第2話 映画で泣く男


新しいクラスになり2週間が過ぎた。

仲のいいグループが出来上がり、俺は敏彦と恵と安西さんと同じグループになっている。

恵は誰とでも仲良くなれるので、クラスでも中心人物となっている。安西さんは女子とは普通に話すが、男子には塩対応のままだ。俺は恵と仲がいいせいもあって普通に会話してくれる。俺と仲のいい敏彦も少しは話ができてるみたいだ。


ある日、教室で弁当を食べてる時に恵がファッション雑誌を取り出した。

「ねぇ千秋。ほらこの雑誌は今日発売なんだけど彩奈が沢山でてるんだよ~」

ページをめくると色々な服でポーズを決めている安西さんがいた。

「へぇ、こんな仕事してるんだ。可愛いく撮れてるね。ほら、この服の安西さんなんてものすごく大人びてセクシーだと思うよ」

「別に仕事だから。でも、ありがと」

おぉ、安西さんのありがとう頂きました。

横では敏彦がすげーすげーと叫んでいる。クラスの男子の何人かは雑誌を買っていたようで、こそこそと見ているのがわかる。

「彩奈ちゃんは私が育てた。つまり私は師匠。師匠は偉いのだ。わっはっはっ!」

恵が何故か自慢気に言ったので、

「恵は俺が育てた。つまり恵の師匠。師匠を崇めたまえ」

恵の弁当から卵焼きをつまんで口に入れた。

「ああっ、私の大事な卵焼きが。ひどい~、彩奈ちゃん何か言ってやって」

安西さんは、恵の弁当と俺の顔を見ながら、

「では、私がこうすれば問題解決ですね」

俺の弁当箱から卵焼きをつまんで口に入れた。

「あー、彩奈ちゃんずるい!彩奈ちゃんと千秋には戦利品があるのに私は取られただけじゃん」

頬を膨らましながらプリプリ怒る恵はかわいいなぁ。しょうがないので弁当に入っていたプチトマトを恵の弁当箱にぶち込んでおいた。俺トマト嫌いだし。安西さんもブロッコリーを恵に渡していた。それ嫌いな食べ物でしょ?




ある日の放課後。

「ねぇねぇ、千秋。今日から上映の映画で彩奈が出演してるの知ってる?」

「知らない。映画とか随分見に行ってない。俺、TVもあんまり見ないし。安西さんごめんな。安西さんが頑張って仕事してんの全然しらなくて」

「別に構わないわ。私が好きでこの仕事をしているだけだから。大騒ぎされるほうがイヤよ」

安西さんは自信をもって答えてくれた。

「そうだよ~。彩奈は頑張ってるんだよ。えらいえらい」

恵が安西さんの頭を撫でている。素直に撫でられている安西さん可愛いな。

「そこで千秋。週末は映画を見に行くよ。彩奈ちゃんの雄姿を見に行くから」

はぁ?

「そんな顔しない。友達の頑張りを見るのも大事なことだよ。それに千秋には恋愛成分が欠けてるから。彩奈ちゃんの映画みて勉強するように。ねぇ~、彩奈ちゃん」

「恵、恋愛の勉強できないよ。あの映画は悲恋物で失敗しちゃうやつだから。上原君の恋愛が失敗しちゃうから」

安西さんが恵に突っ込んでいる。俺の心配してくれるなんて珍しい。

「いいんだよ~。千秋は人生の辛さを味わったほうがいいよ。絶対行くからね。あたしと千秋と彩奈ちゃんでね」

ええっ?私も!?と言う安西さんだが、恵の勢いに押されて、映画を見に行くことになったのだ。



その週末。

映画館の入っているショッピングモールに俺たち3人はいた。

3人ともカジュアルな恰好だが、さすがは安西さん。物凄くカッコよくて綺麗。

普段の学校での姿をは違った美しさである。

「安西さん可愛いね。よく似合ってると思う。プロに言うのも変だけど」

「そう?普通よ。でも悪い気はしないわ。上原君もかっこいいよ」

お世辞でもうれしいね、安西さんに言われると。

「ねぇ、ちょっと。あたしは?褒めどころ沢山あるでしょ~」

横でぴょんぴょん跳ねながら恵が五月蠅い。

「ちゃんと見てるって。可愛い、十分に可愛いよ。君ら2人と一緒で俺も鼻が高いよ」

でしょう?と急にご機嫌になる恵。チョロすぎるだろ。安西さんはそんな恵をみてクスクス笑っている。

「じゃぁ行こうか。お嬢様がた。映画の時間もあるしね」

俺たち3人は映画館に向かった。


……うぐっ…っつ。

映画を見終わった俺は放心状態だ。

席から立てないでいる。

映画は素晴らしかった。最初は普通に見ていたけど、段々夢中になって見ていた。

感情移入したら最後。

「ほら、千秋は涙ふいて」

俺は横から恵に涙を拭かれていた。

「だってあんまりだろ。あんなに好きあっていたのに」

「だからって千秋は泣きすぎだよ~」

「安西さん、俺はちゃんと応援してるから。ヒロインと安西さんが幸せになれる人が見つかるように応援する」

「あの、映画ですから。現実の私は別に恋してないから」

「そんなのどうでもいいよ。俺は悲しいんだよ。ヒロインと安西さんが報われないのが嫌なんだよ。君たちは幸せになるべきだ」

悲しすぎて何が何だかわからない。

「上原さんは涙もろいんですね。監督もこんなに泣いてもらえたら嬉しいでしょう」

安西さんはふふっと笑った。


喫茶店でランチを食べながら映画の話をした。

「俺、愛とか恋とかよくわからないけど、ヒロインと安西さんには幸せになってもらいたかった。映画の作り直しを要求する」

恵に現実じゃないからねと突っ込まれた。

「安西さんの演技もよかったよ。ヒロインの妹役って全然違和感なかった。なんか普段と違う安西さんが見れてよかった」

「そこまで自分を主張する役じゃないからね。でも褒めてくれてありがとう。言葉一つ一つが励みになる」

安西さんの微笑みは美しい。

「千秋も彩奈ちゃんの凄さがわかったか!彩奈ちゃんはすぐにもCM女王になって、日本を代表する女優になって、そんでもって歌って踊れるアイドルになるんだよ。そんで私はマネージャーね。千秋は運転手で雇ってあげる」

恵がまた馬鹿な事言い出した。

「よし、俺の将来は約束されたも同然だ」

「時給900円だけど」

「おい、社員じゃないのかよ。バイトかよ」

「私がダメになったら2人とも路頭に迷うのね。そしたら3人で公園の掃除でもしましょうか。時給900円で」

俺たちの会話に安西さんがのってきた。

男性に塩対応の安西さんも俺にはだいぶ慣れたみたい。こんな冗談言えるんだから。沢山話をしてもっと仲良くなろう。



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