特別捜査員グラマラスバディー!

いすみ 静江

第1話 特別捜査員グラマラスバディー登場

 ――随分と赤い風が舞うと思う深夜だった。


 学園都市スミカは、スミカ大学を中心に、高等学校、中学校、小学校、幼稚園が全てスミカグループで彩られている。

 静謐に眠りについていた街に電撃が走った。

 僕が巡査になってから初めての事件だ。


「おい、早川俊はやかわ とし巡査。遅れているぞ」

「はい。すみません」


 急ぎ、「小学生しょうがくせい連続誘拐事件れんぞくゆうかいじけん捜査本部そうさほんぶ」の看板が掲げられると、僕らは部屋に飲み込まれて行く。


「よし。全員集まったな。これから事件のあらましを伝える」


 鬼瓦のような顔をした、三國勇実みくに いさみ捜査本部長がホワイトボードを叩く。

 マグネットで留められた二人の黄色い帽子が笑顔を揺らす。


「待って!」


 カカッと女が忍者のように入り込んだ。

 深夜零時丁度。

 とんでもない奴らが現れた。


池田璃子いけだ りこさん、橋本葵はしもと あおいさん。お二人については、もう調べがついています」


 艶肌にロングのストレートがぬばたまの如く映える。

 瞳は目尻が綺麗で、多くの睫毛を従えている。

 これは美しいの一言だ。


「ここは捜査本部だ。部外者は立ち入ってはいかんよ」


 捜査本部長でなくともそう思う。

 超ミニタイトスカートの奇抜なファッションをしているしな。


「お言葉ですが、捜査本部長様。早期解決には、グラマラス・ビューティーとグラマラス・ラブにお任せくださいね」


 先程のが、ビューティーさんだろう。

 こちらのラブさんは、潤い肌にくりくりのボブヘアが飴色に染まっている。

 瞳は、狸の如くまん丸だ。


「私達、コードネームはグラマラスバディー! 全身全霊でお助けしたいと思っております」


 そして、ビューティーさんが屈むと、太ももからシルバーに光る旭日章きょくじつしょうをすっと差し出す。

 ラブさんのはち切れそうなバストに手を差し込むと、ゴールドに輝くそれが示された。

 これが、こども雑誌に載っていた『たたかえおねえさん』か?

 グラマラスバディーが、本当に存在するなんて!


「難事件は必ず解決! 真一しんいち様指令下の特別捜査員とくべつそうさいんです!」

「シンイチ? 誰ですか?」

「うおっほん。自分もシンイチ様は知らないな。そんな玩具みたいな手帳で誤魔化されないよ。さあ、二人とも叱られない内に出て行きなさい。ここは、捜査本部だ。自分が任された大事な事件なんだ」


 冷やかされた感じにもムッとせずに二人の目は輝きを増した。


「犯行の証拠と引き換えでもかしら?」

「犯行の証拠と引き換えでもですか?」


 ラブさんとビューティーさんは声を揃えた。


「何だって! グラマラスバディーは、何者なんだ。三國捜査本部長、話を聞いてみるのもいいかと存じます」

「早川巡査か。おっほん……。君に免じて話を聞こう」


 ラブさんが髪を耳に掛けて甘く礼を言う。

 時計の針は、零時半に近かった。


「ありがとうございます。早川巡査。三國捜査本部長」


「先ずは、01010100010101……。それに、101010101111111001001を鑑みて、計算によると――。この小学一年生誘拐事件で、被害者は合計五名は続出してしまいます」


 ビューティーさんが、ホワイトボードに、『5』と番号を振った。


「一、池田璃子いけだ りこさん。二、橋本葵はしもと あおいさん」


 僕にはどんな計算か分からなかった。

 新手の占いなのか。


「誘拐された順序は、その通りだが。まだ報道も規制しているのに、何故分かった? ビューティーくん」

「ビューティーは、ルーマニアで計算を学んだらしいわ」


 人差し指を口元で立てるラブさんが、ちょっと可愛らしいと言うか。

 ああ、巡査でありながら煩悩はいかんね。

 ビューティーさんは、すましている。


「得意なものが君にはあるのか? ラブくん」

「私は、犯人からの脅迫状を持っております」


 僕も含め、皆ざわついた。


「犯人の深層心理が表れているわ」

「そんなに大事な物があるのなら、我々に渡しなさい」


 捜査本部長のすっと伸ばされた手を、ラブさんはウインクでバッチリと返した。


「いやだーん」

「がくっ。ラブさんったら」


 三國捜査本部長は、鬼の三國との呼ばれている。

 このままでは、彼女が危険だ。


「ラブさん、素直に応じた方がいい」


 僕の囁きにもラブさんはウインク返しをしたが、どうも微熱っぽい。


「じゃあ、ホワイトボードにコピーを留めるわ」

「勝手にコピーを取ったり、掲示してはいかん」

「分かったわ。脅迫状の元はこちらよ。三國捜査本部長、どうぞですわ」


 ラブさんは、しなやかに舞うようだ。

 脅迫状は、三國捜査本部長の手にある。

 じいっと眺めては、気難しい顔をし、顔面がころころと変わる。

 それだけ、集中なさっているんだ。


「コピーとの違いに気が付いていただけたでしょうか」


 ビューティーさんがキラリと目元を光らせる。


「この脅迫状は、線対称にコピーを取ったものを混ぜて、新聞記事に書かれている文字を貼っているでしょう」

「あ!」

「おっほん。成程」


 またもや、ビューティーさんの推理にざわついた。

 僕でも直ぐに分からなかった。


「ややこしいのは、どの新聞かです。本文は、こちら――」


 小学一年生を二人誘拐した。

 池田ちゃんと橋本ちゃんは、とてもいい子にしている。

 ケイサツが動けば、もっとお友達ができるぞ。

  アキラ


「特に、『誘拐』の文字が目立ち、署名に『アキラ』とあると真っ先に不審に思う」


 ビューティーさん。

 それ位なら、僕にでも分かる。


「その件に、いち早く気付いたのは、ラブです。言語や心理学に長けています」

「あら、ビューティーの二進法計算も煩いけれども、結構好きだわ」

「ラブ。煩いは余計ですよ」


 ううう。

 三國捜査本部長が、今にもブチ切れそうになっている。


「サクサク事件を解決しましょう」

「第五の犠牲者が出るまでが私達の使命」


 二人で腕を組んでポーズを決める。


「グラマラスバディーに、お任せを!」


 こうして、「小学生連続誘拐事件捜査本部」には、電撃的にお姉さんらが、深夜零時に現れたのだった。


 ◇◇◇

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