた。


青い海。白い砂浜。そして沢山の人。夏の伊豆は大混雑だな。

カップルから家族連れが沢山。海の家も大盛況。

まずは別荘に荷物を置いて水着に着替える。男の簡単に着替え終わる。

「なぁ、千秋よ。安西の生水着見れるぞ。雑誌越しにみていた水着姿が目の前に」

「本人の前でそんな事言ったら嫌われるぞ」

「おぅ」

敏彦は思っても口にしなければいいのに。心の中では俺だって思ってるさ。

浮き輪に空気を入れながら注意しておく。

「お、来たな」

居間に女の子たちが入ってきた。

最初に入ってきたのは恵。ピンクのビキニが可愛らしい。何が凄いかといえばそのお胸。こぼれそうです。体の栄養が全部胸にいってるだろ。

桂子さんは紺の水着。お胸は標準?スレンダーボディが素敵。秋司照れてるな。

最後に入ってきたのは彩奈。白のビキニ。すごくグラマラス。恵ほどじゃないけど、立派なおっぱい。腰のキュッとしたくびれが、体のメリハリを強調している。白くてすべすべの肌。艶のある太もも。最高のパーツが至高のボディを作り出している。

こんなの目が離せなくなるに決まってるじゃないか。

「あれ~、千秋は彩奈ちゃんに見惚れちゃったのかな~?」

恵に脇をつつかれてしまった。

「彩奈もそうだけど、恵も桂子さん凄く綺麗だね。ただ、あんまり俺たちから離れないでね。すぐに悪いやつらが集まってくるから」

こんなのナンパされまくりだろ。

「千秋は泳がなくていいよ。ずっとあたしたちのエスコートしてなよ。ね~、彩奈ちゃん」

「エスコートはするさ。こんなんでも男だしね」

でも恵は自分からどっか行っちゃいそう。

彩奈が俺のそばにきて腕をつかむ。なんだ?

「じっとして。動かないでね」

左の二の腕に何かシートを張っている。濡らしてはがすと百合の紋章が。タトゥーシールか。

「ほら同じ。事務所で先輩に貰ったの。百合の紋章ってかっこいいよね」

彩奈と俺の二の腕には5センチくらいの百合の紋章が刻まれた。

「彩奈は日焼け跡を残して大丈夫なのか?」

「これからは秋・冬の撮影だから二の腕は大丈夫だよ」

「そうか、じゃあ旅行中は百合の紋章を通して、俺と彩奈はつながっているんだな。ありがとう」

それじゃあ海に行こうかな。

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