閉ざされた街 44 白百合亭再び

 魔族を完全に倒したことでハミルの街を覆う結界はその役割を終えていた。

 結界を作り出したランゼル王国の始祖に連なるアルディアならそれをただちに消すことも可能だったが、ダレスはそれをもう少しだけ遅らせることにする。

 ハミルの復興は急ぐべきだが、治安回復には課題が残っていたし、何よりダレスは〝ネズミ〟を取り逃がしたくなかったのである。

 いずれにしても自分達の帰りを待つエイラやノード達に報告するためダレスは〝白百合亭〟へと向かった。


「良かった!! 生きていたんだね! あんた達!! いつでも帰って来ても良いように食事の準備はしてあるよ!」

 歓楽街まで戻って来たダレス達をエイラが二階から飛び降りる勢いで出迎えた。もしかすると、朝の出発からずっと窓際で彼らの帰りを待ってくれていたのかもしれない。

「ありがたい!! 丁度腹が減っていたところだったんだ! それに今晩はもう怪物達の襲撃に怯えることはない。魔族は俺達が倒した。街を閉鎖している結界も次期に消えるだろう!」

「ほ、本当に?!・・・いや、あんたが嘘を吐くはずがないよね! あああ!!」

 ダレスの何気ない報告にエイラはその場で泣き出す。気が強いように見えて、やはりこれまでの生活は彼女に多大な無理とストレスを与えていたのだろう。

「ああ、詳しいことは他の皆、ノード達を含めて屋敷で報告する。とりあえず中に戻ろう!」

 神殿に向う前に軽く食事は済ませていたとはいえ、既に陽は傾き始めている。〝神の御子〟でも腹は減るし、身体は疲れて休息を必要としている。ダレスは涙を流すエイラを慰めると〝白百合亭〟に戻るように伝える。

「う、うん。皆にも知らせなくちゃ!!」

「・・・今朝はあんたに悪いこと言っちまったな!」

「ううん・・・大丈夫、あたしも気にしてないよ! 仲間が怪物に攫われたのでは、苛つくのも仕方がないからね!」

 その後はミシャがエイラを手伝いながら縄梯子を登りダレス達は〝白百合亭〟への帰還を果たす。

 一時は因縁を持っていた二人だが、既に打ち解けていた。魔族を倒した今では彼女達がいがみ合う理由はないのだ。


 その後は生存者を一階の広間に集めて魔族討伐の報告とこれから方針の伝えることとなった。魔族を倒し、街を覆う結界は時期に消えるが、ハミルが完全に元の平穏を取り戻すには更に時間が必要だ。

 街の周囲にはランゼル王国の力が弱まったことによって山賊達が跋扈し始めている。結界がなくなれば、その手のやからが略奪先としてハミルの街に押し寄せるのは想像に難くない。

 それに対抗するには街の生存者達で自警団を造り上げる必要がある。〝白百合亭〟の生存者には積極的にその自警団に参加してもらう必要があった。

「もちろん、おいらは参加するよ!」

 それらのことを説明したダレスにノードが真っ先に答える。

「ああ、直接戦うことは出来ないけど、ここを自警団の拠点の一つにして衣食住が困らないように協力することは出来る! 皆それで良いね?!」

「ええ、もちろんよ!!」

 〝白百合亭〟の女将がノードに続いて協力を表明したことでエイラを始めとする広場の全員が納得したように、参加を表明する。

 何より自分達の街を守るのである。魔族や怪物との戦いは現実離れしていたが、悪党や盗人を退けるのは当たり前の行為なのだ。

「ああ、直接戦うだけが、戦いじゃない。戦闘に不慣れな者達にはバックアップをお願いしたい!」

 ダレスは彼らの反応に満足を示すとそう告げた。

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