9日目 徒労

 魔術師志望の写本師オペレーター、コタンは〈まじない通り〉と呼ばれる商店街をうろついて死霊術師ネクロマンサーを朝から探していた。

 テクールトリは王国の中では割と大きな市で、様々な人種・職業の者が集中して暮らしている。健全な商いをしている者から闇に属する怪しい生業のものまで、人手には困らない印象があった。


「いらっしゃい。今日は何を占ってほしいんだい?」

「えーと、死体を動かせます?」

「はあ?」


 しかし、なかなか生粋の死霊術師は見つからなかった。

 このプロジェクトのために設立された本社の〈全自動本部〉からの指示だと、出来れば本当に人間を生き返らせることができる技術を持った人間を探してほしいらしかったが、見つからなければ妥協してもそれらしい人材を見つけてくるようにとのことだった。以下のランクが設定された。


【ランクA】

死んだ人間をよみがえらせ、そのまま健康的に天寿を全うさせられる

【ランクB】

死んだ人間をよみがえらせるが、その日の戦が終われば死んでも構わない

【ランクC】

死体を動かせ、戦わせることができる

【ランクD】

死体を戦っているように動かすことができる

【ランクE】

死体を動かせる


 王都に売り込む魔機構システムは、雇い入れた死霊術師ネクロマンサーの内容によってその仕組みを決めるため、まだ全体像はしっかりと完成してはいなかった。そのため、出来ればできるだけランクが高い人材が望まれた。


 高名な白魔道師や聖職者であれば死んだ人間を蘇られる奇跡を行えるらしい。コタンも話には聞いていたが、単価が恐ろしく高いし、そもそもよこしまな商売に協力してくれるはずがない。はっきりそう説明されたわけではないが、本部からはそういう方面には求人を出さないようにと指示があった。


 コタンは夕方まで市内を歩き回り、何一つ成果を得られないまま支社への帰路についた。途中で同じ支社の女写本師オペレーターのムリエラの姿を見つけたので、一緒に支社に帰った。

 コタンは先日話しかけられたことでムリエラを好きになっていたので、一緒に街を歩けてうれしかった。


 テクールトリ支社で、人材を発見できた人間はいなかった。

 皆、明日の会議に出ることを不安がっていた。


 上司のアムラトはもう少し探してみると言って市中に出ていった。

 職業あっせん所などに出した求人登録の結果を見てくるとのことだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る