閉ざされた街 28 双子の邂逅

「やはり、あなたは・・・いえ、スレイオン王子、お会いして直後の御無礼を覚悟してお聞きします! ハミルの現在の状況に・・・あなたはどのように関わっているのですか?!」

 これまでアルディアとスレイオンとの間に面識はない。だが、その言動と顔を見ればお互いが血を分けた兄弟なのは一目瞭然であり、彼女は男の正体を看破する。

 もっとも、アルディアはあくまでもユラント教団の神官としての立場を崩さなかった。

 遂に果たした兄弟との邂逅に感情が昂ぶらなかったと言えば嘘になるだろう。それでも、自分がハミルにやって来た理由は復活した魔族を倒し、街を解放するためだ。アルディアは自分の立場を弁えていた。

 また現在の状況において、スレイオンには幾つかの疑問があった。昨晩は彼の捜索と保護を第一の目的としていたが、それは魔族に抵抗するスレイオンを助けて味方とするためだった。

 だが、今は大きく二つの謎がアルディアの心を悩ます。なぜ、怪物がうろつく離宮の中でスレイオンは無事でいられるのか? なぜ、敵である魔族は仇敵の子孫である自分が王家の血に繋がる者だと知っており、なおかつ生け捕りとしたのか? である。

 そして、その答えはスレイオンが敵側に寝返っているという仮定で全て説明が出来た。

 それ故にアルディアの生き別れの兄弟への第一声は、再会の喜びではなくスレイオンに王家としての責任を問い質す言葉となったのである。


「ふふふ、赤子の時に引き裂かれた兄弟の再会にしては、ずいぶんご挨拶じゃないか? アルディア! 俺がユラント教団の荒ぶる司祭として噂されていたお前が双子の兄弟と知った時には、このハミルに幽閉されていなければ真っ先に会いに行こうと願ったぐらいなのだぞ。何しろ、お前を暗殺する計画が王家の中で密かに立ち上がっていたのだからな!」

「わ、私の暗殺?!」

 質問の答えではなかったが、スレイオンの言葉にアルディアは驚きの声を上げる。

「そうだ! お前も既に真実を聞かされていると思うが、俺達は王族でも前妃の血を引いている。後妻として父の新しい妃となったあの女からすれば、俺達は自分の子を王位に付ける邪魔な存在でしかない! 肺病を患った俺をハミルに療養の名目で追放し、病状に尾鰭をつけて後継者から遠ざけはしたものの、お前は健在だ。この国では女人(にょにん)にも王位の相続権が存在する。確実を期すためにはアルディア、お前の存在が邪魔だったのだ。そして正式な王族である俺を暗殺するわけにはいかないが、真実を隠されてユラント教団に預けられてお前は別だ。俺は・・・俺を失脚させたあの女に・・・俺を捨てた王家に復讐するためもあったが・・・お前を救うために・・・」

 それまでは冷笑を浮かべていたスレイオンだったが、事情を説明している内に現妃への怒りと恨みを思い出したのだろう。昂ぶった感情によって言葉が途切れる。

 それでもアルディアはことの真相を理解した。スレイオンの言う全てが真実とは限らない。

 だが、王位への道を閉ざされ、唯一の兄弟である自分が現妃によって暗殺されることを信じた彼は、王家に対して絶望し最悪の選択をしたに違いなかった。


「・・・それで、あなたはこの地に封印されていた魔族を解放したのですか?」

 アルディアはスレイオンの言葉を引き継ぐように問い掛ける。あってはならぬ選択であったが、詰問ではなく優しく問い掛ける形になったのは、自分が深く関わっているだろう。

「そうだ・・・俺が魔族を解放した。噂では頭の中まで筋肉が詰まっていると聞かされていたが、さすが俺の兄弟だ。察しが良いな。あいつが夢の中に現れ、俺を甘言で誘い封印を解こうとしているのは以前からあったことだ。・・・当時はその誘惑を王家の義務として撥ね付けていたが、王都に放っていた密偵がお前の存在と暗殺計画を嗅ぎつけたところで、受け入れることにした! 俺一人だけなら冷や飯も我慢出来たが・・・僧籍に入れてその存在すら秘匿していたお前を暗殺しようとするこの国の王家が許せなかったのだ!」

「そんな・・・私なら・・・」

 自分の存在と暗殺計画がスレイオンを狂わせたことにアルディアは絶句する。話の一部で酷(ひど)く失礼なことを言われた気もするが、それは捨て置き『私なら暗殺者なんて返り討ちにしてやるのに! いや、むしろ返り討ちしみたい!!』の言葉も飲み込んだ。

「だが、心配しなくて良いぞ! 当初こそ復活した魔族に暴走を許してしまったが、今は俺の管理化にある。アルディア、お前ならこの街を覆う結界を打ち破ることが出来るはずだ! 外に出られれば、魔族の力を使い簒奪された王位をこの手に戻すことはもちろん、隣国の帝国も平らげてやろう!  そして、二人で新たな王朝を打ち建てようではないか! ふははは!」

 アルディアの絶句を怯えと判断したのだろう。スレイオンは彼女を宥めつつも自身の野望を口にする。そして、それも最後には狂気に満ちた笑い声に変るのだった。

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