神の濡れ衣を晴らす

「あんた達、

こんなことしてないで

早く神のところに行って

許しを請うた方が

いいんじゃあないのかい?」


薄ら笑いを浮かべる愛倫アイリン

天使等は自分達の異変に焦っている。


「これは一体、

どういうことだっ!?」


「あんた達が

知らない筈はないと思うんだけど


あんた達の神は

こちらの人間世界でも

一神教の神として

崇め奉られているんだろ? 昔から」


一神教を名乗っている以上、

例え、異世界であろうが、

併行世界であろうが、異次元であろうが、

神は唯一の一柱でなければならない、

それが一神教に関わる者達のルール。


「でもこの世界の人間達は

物質至上主義文明の

極みみたいなものだからね


本気で神を信仰している人間は

少ないんだよ、特にここ日本ではね


ここでの宗教ってのは

人間の生き方や有り様、

その指針ってところなのさ


だから神もあたし等の世界程

強権がある訳ではなくてね


神もとどの詰まりは

信者の多さが物を言うから、

まぁ人気商売みたいなもんなのかね」


まずはこの世界での

神が置かれている状況から

説明をはじめた愛倫アイリン


「そうした状況で、

連続突然死事件の真犯人が

あんた達天使だったってことが、

人間達の間に広まりはじめた


例えば、警察関係者とか


ネットなんてもんでも、

既に噂として拡散されてるんだよ


それで、あんた達の神が

実は事件の黒幕なんじゃあないかと

人間達から疑われちまってる訳さ


この世界の言葉で言うなら

『絶賛炎上中』ってとこかね


このままだと

今いる信者達からの信頼ですら

失いかねないからね


この世界でこれ以上信者が減ったら

神としても致命傷になりかねない」


「なんでね、神としても、真犯人には

処罰を下さなくちゃならないんだよ


真犯人を処罰して、

破門して放逐しましたと

明白にしなくちゃならない、

そうじゃないとそれこそ

信者を含め人間達が納得してくれない」


「だからあんた達の

堕天がはじまったって訳さ


あんた達は神の潔白を証明する為に

蜥蜴トカゲの尻尾きり、

生贄にされたんだよ


人間じゃなくて天使が生贄にされるとか

随分と気が利いた冗談じゃあないか」


口角を釣り上げ

悪魔的な微笑を浮かべる愛倫アイリン

それは美しくもあるが

やはりどこかに闇の眷属らしさがある。



愛倫アイリンの概念的な説明に

納得がいかない様子の天使達。


「なんで、そんな噂が

人間なんぞに広まってるんだっ?」


「そりゃあ、あたしが

噂を流してくれって、

この人達に頼んだからに

決まってるじゃあないか」


愛倫アイリンは後ろに居る

移民局の慎之介、大泉警部等を指差す。


「てめえっ!」


「このクソビッチ!」


「なんてことしやがるっ!」


三人の天使達は口々に罵った。


「やだねぇ、

むしろあたしは、

あんた達の神の濡れ衣を

晴らしてあげようって言うんだよ、

あんた達を捕まえることでね」


「その濡れ衣を着せたのは

あんた達なんだからね」


-


愛倫アイリンからすれば

人間がいなければ

神も悪魔もサキュバスも

存在し得ない筈という

自らの信条に基づいて、

概念的な決着を目論んでいたのだが、

天使達にはどうにも解せないらしい。


「とりあえずお前達を倒して、

それから神に弁明させてもらうぜっ」


「おや、やっぱりそうなるのかい?


でも神の加護が弱まっているあんた達に

どこまでやれるのかねぇ?」



深呼吸をする愛倫アイリン


 ――淫夢いんむせめ


その言葉と共に歪む空間。


「これはあんた達の奥底にある

欲望を具現化して、

攻撃手段にする術だからね


天使にどんな欲望があるのか

あたしもちょいとばかし

楽しみってもんさね」


力が弱まっている天使達は

愛倫アイリンの術に掛かり、

自らが心に抱く神に痴態を晒しはじめる。


「あぁっ、神よ、お許しくださいっ」


「もっと、もっと、叱ってくださいっ」


「もっと、お仕置きしてくださいっ」


神に自らお仕置きを懇願するドMな天使、

それが彼等の欲望ということになるのか。


「こりゃまた随分と

おったまげるような話じゃあないかい


神にSM風のお仕置きを懇願する天使なんざあ、

悪い冗談過ぎて笑えやしないよ


あんた達、この際、このまま

ささっと堕天しちまった方がいいよ」


-


それから、今回の問題を起こした天使達は

許しを請う為に、

一神教の神の元へと逃げて行った。


後は一神教の神が

相応の処断を下すであろうし、

いずれにしても

天使達を捕まえたところで

人間の法で裁くことは出来ない現状、

強制送還というのが関の山、

どちらにしても大して変わりはない。


それが慎之介と愛倫アイリン

下した判断であった。



「この度は世話になったな

異世界から来た闇の眷族よ」


その場に居た死神は

サキュバスである愛倫アイリンに礼を言う。


「あぁ、あたし達は、

何千年単位の寿命だからね

この先もいろいろと世話になると思うけど、

こっちこそよろしくお願いするよ」


人間の魂が見える者同士として、

死神とはこの先も

長く付き合いになるだろう、

愛倫アイリンはそう直感していた。


「ずっと思ってたんだけどね、

あんたは随分と優しい

多神教の神なんだね」


「ここの人間達も時代と共に

随分と変わってしまっているからな


いつまでも昔のままという訳にも

いかないのだよ


こちらから人間に合わせて行くことも

必要ということかな」


「それで、そんな

西洋風な死神スタイルって訳かい」


人間の持つイメージに合わせて

日本土着の死神もその姿を変えている、

この世界ではやはり

人間が神に与えている影響は

少なくないということか。


「この世界の人間達に

天罰や神罰を本気で信じてる者なんて

ほとんどいないも同然だからね


だから神でも炎上するし、

神にもコンプライアンスが必要ってことかね」


そう言って苦笑する愛倫アイリンだった。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る