クルや――愛犬にまつわる20の話 🐶

上月くるを

第1話 プロローグ





 濃密な歳月をともにした犬が逝ってから、死角だらけの古い木造2階建てが急に怖くなり、家中をひと目で見渡せるコンパクトなワンルームの平屋に建て替えた。


 地元の工務店が丹精してくれたお洒落で機能的な造り付け書棚の上に、行きつけの写真店でDTP加工した家族写真のA4判パネルを5枚、横一列に並べてある。



 そのいずれにも黒犬「クル」がいる。🐕



 姉むすめに連れられて散歩していたり、妹むすめとじゃれ合っていたり、姉妹の弟として雛壇の前に並んでいたり、猫つぐらならぬ犬つぐらで丸くなっていたり、雷鳴を恐れてピアノの椅子の下に潜りこんでいたり、叱られながら成人式の振袖に飛びついていたり、初めてやって来たむすめの婚約者と見つめ合っていたり……。


 シングルマザーのわが家で唯一の男子の中型犬は、白ソックスを履かせたような4本の足先を除いて全身真っ黒の凛々しさゆえに、一見コワモテ、じつは人(犬)一倍ビビリの頼りなさながら、しごく当たり前の存在としてそこに存在している。



 いままでも、これからもずうっと。☆彡

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