第6話 最後の被害者と犯人の影

「しいーっ。ラブ、OK?」

「OKよ。ビューティー」


 グラマラスバディーと僕らは、西スミカ小学校に着いた。

 今日の黄色い帽子の下校時刻は四時間目。

 一時頃には犬走りを通って、正門に来る。


「捜査本部で、今までの被害者小学生A、B、C、Dについて検証した甲斐がありました」


 僕はグラマラスバディーに対して尊敬し、頭を垂れる。

 驚くことに、AとBが、雑誌サクラに可愛い新一年生と紹介されていたんだ。

 ラブさんがその記事をデータベースから引っ張って来た。

 ビューティーさんが示したのは、Cが子役だったり、Dはお父様が外交員で奥様は元女優のお家だと言うことだ。

 いずれも美少女揃いな訳とは、犯人の心理は、どうなっているんだ。


「次のターゲットは予想を付けましょうよ。ビューティー」

「そうね。犯人のアキラに負けていられないわ」


 ラブさんとビューティーさんが頷き合っている。

 次の被害者の特徴まで分かってしまうのか?


「100010101001010011111……。イニシャルは、11番目のアルファベット『K』と19番目のアルファベット『S』です。K.S.さんとなります」


 ああ、先程の小型通信機でイニシャルを知った訳はこうしてか。

 ただのまじないかと思っていた。

 いや、そうとも思えるが。


「ラブ。頼むわ」


 ビューティーさんが、長い睫毛を震わせる。

 ラブさんは、黒いバッグから、編み針と――。

 辞書を取り出した?


「行くわ。お願い、編み針さん教えて!」


 辞書を右手に持ち、編み針を使ってさっと開く。


「瞬間的に目に止まったのが、その単語、『刹那せつな』だったの。仏教の時間で最小単位ね。これは、殆ど閃きよ」

「私は、三國捜査本部長に西スミカ小学校一年生の名簿をメールで送ってもらうわ」


 ビューティーが、捜査本部と連絡を取る。


「後は、学校のデータから分かったわ」

「彼女の名前、『せつな』で、イニシャルが、K.S.さん。それだけでいい」


 僕は固唾を呑んだ。


「一年一組、近藤こんどうせつなさんですわ!」

「一年一組、近藤せつなさんですね」


 二人は声を揃えた。


「数字と辞書で、ここまでできるんですね。僕、驚いてばかりです」

「私の場合は、閃きの切っ掛けにいいわ」

「私は、『0』と『1』しかお友達がおりませんが」

「いやん、ラブがいるじゃない」

「そうだったね」


 さて、名前まで分かったんだ。

 今度こそ、犯人を逃せない。

 アキラとか言うな――。


 ◇◇◇


 その日は、四時間授業だと聞いた。

 下校は一時。

 僕らにも緊張が走る。

 あの日、「小学生連続誘拐事件捜査本部」の看板が掲げられたときと同じ電撃のようだ。


「ビューティー、そろそろ児童が昇降口に現れて来たわ。私は、どうしたらいい?」

「今度のもの世界美術祭せかいびじゅつさいに出品する作品、そろそろ仕上げるのでしょう? 楽しみにしたらどうですか」

「……うん」


 ビューティーさんが一人の子を指し示す。


「近藤せつなさんは、あのお嬢様ですね。今日は白いカーディガンにグレーのスカートを着ていると、校庭で二十分休みに遊んでいる一年生に聞きました」

「うーん。ビューティーの溶け込みは得意だからね」

「そんなくノ一みたいな所もす……」


 うお。

 僕は何てことを言いそうになったんだ。

 す……。

 酸っぱい?

 いや、常識で考えて、好きですだろう?


「げほん。ごほん」

「大丈夫ですか?」

「ラブさんも優しいですね」


 僕に微熱がありそうだ。


「正門まであと少し。犯人のアキラは、今何処に?」

「シルバーのセダンだって聞いたわよね」

「あの如何にもなサングラスをしている男性ではないですか」


 キラリと光るサングラス。

 自動車を運転する場合は外してください。

 いや、と言うか、アキラってあの男か!

 アキラは、近藤せつなさんのピンクのランドセルからがばっと覆い被さる。


「きゃー!」

「黙って来い! 静かにしろ!」


 近藤せつなさんを持ち上げたよ。

 真昼間から。


「行くわよ」

「OK」


 グラマラスバディーは二手に分かれた。

 アキラの前にラブ、後ろにビューティーが雌豹のように立ち塞がる。

 喉を鳴らしているようにも聞こえる。


「グラマラスバディー見参! 天網恢恢疎にして漏らさず! 連続小学一年生誘拐犯、アキラ。お覚悟!」


 ぼ、僕は――。


「三國捜査本部長! アキラは、任意同行!」


 僕は、それだけコールすると、現場へ急行する。


「やああ!」

「うわあー。止めてくれ。何もしていない」

「嘘はいけないわ」


 グラマラスバディーにかなり痛い格好にされていた。

 ラブさんが頭から首をしっかと絞めて、もう、ビューティーが勢い余って四の字固めだ。

 しかし、ラブさんのバストは羨ましい……。

 は!

 何考えてんだ俺は。


「三國捜査本部長のご到着です」


 誰かの声に僕は振り向いた。


「他の小学生はどうした?」


 ラブさんが手を緩める。


「げほっ。げほ。俺は知らねえ。そんなこと知らねえよ」

「白状しなさい!」

「もう一度眠りにつく? 私達で締め上げてもいいのよ」

「そうですよ」


 現場に警察官らが集まる。


「この車は、アナタの物ね?」

「……そうだと言ったら、そうなるんだろうよ!」

「ヤケになっても同じよ」


 ビューティーが犯人に迫る。


「さあ、近藤せつなさん。安心してね。もう直ぐパパとママも来るからね」

「ああーん。あーん。ご、ごわがっだー。お姉ちゃん、ごわがっだ」

「よしよし」


 三國捜査本部長が告げる。


「よし! 犯人の免許証から氏名、小林彰こばやし あきらと住所、西区二丁目のアパートが分かった。今から捜査に入る」


 ◇◇◇

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