第6話 ポンプとパネルと俺と「ヤツ」

「電気は屋上の太陽光パネルが活きてたら最低限の設備が動かせるんだが。せめて揚水ようすいポンプだけでも動けばいいなあ」

(揚水ポンプとは何ぞ?)


 頭の中の「ヤツ」が尋ねてくる。


「あー、低いところにある水を高い所に上げるポンプだな」

(井戸のアレじゃな)

「んー、まあそれの電気で動くヤツというかなんというか」

(電気とは何ぞ?)

「あーもう! 電気の話はまた今度な!」

「ユーマ様、大丈夫ですか? 頭、大丈夫ですか?」


 ブツブツ独り言を言っている――ようにしか見えない――俺にアイが無表情に言った。


「大丈夫だ心配しなくていい。あと言い方をもうちょっとマイルドにしてくれると俺は嬉しい」


 俺はアイを伴って非常階段で屋上まで登る。館内巡回のワークスケジュールがあるため、慣れているとはいえやはり階段はつらい。歳のせいか。三十路みそじだからなのか。単に運動不足だと思いたい。



 ――結論、太陽光パネルは生きていた。ついでに異世界このセカイの陽光でもちゃんと電気を作れるようだ。よかった。コレ取り付けるのは結構迷ったんだよなあ。20年で設備投資分は回収できますから、とか設置業者のセールス担当に言われて。20年。20年て。生まれた子供が成人式で暴れるところまで育つぞ。


 あの時の設備投資が異世界こんな所で役に立つとは夢にも思わなかった。とりあえず揚水ポンプの先をホースかなんかで川に繋げば水の問題は解決だな。水質については保健所もないだろうし気にしないでいいだろう。よし、気にしない。気にしないことに決めた。俺が決めた。今決めた。


「あとは湯をどう沸かすか……。それと部屋の清掃と、うーむ。どう考えても人手が足らん」

(ほう、手が足らんのか)


 うむ、どうしたもんだろうか。

 異世界ここでホテル運営を再開するまでの道のりは長そうである。

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